ダイバー・トラウマ映画「海底47m」を見てきました ~この夏もう、あなたは海に潜れない~
ダイバーの間で密かに話題となっていた映画「海底47m」を見てきました。
なぜ、公開が終わるこのタイミングかといえば、こんな不埒なキャッチコピーを付けているから。
“この夏もう、あなたは海に潜れない”
こらこら(笑)。
いや、映画はあくまで娯楽でありエンターテインメント。
個人的には、ダイビングが恐怖の題材に使われたり、事故情報を出すだけで、すぐに「ネガティブなイメージになるじゃないか!」という人は無粋だと思う派だが、実際、意外と映画の影響は大きいようで……。
Cカード講習を申し込んでいた人が、ダイビング・トラウマ映画の代表格「オープンウオーター」(乗ってきたボートに忘れられ、大海原に取り残されるストーリー)を見て講習をキャンセルした、なんていうのも実際にあった話。
確かに、子供のころに見た「ジョーズ」の影響で、今でも海面に浮かんでいると、何となく足元が怖いもんな(しばらく一人で寝られなくなったし……)。
潜水病、サメ、エア切れ、大深度、水中ロスト、窒素酔いと、ダイビングのネガティブ要素をすべて詰め込んだ「海底47m」。
一応、ダイビングで飯を食べている身としては、ささやかな抵抗として、ひと夏越えるのを待ってみた(笑)。
■予告編
ダイバーは楽しめるけど、
ダイビングを始める気持ちは削ぐかも!?
前置きが長くなったが、感想を。
まず、サメ映画といえば、クレージーさを競う異次元Z級映画のジャンルだと勝手に思っていたので(サメが空飛ぶのは序の口で、ゾンビになったり、宇宙にやってきたり、壁の中を泳いだり)、せっかくのサメなのに、ちゃんと映画をやろうとしていて残念。
■変なサメ映画一覧
https://matome.naver.jp/odai/2138072428002697601
まあ、「海底47m」は、そもそも“サメもの”ってジャンルではなく、ダイビングのシチュエーションを利用したパニック映画。
そういう意味では誰もが認めるB、C級映画だが、ダイビング経験者は、結構楽しめると思う。実際の海中やダイビングを知っているので、リアリティがあるようでないこの映画を見て、ダイビングが怖くなるなんてことはないだろう。
むしろ、ダイバーは想像力が働くので、フィクションに乗っかった上で、自分の身に置きかえて入り込める。
ご都合主義のダイビング描写に「んな、アホな」と突っ込み入れながら見るという楽しみ方もできる。
でも。
やっぱり、ダイビングをやったことがない人が見たら、ちゃんと(?)ダイビングを始める抑止力になるな、これ(笑)。
安全のための正しいネガティブな情報ならよいけど、映画なので「怖がらせる」という目的のもと、音響を中心とした演出で、“サメ=恐怖”だけでなく、“ダイビング=恐怖”も刷り込まれそう。
ノンダイバーも、これが特殊な環境とは頭ではわかっていても、そもそもダイビングのイメージがないので、真綿が水を吸いこむように、ネガティブイメージをどんどん吸収、みたいな……。
「この夏もう、あなたは海に潜れない」は、ノンダイバーへ効果てきめんかも。
ってことで、普段は、「ダイビングは楽しいよ」という偏ったメッセージだけじゃダメって言っている自分だけど、この映画を見てしまったノンダイバーには心から言いたい。
ダイビングは楽しいよ!
ストーリーについては、B級映画ならではの陳腐でシンプルだが(そこが大事じゃないので正解だけど)、ラストはサプライズ。もはや、このオチのパターンはなかなか使えないが、ダイビングならはの要素が加わり新しい形になっていたから良かったのでは。
ダイバーとしては「それ使っちゃうのかよ~」と思わなくもないけど。
ダイバーはきっと楽しめるけど、「この夏もう、あなたは海に潜れない」とか言ってやがるので(笑)、ダイビングに興味ある人には見せずに、ダイバーだけでこっそりDVD借りて楽しんでください。
あえて無粋なツッコミをしてみる
ここが変だよ、「海底47m」
ダイバーであるがゆえに、実際のダイビングとつじつまが合わないところがついつい気になってしまう悲しい性……。あえて無粋なツッコミをしてみる。
■エアが持ち過ぎな件
海底に落ちてから、なんか20~30分はわちゃわちゃやっている主人公たち。
水深30mで残圧が30になったことがある自分としては、深場で残圧が減っていく恐怖は身に染みているので、つい気になってエア消費を頭の中で計算。
水深47mだと絶対圧が5.7で、なんか、喋ったり、パニくったりで、エア消費率30くらいありそうだけど、まあ20として……タンク10Lで、落ちた時180barとして……15分くらいしかもたないじゃん!
