オニダルマオコゼ◆後編

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ダイビング歴45年・やどかり仙人のアップアップ相談室

◆前編は→こちら

●ダイバーにとっての問題点は、相手が特定できないこと
私たちダイバーにとって、面倒なことは、
海の中で刺されたり、触ったりした、毒のある生物は特定しにくいことですな。
刺されたと思っても、その相手がクラゲやらイソギンチャクやらカサゴやら、
なんだか分からないことが多いのです。

擬態上手のオニダルマオコゼ

亡くなったダイバーの死因がアナフィラキシーショックだったとしても、
沖縄の海を仕事場にしてきたこのダイバーは、オニダルマオコゼに限らず、
過去に何度も腕や足を水中生物に刺された経験があったはずです。
しかし、オニダルマオコゼのアナフィラキシーを知っていれば、
たぶんご本人はもっと注意深かったと思われますな。

たまたまビーチで起きたケースだったので、
アナフィラキシーショックが疑われているわけで、このようなケースの多くは、
たぶん磯遊びの溺れ事故と片付けられているケースもあるに違いありません。

オニダルマオコゼの毒はハブより強いなんて報道がなされておりますが、
毒が強いとか弱いとかってことより、過剰なアレルギー反応は、
レアケースとしても私たちダイバーには、心しておくべきケースではありますな。

ヤドカリ爺もこんなときの対処法、応急手当を、散々探してみましたが、
海の生物によるアナフィラキシーショックについての情報は、
まず見つかりませんでした。

DANのHP(DAN JAPANではありません)や
アメリカの応急手当のサイトEmedicinehealth(筆者は緊急医学のお医者さんです)で、
「海洋動物のアナフィラキシーの可能性のある人は、
エピフェリン注射のペンを携行し、自分で注射できないときに備えて、
同行者に使い方を教えておくこと」とあるぐらいです。
※日本では法律的むずかしでしょう。

つまり、ある意味ではレアケースであるということかもしれません。
さらに言えば、医療機関とか、救急隊などでも対応の難しいケースだったのかもしれません。

それでも、あくまでも仮定ですが、この事故者が、
自分のアナフィラキシーについて知っていれば、
自分の注射ペンを持っていたかもしれません。

どうも今回のテレビ報道を見ると、
現実にはオニダルマオコゼに刺されることで死亡することは非常にまれなのに、
単にオニダルマオコゼの毒がハブより強いみたいな短絡的な話がいってしまっているようですな。

●刺胞動物はダイバーの天敵
私もいろいろなものに刺されましたが、これぞ犯人と特定できるものが少ないのですな。

フィリピンでナイトダイビングをしていたときに、腕に焼け付くような痛みを感じて、
その後、腫れあがって40度近くも熱が出ました。
リゾートの医師は、たぶんファイアコーラル。
たいした薬もくれなかったと記憶しています。

しかし、実際には潰瘍になり、治るまでずいぶん長くかかりました。
日本に帰ってからも皮膚科のお医者さんにかかりましたが、
これといった治療法もないようです。

沖縄県のデータによると、海洋の生物の怪我の7割が刺胞動物によるもののようです。
刺胞動物、つまり、クラゲ、イソギンチャク、サンゴなど、
刺胞をもつ動物の総称ですが、私たちダイバーも、
この刺胞動物に遭遇する可能性はかなり高いですね。
ダイバーなら1度や2度は、クラゲやガヤに刺された、
サンゴで怪我をした経験はあるでしょう。

これらの刺胞動物の毒そのものについての本はたくさんあるのですが、
そのほとんどが化学者が書いたもので、
刺されたときの手当てとか処置についてはきちんと書かれた資料がないんですね。

特にお医者さんが順序だてて、書いたものはないも同然でした。
数少ない資料に書かれている手当ての方法が、
困ったことに正反対だったりするのです。

少ない資料をまとめてみるとこれらの刺胞動物の毒は、

1.酸、つまり酢でさらなる刺胞の発射を止める。
2.真水で洗うと、浸透圧などの関係で刺胞を刺激するので海水で洗う。

というのがお方の共通認識のようなのですが、微妙に手当て法が違うのであります。
例えば、クラゲ類の代表選手的な存在のカツオノエボシ。

【資料A】
アメリカの大学、皮膚科の教授、国際シンポジウム。
「酢は立方クラゲ、カツオノエボシの刺胞には有効である」

【資料B】
沖縄県環境衛生研究所。
「立方クラゲ以外の刺胞動物の場合、酢をかけることによって、
刺胞の発射を促進するので注意が必要である」

【資料C】
DAN JAPANのDDNETの皮膚科のお医者さんのHP。
「刺し傷は45℃のお湯に、痛みがち取れるまで浸す。
蕁麻疹のような皮疹は、酢(酢酸5%)に浸す。
これ以外の民間療法は、無効あるいは有害です」

【資料D】
DAN USAのHP。
「酢、アルコール、アンモニア、重曹などが症状を緩和する」。
「クラゲに刺されたときのアレルギー反応に備えておくこと。
できれば、エピネフェリン(アドレナリン)、抗ヒスタミン(経口薬を含む)
アレルギーキットを携行すること」。

以上のように少しずつニュアンスが違うのですね。
いったん痛みがとれたら、冷やした方がいい、温めたほうがよいなど、
細部にいたっては、さまざまなんですね。

ヤドカリ爺の老化した頭脳では、あちらこちらの資料をめくるたびに、
混乱をきたしたのであります。

いやいや、これは先生方が勝手なことをおっしゃっているという意味ではございません。

海洋生物の傷なんて分野は、ケース例も少なく、
地域的な違いもあろうかと思うのであります。

●ダルマオコゼでダイバーショック
今回のオニダルマオコゼの事故は、私たちダイバーにはショックでしたな。
報道はセンセーショナルでしたが、実際には死亡にいたるようなケースは
ごくまれなことが分かったことも収穫でありました。
海洋動物の危険を思い出させてくれたことについて、
亡くなったダイバーに感謝しなくてはなりませんな。

猛毒のクラゲで知られる、オーストラリアのキロネックスは有名ですが、
それとても、スノーケルで吸い込んでしまったなんてケースもあるらしい。
ところによっては「オクトパスを使うときには完全にマウスピース内をクリアーしろ」なんて、
怖〜いローカルなダイビングルールもあるようであります。

ただ海の怪我の70%が刺胞動物だとすると、刺されたからといって、
すぐにはお医者さんの手当てが受けられない場所にいる私らダイバーにとっては、
もう少し 具体的な応急手当の方法、つまりどれぐらいの時間、
湿布したらよ

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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