海は誰のもの?〜セルフダイビングができない理由〜

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ダイビング歴45年。やどかり仙人のぶつぶつ多事争論。

〜結構深刻な、漁業者との関係〜

■海は一体誰のもの?
日本のダイバー人口は、諸説ございますが、
30-50万人(大雑把過ぎてすいません)といわれております。
ちなみにアメリカのアクティブのダイバー人口は調査機関によって諸説ありますが、
もう少し具体的に300-350万人程度と言われておりますな。

日本もどちらもダイバーの高年齢化、小子化で、
ここ10年ほどはあまりダイバー人口は増えてないといった噂もございますが、
それでもダイバー人口を支えるダイビング関連のサービス産業もかなりの数に上ります。
あの町この町にダイビングショップがあり、
海辺の町にはダイビングサービスがございます。その数、数千店ともききます。
あの小さな石垣島に、100を越えるダイビングサービスがあるといわれているほどです。

リクリエーションダイバーにとっては、海辺にさえ行けば、
ダイビングサービスがあり、タンクも用意され、
ガイドをはじめるサービススタッフが待っているというわけですな。

もちろんダイバーとダイビングサービスのこの関係、ありがたいことなんですが、
あまりにもサービスが過剰というか、サービスを売らないと商売にならんせいか、
ダイバーによっては窮屈に感じるケースが生まれてきているようですな。

そこでセルフダイビングなんて、和製英語が頻繁に使われております。
セルフじゃないダイビングなぞあるのかい、
隣座席に道案内が乗っていても自動車運転をセルフドライビングなんていいませんぞ。
なんぞと息巻いても話が進みませんので、
セルフダイビングという言葉自体をどうこう言うのは今のところ横に置いときましょう。

このごろのセルフダイビングの意味は、ダイバーが自由にのびのび、
勝手気ままにダイビングを楽しんでみたいという、
言い換えればダイビングの本来の楽しさを取り戻したい、
重力からの解放、日常生活からの解放、ガイドやダイビングサービスからの解放、
さらには、漁業者に気兼ねせずにダイビングがしたい、
とまー、さまざまな拘束からの抜け出したいという意味合いが
セルフダイビングには含まれておるようですな。

小さな湾のなぎさ近く、ステーションワゴンからタンクを降ろす。
傍らには水着姿の恋人がいるなんてのは、
かつてのダイビングメーカーのカタログの表紙であります。
またいつの時代でも、これからダイビングを始めようというみなさんの、
思い描いたシーンでございませんか。

しかしながら、こんなシーンはあくまでもイメージにすぎず、
早々車で乗りつけ、ダイビングができるビーチなど、そうはございませんし、
海に入ろうとすれば、たちまちに 「誰の許可得て潜ッテるんじゃい」と
漁業組合の横槍が入るというのが現状であります。
ときにはそのエリアのダイビングサービスからお叱りを受けることもあるようですな。そんなこんなで、

海は一体誰のもの?

ということを、ここでもう一度考えておいても良かろうかと思うのであります。
今回は横槍の根拠になっている漁業法について、ぶつぶつとご説明いたしましょう。

ヤドカリ爺目がかつてダイビング団体に関係していた頃から、
漁業者との関係はいつでも問題含みで、
やむを得ず漁業法のお勉強をする羽目になった頃の、記憶をたどりたどりオハナシしましょうか。

■海は漁業者だけのもの!?
「俺たちだって日本国民だ、海は俺たちだって使っていいだろ」、
「なぜ漁業者は海を独占してるのだ」、
「俺たちは海で漁業をするわけじゃない、なぜ自由に海に入れないのか?」
というのは私らダイバーがいつでも持っている疑問であります。

四方海に囲まれている日本では、ほとんどの沿岸で漁業が行なわれております。
また世界でも有数の漁業国ですし、また水産物の消費国であります。
その資源の多くは沿岸の漁業者のみなさんの努力で、私たちの食卓に乗っております。
またまた話しが飛びますが現在世界の漁獲第一位は中国であります。

その漁業する権利を、行政体に申請して免許を受けて漁業を行なっています。
どこからどこまでの水域で、漁業をやってもいいぞというお墨付き、
共同漁業権を都道府県知事からいただいていることになります。
実際には漁業組合に認可が下りるので、この組合員になっていないと、
現実には漁業はできないことになっております。

漁業権は、簡単に言えば、
“伝統的に海で暮らしてきた人たちの生活権を応援する法律的な権利”であります。
(一方、ダイバーにはどこぞの海で潜ってよいというお墨付きはございません。
同時に当たり前ですが、潜ってはならないという法律もありません)。

そんなわけで、私たちダイバーが夏にサザエ獲りをしたいからといって、
漁業権を申請してもまず許可は得られません。
現実には、血縁的、地縁的な条件があって、その条件を満たせないからです。
また、その土地に家を建てて住んだからといって、
漁業権が簡単に得られるわけでもありません。
法律上の手続きはともかく、一種の財産とも考えられている権利だからです。

この漁業権というのは、ある水域、地域で、そこにある特定の資源を、
優先的に獲っていいよという権利です。
獲ってもよい資源は細かく申請をして獲っております。
簡単に言えば、ある水域にあるサザエを漁業の対象にしてよいという指定を受けて、
漁師さんは獲っているのであります。

法律的にはその水域の水面を独占してよいというわけではなく、
あくまでも漁業のために使ってよいよというのが漁業権であります。
決してその水面が漁業者の占有物であるわけではないのであります。
その水域にあるなにからなにまでが、漁業権のある人たちのものでもないわけです。
また、日本は基本的に海岸線を個人所有できないことになっているので、
プライベートビーチなどというものもないのです。

サザエを獲るために海に入れないのはこの漁業権を犯すことになるからです(法律違反)。
しかし、タンクをつけてその水域をすることは、法律上は何の制約もございません

とはいうものの、これはあくまで建前であります。

多くの漁業者はその水域の管理責任と管理権があると考えておられ、
ダイバーがこれぞと思う浜辺に車を止めてダイビングの支度を始めれば、
すぐに土地の人の厳しい視線、さらには「おメーラ、誰の許可とって潜ってるんじゃい!」
というチェックが入ることでしょう。
この風景はリクリエーション・ダイビングがスタートして以来40年来の、
お決まりのシーンであります。

漁業をしない以上、誰の許可も要らないのは、これまでにお話ししたとおりですが、
漁民の皆さんには、もう1つの論理があります。

勝手にダイビングされると漁業の邪魔になると言う論法です。
邪魔になるというのは大変便利な理屈で、
ダイバーのおかげで魚が逃げた、網入れ作業の邪魔、船の通行の妨害になる、
さらには定置網に魚が入らなくなる、果ては監視をするための人手がいる

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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