僕はサイドマウントが大嫌い? ~日本のサイドマウント教育に未来はあるのか~

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寺編集長は賄賂に強い?
そして、僕はサイドマウントが嫌い?

皆さま、ご機嫌うるわしく健やかにお過ごしでのことと決めつけさせていただきます。
久しぶりの投稿ですが、よろしくお願いします。

先日、寺編集長に、Razor Sidemout Diver 講習の一部体験記事を掲載していただいた。

プールトレーニングの後で、これは癒着で賄賂で袖の下だからと、事ある毎に念を押しながら夜の栄の繁華街で散財した割に、掲載記事はお世辞感の薄い内容。
さすが寺編集長、はした金でなびいて提灯記事を書くようなヤワな男じゃぁないと、改めて尊敬の念を強めた次第でありました。

それはともかく、記事の中で、僕は巷で囁かれているサイドマウントをアピールするセールストークを否定しつつ、サイドマウントのリスクやデメリットの説明には熱弁を振るった。

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取りようによっては、僕がサイドマウントに恨みでもあって、サイドマウントが大嫌いなみたいな、感じ?

しかし、最初におことわりしておきます。
僕はサイドマウントが大好き。

年間のダイビングの、おそらく2/3近くはサイドマウントを使っているし、ここ何年かは、サイドマウントの本場、メキシコのユカタン半島で毎年100日以上を過ごしながらサイドマントダイバーとして、またインストラクターとしてのキャリア&レベルアップに励み、けっこうなヴォリュームと時間とお金をつぎ込み続けている。

僕の一番のお気に入り装備はサイドマウント。ケイブダイビングでは講習でWタンクを使う以外はほぼ必ずサイドマウントを使っている

僕の一番のお気に入り装備はサイドマウント。ケイブダイビングでは講習でWタンクを使う以外はほぼ必ずサイドマウントを使っている

で、あるにもかかわらず、なぜ、記事の中ではまるでサイドマウント嫌いのごとく、サイドマウントのリスクやデメリットばかりを強調したか?

それが今回のお話しのメインテーマです。

結論を端的に言えば、その理由は、間違ったアピールによって、間違った普及の道に迷い込んだモノは、決して健全に育たない、という視点から、現状の日本のサイドマウントに危機感を覚えているから。

サイドマウントが“楽”は本当か?
粗探しが必要なワケ

ここからは分かりやすく例を上げていこう。

例えば、サイドマウントはENやEXが楽という眉唾について。

楽という言葉に魅力を感じてサイドマウントをスタートしたダイバーは、当たり前だが、ENやEXが楽だという前提でダイビングする。

眉唾がバレないために、ビーチダイビングのENポイントに、予めセッティング済みのタンクが運ばれていて、アシストスタッフがBCへのタンクのセットをサポートしてくれたりすれば、その時点では、眉唾はその正体を隠し通せるかもしれない。

しかし、もし、ダイビング中に海況が悪くなってEXポイントの状態が厳しくなっていたらどうだろう。
体の両脇に重いタンクがぶら下がるサイドマウントのビーチでのEXは、シングルタンクのバックマウントを使っている場合のそれより、明らかに難しい。

サーフゾーン手前でうまくタンクを外せたとしても、タンクを手で持ちながらEXする必要があるし、万が一タンクをセットしたままサーフゾーンに入ってしまったら、そこで立ち上がって、そのままEXを続けるのは、楽という言葉が意味する状態とは程遠い。

サポ―トスタッフがいてタンクを外してもらうにしても、荒れたサーフゾーンでサポートスタッフのサポ―トを受けるとか、サポ―トの順番待ちをするなんて状態は、楽という言葉に惹かれるタイプのダイバーが望む状態とは完全にかけ離れているはずだ。

そこでもしトラブルが起きれば、日本の場合、サイドマウントは危険という意見が飛び交い、このポイントではサイドマウントの使用を禁止にしよう、なんて提案まで出てくるかもしれない。

セノーテのケイブダイビングのENポイント。波もうねりもなくEN用の足場にタンクを並べて置ける環境。水面でのタンクの脱着が楽、というアピールは、ここでなら嘘でない

セノーテのケイブダイビングのENポイント。波もうねりもなくEN用の足場にタンクを並べて置ける環境。水面でのタンクの脱着が楽、というアピールは、ここでなら嘘でない

一方、サイドマウントのEN・EXはシングルタンクのバックマウント以上に難しく、EN・EXにまつわるリスクもシングルタンク以上に大きい、という前提でダイビングをスタートする場合を考えてみよう。

まず、ポイント選びの際、EN・EXの難易度に対して、シングルタンクのダイビング以上に慎重になるだろう。
続いて、海況変化に対する判断も慎重になるし、万一、ENポイントからのEXが難しくなった場合のバックアップのEXポイントを予め決めておくとか、最悪はサーフゾーン手前で片側のタンクを捨て、サーフゾーンに入って立ち上がる際は残りのタンクも捨てて体一つで陸に戻る、なんていうエマージェンシーのEXスタイルも考慮するといった、リスクに対する対策や対応も可能になる。

ボートダイビングの場合も同じ。
サイドマウントでのEXは、よほど設備の整ったボートを使わない限り、EX前にタンクを外し、それをボートスタッフに渡さないと、ダイバー本人はボート上に戻ることができない。

例えば、海面が穏やかでボートの縁が低いダイビング専用船ならボートにつかまりながらタンクを外し、さらに外したタンクをボートスタッフに渡すという手順も、さほど苦にならないかもしれない。

しかし、想像してみてほしい。
海が荒れて海面や船が大きく動いていたり、風が強くて、風の影響をダイバーより大きく受ける船が大きく流されたりしていたらどうだろう?
あるいはボートが漁船タイプの縁の高い船だったら?
それって楽?

