皮肉なことに、ダイブコンピュータの普及によって増加した減圧症!?
今回から、ダイブコンピュータと減圧症などに関して、記事を書かせていただくことになった今村昭彦と申します。
本業?は、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに勤務しており、取扱説明書を制作したり、ダイブコンピュータの開発などを担当したりもしています。
そして、TUSAホームページ上に「減圧症の予防法を知ろう!」、「ダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間の危険性」などの読物を載せて、減圧症予防の啓蒙活動を行っています。
私がなぜ減圧症とダイブコンピュータの相関関係を独自に研究するようになったかというと、大切な友人が減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにした事と、仕事関係の知人がひどい減圧症に罹患して社会復帰できなくなった事が大きな要因です。
それでいろいろな文献を読み漁って、減圧症の予防方法を調べたのですが、正直言って、これはという予防法(特に潜り方)が見つかりませんでした。
「ダイビングをすれば減圧症に罹患する可能性が誰にでもある」的な印象で、何だかスッキリしなかったというのが正直なところです。
私が減圧症に関する文献を読み漁り始めて最初に気付いたことが、「ある頃から、減圧症にかかったレジャーダイバーが目立つようになった」という事です。
そして、それが、ダイブコンピュータが普及し始めたタイミングと一致するのではないかと思うようになりました。
ダイブコンピュータの登場によって、
皮肉なことに減圧症は増えた!?
今はもちろん、便利なダイブコンピュータを使っていますが、私がダイビングを始めた頃はダイブテーブルで減圧管理をしていました。
その頃、漠然と思っていたのが、最大水深に一瞬潜った時と、長く潜った時でも減圧計算が同じというところへの疑問です。
それは何だか納得が行きませんでした。
そして、その疑問に答えてくれたのが、1990年代後半になって、一般ダイバーに普及し始めたダイブコンピュータです。
最大水深×潜水時間という計算式のダイブテーブルと違って、水深と滞在時間の関係をマルチレベルで計算して行くダイブコンピュータは、まさに理にかなっていると思ったものでした。
しかし、自分もダイブコンピュータを使うようになって最初に思ったことが、「ダイブテーブルに比べて全体的に減圧管理要件が甘い」ということでした。
経験者の方であれば誰でも感じている通り、明らかにボトムタイムで減圧管理をしていた一般的なダイブテーブルより、マルチレベルタイムで減圧管理をするダイブコンピュータの方が長く、時に深く(この言い方は必ずしも適切ではないですが)潜れるようになったことは事実です。
(注:特殊なパターンではダイブテーブルの方が甘い無減圧潜水時間を出す場合もある)
特に繰り返し潜水に対しては非常に寛容になり、ダイブテーブル時代には事実上不可能であった1日5本、6本というようなダイビングも「無減圧潜水時間を守りさえすれば大丈夫」という観点でダイブコンピュータを使用すると、それなりに可能となりました。
人間の身体に減圧症に対する免疫性ができたわけでもないのに、ある意味、大きな規制緩和が生まれたのだといえます。
色々な文献を読んでみると、一般レジャーダイバーの減圧症罹患者数が急激に増え始めたのは1990年代後半からで、それはまさに一般レジャーダイバーにダイビングコンピュータが普及し始めたタイミングと一致します。
ダイビング人口が最大だった1990年代前半ではなく、ダイビング人口が減少し始めた1990年代後半から減圧症罹患者は急激に増えたのです。
私はダイブコンピュータの普及によって、ダイブテーブル時代とは異なる潜り方をするようになった事によって、減圧症に罹患するダイバーが増えたのではないかと、次第に思うようになりました。
減圧症増加の理由とは?
減圧症の発症要因の中で最も大きな要因(直接的要因)となり得るのが、浮上速度オーバーです。
ダイブコンピュータにはアラーム音などで、浮上速度違反を伝える機能がほぼすべての機種に備わっているのに、減圧症患者数が逆に増加してしまった理由は何でしょうか?
その点においては、むしろダイブテーブル時代の方が減圧症予防面で希薄な部分があったにもかかわらずです。
減圧管理法がダイブテーブルからダイブコンピュータに移行して最も大きく変わった点は、ダイバー各々が体内に蓄積する窒素量が明らかに増加したという点です。
ですから、私は減圧症に罹患したダイバーのダイビングをシミュレーターで再現分析して行けば、体内窒素量と減圧症罹患の相関関係が自ずと見えてくるのではないかと考えました。
それからは主にインターネットを利用して、減圧症罹患者のログデータを集め、「最大水深、平均水深、潜水時間、水面休息時間、浮上速度違反の有無」が分るデータを元に、安全な模範潜水パターン(最初に深場に行って、後はゆっくりと浮上して行くダイビング)にすべて置き換えて、ダイビング中の体内窒素量(圧)の変化を分析するようになりました。
現時点で60人以上(ダイビング本数でいうと、300本以上)の減圧症罹患者のダイブプロファイルをシミュレーターで分析を行い、罹患者の傾向がある程度分ってきましたので、この連載でご紹介し、ダイバーの皆さんの安全に役立てれば幸いです。
★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト「減圧症の予防法を知ろう」
http://www.tusa.net/genatsu/index.html