でも、そろそろエア切れるだろうってところで80もあってホッ。映画だといろいろ割と無敵(笑)。
■体験ダイバーの姉妹は、
数千本ダイバーの自分より確実に有能
主人公は、Cカードを持っているけどたぶんビギナーの妹と、ダイビング初体験のお姉ちゃん。
ダイビング初体験がケージダイビングってのもすごいが、海底に落ちてからの行動が漢らし過ぎる。
この姉妹、BC脱いでフルフェイスマスク外して檻の隙間から出ちゃうし、フィン無しで中性浮力しっかり取って泳げているし(BC使っている気配もない)、はじめてのダイビングなのに水中で器材脱いでタンク交換しちゃうし。
終始、パニックを起こしていて、ダイビング初体験のか弱い女性が奮闘しているという描写なんだけど、ダイバーから見たら、ピンチっぷりより超人っぷりが勝ってしまう。
イントラで数千本潜っている自分の方が、パニック起こして、エアがガンガン消費して、割と早めに死ぬだろうな……。体験ダイバーのお姉ちゃんの方が絶対にたくましい!
■感情移入するほど、気になる……
場面によっては体感が想像できてしまうので、ストーリーとは違うところが気になってしまう。
ロープが切れてゲージが海底に勢いよく落ちていくとき、檻をつかんでバタバタしている彼女たちを見て、「耳ぬき、耳ぬき、耳ぬき」と、思わず自分が耳ぬき。彼女たちはしている気配はなかったけど。
また、助けに来たダイバーが死んだとき、彼から水中銃を拝借した主人公。でも、フィン無しで潜って、ものすごいストロレスでパニックになりかけた経験がある自分としては、「銃よりフィン!」と思ってしまったり。結局、主人公は最後まで素足のままだったけど。
サメより自動販売機の方が
人を殺している!?
最後に、サメのイメージアップ作戦。
今年は、サメに襲われたニュースをよく耳にしたが、実は、サメってそんなに人を殺してない。
ちょっと古い情報だけど(3~4年前?)、サメが人を殺すのは年間10人ちょい。
人を殺しているものはたくさんある。
サメとカバ、毎年多くの人を殺すのはどっち?
A.カバ。
アフリカでは年間約2900人が、カバに襲われて命を落としているそう。
さらに、サメより怖い、窒息プレイ(笑)
サメと窒息プレイ、毎年多くの人を殺すのはどっち?
A.窒息プレイ。
窒息フェチの人がプレイ中にそのまま命を落としてしまう事故により、アメリカでは年間約600人の人が死亡。
ダイバーとして気になる、クラゲ。
サメとクラゲ、毎年多くの人を殺すのはどっち?
A.クラゲ。
フィリピンでは年間20~40人がクラゲの毒によって死亡。
ダイビングでは、めったに会わない人食いサメより、クラゲをはじめとする、身近な危険生物に注意した方がよさそう。
では、サメが人を殺す年間10人前後というのはどれくらいの数かといえば、自動販売機の転倒で人が死ぬのと同じくらいというデータも。
サメと自動販売機、毎年多くの人を殺すのはどっち?
A.自動販売機。
アメリカでは年間10~13人が自動販売機の転倒によって死亡するそうだが、それくらいサメに殺されるのは希ってこと。ましてや、ダイビング中なんてことはめったいにないだろう。
ノンダイバーに「ダイビングって、サメに襲われない?」と聞かれたら、「サメは会っても大丈夫」「ダイバーが襲われて死ぬのは自動販売機の下敷きになるより少ない」と答えよう。
ちなみに、人がサメを殺すのは「1時間に11,417匹」とも言われているので、サメからしたら人間のが怖い……。