また、そんな状態の場合、タンクをボートスタッフに渡す時は常にボートスタッフにタンクを渡す際のトラブルの可能性を考えておく必要がある。
スタッフが受け取り損ねたタンクが自分の頭の上に落ちてこないという保証はない。
自分の頭の上に落ちてこないまでも、水面に落ちたタンクは浮力体をもたないから、よほど残圧が少ないアルミタンクでないかぎり、レギュレーターセットごと海底方面に消えてゆくことになる。

これらもあらかじめそうしたリスクを承知していれば、海況や天候の判断、ボート選び、ボートのスタッフ選び、EXのアクションを開始する前のタンクの扱い方やその手順のトレーニング等、“楽”という言葉のイメージに含まれない様々な要素に対しての対策や対応を身につけ、用意することができる。

加えて言えば、特にボートダイビングの場合は、水面でボートのピックアップを待つ時間が長い時、あるいは万一流された時、サイドマウント専用のBC+2本のタンクを脇にぶら下げた状態で余裕をもって水面で浮いていられるか、という部分も考える必要があるだろう。

Razor のような一部の例外を除いて、サイドマウント専用のBCは浮力が小さめ。
タンクをセットしたまま頭を完全に水面に出した状態で浮いているのが難しい。

バックフロートタイプ+脇に2本タンクだから、通常の立ち姿勢を維持することも難しい。これは放置すべきでないリスクだ。

リスクが放置された状態で突然そのリスクを突き付けられたら、一般的なバックマウントの装備が恋しくなって不思議でないし、万一トラブルが起きてこれらのリスクがクローズアップされれば、日本の場合、サイドマウントを悪者に指定する意見が出ても不思議でない。

しかし、これらもあらかじめリスクを知っていれば補助的な浮力体の携帯とか、サイドマウント用にアレンジされた立ち姿勢の事前トレーニング、あるいは、状況によってタンクを捨てるという判断が必要といった情報のゲットや具体的な対策や対応のトレーニングが可能なのだ。

さらに、カメラを持って潜る際のENやEXではタンクの脱着に両手が必要なサイドマウントとどう折り合いをつけるかとか、着底してのマクロ撮影でのタンク邪魔っぷりというシングルタンクのバックマウントでは考える必要のない部分に頭を使う必要も考えておかないと。

そんなこんなで、眉唾のメリットのアピールやデメリット・リスクをあいまいにした状態でのサイドマウント器材の販売や講習・カードのバラ巻きには、多くの重要なポイントの抜け落ちがもれなくついてくると僕は思っている。
よって、本当の意味でのサイドマウントの健全な発展には決してプラスにならないと、僕は考えてしまうのだ。

日本のサイドマウント教育に未来はあるか?

もし、あなたがサイドマウントの講習を受けようと思っていたら、あるいはすでに受けていたとして、あなたのインストラクターが本当にサイドマウントを理解し、使いこなしていたなら、今回僕が説明したようなデメリットやリスクは当然知らされる、あるいは知らされているだろうし、必要に応じてその対応のための装備やトレーニングが行われるはずだ。

でなければ、その講習やインストラクターを、少なくともサイドマウントに関する分野では、信じるべきではない、と僕は思う。

ここまで書いたら、どうせ敵は増えるだろうし、オブラートの包み方も忘れちゃったので、今回は勢いついでに日ごろ思っていることをさらにいくつか記載しておきます。

そもそも、サイドマントに関して、明らかに間違った器材構成や姿勢を平気で広告に使っていたのが、業界最大手指導団体である、という点は呆れざるを得ない。
本場のサイドマウントのトップダイバー達もこぞって口あんぐりだった。

日本に関して言えば、ほとんどサイドマウント経験のないインストラクタートレーナーがサイドマウントに関してもあっという間にインストラクタートレーナーとなって、同じくほとんどサイドマウント経験のないインストラクターをサイドマウントのインストラクターに認定しているという展開もお見事!

また、寺編集長の記事中でも発言したが、10Lタンク1本で事足りるダイビングに、わざわざ2本の10Lタンクを持ち込ませようというアプローチとか、それが大変と思われちゃうようなら、小さいタンクを2本持たせばごまかせる的なアプローチが推奨されている点にも、感心させられる。

こうしたことが平気でできちゃうというのは、ある意味、凄いことだ。
指導団体が何のために存在し、何を目的に運営されているかを考える際の大きなヒントになると、僕は思う。

で、最後にひとつお知らせしておきます。

現在、サイドマウントの本場であるメキシコ、セノーテでのケイブダイビングにおけるサイドマウント率は恐らく80%以上。
もはやWタンクを背中に背負う姿は珍しい。

カバーンダイビングでも最近はサイドマウントを使うガイドダイバーが非常に多くなってきた。

しかし、そんなサイドマウントのヘビーユーザーであるメキシコのガイドやインストラクターも、オーシャンのレクリエーショナルダイビングでは、ほとんどの場合、一般的なシングルタンクのバックマウント装備を使っています。

ということで、では、また!

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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