ダイビング後のスキンダイビングは減圧症になる!?

やどかり仙人のたわごと多事争論

わたしの友人、ガールフレンドのことであります。いやただのかつての潜り仲間であります。
別にそんなこたーどうだっていいのですが、師匠のわたしなどを差し置いて、
暇さえあれば、ガラパゴスだのイースター島だの、
なにやら雲行きの怪しい中東などにもお出かけのご様子で、
そのたびに腰痛で動きのとれぬヤドカリ爺を口惜しがらせております。

その友人が、某月某日、赤道直下の某有名ダイビングリゾートへ。
ボートダイビングから戻って、ではハウスリーフでスキンダイビング、と思ったら、
親切なダイブマスターさんに、
「スクーバの後は、息こらえダイブは、減圧症の原因になるからしないほうがよい」
と言われたそうな。「本当なの?」と彼女からのご質問。

この手の疑問というか質問は、古くて新しい、
50年来つねに論争というか、いつもブスブスとくすぶっているテーマなのであります。
もちろん50年の昔のことはヤドカリ爺とて存じません。

でもかつては、米海軍の潜水艦脱出訓練で、減圧症の症状があったとか、
またダイビング直後のアンカー回収のときに、
減圧症のリスクが高まるなんて話は、よく聞くのですな。

てなワケで、もともと生理学者でも、専門医でもないヤドカリ爺は、
乏しい資料とインターネットで調べてみました。結論から 先に言いましょう。

“スクーバダイビング後のスキンダイビングが減圧症のリスクを高める”
理論的にはありうるけど、実験的な証拠がほとんどない。

この問題を少し整理しておきましょう。どの専門家のご意見も、
その理由として、スクーバを終えたダイバーの体には窒素が限界まで蓄積されていて、
そこでさらにスキンダイビングで圧力をかけると、
理論的には以下のようなことが起こるとされています。

1.わずかだが、さらに窒素が蓄積される。
2.本来肺で濾過されるはずの、静脈血中のサイレントバブル
  (症状を起こしていない気泡が)がスキンダイビングで再び加圧されることで、
  サイズが小さくなって、肺を通過して動脈系にはいりこんでしまう。
3.スクーバ後のフリーダイビングが、窒素の気泡化にインパクトを与える。

だから、減圧症のリスクは高まるということであります。

しかし、実際にこれを証明するような実験結果はほとんどないということは、
どの先生方のご意見も一致しております。

もちろん、スクーバ後の素潜りによる減圧症のリスクの可能性は
昔から論じられていたので、何人かの研究者が実験されたようですが、
ほとんど統計的にもリスクといえるほどのデータにはならなかったということですな。
スクーバ後の息ごらえダイビングを実験するのは、
はっきり言えば難しい。いや現実に実験などできないってことでしょうかな。

また、スクーバ直後の息ごらえダイビングをするには、時間をあけたほうがよい
というアドバイスをする専門家もおられます。

今回の「スクーバ後の息ごらえダイビングはしないほうがいいのか?」
という質問の答えには正解はありません。
しないほうがよいというダイブマスターの意見も正しいし、
だからといって、やってはならないルールもないってことのようです。

えらく深い、えらく長時間のダイビングの後にアンカーを外しに、
素潜りで水底と水面を往復されるようなダイビングスタッフなどには、
よりシリアスな問題かも知れません。

もちろんスクーバダイビング後は、できるだけ穏やかに、つまり安静にして、
体内の過剰な窒素を排出させたほうがよいというのは、これが黄金ルールであります。
となると、あえてやることもありますまいというのが、ヤドカリ爺の個人的な意見であります。

もし1日のうちに、スキンダイビング、スクーバダイビングの両方がなさりたい方は、
ぜひ、スキンダイビングを先になさったほうが安心だということですな。

しまらない結論ですが、減圧症をめぐるお話は、理論的にはそうだが、
でも現実に実験で証明されていないって、コトばかりなのです。
その意味ではダイビングのリスクはいつでも究極の自己判断なんですな。

 

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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