ここが変だよ!? 潜水士免許
■日本でライセンスといえば潜水士だけ、
ダイブテーブルも厚生労働省のものだけ
ヤドカリ爺が潜水士の免許をいただいたのは、だいぶ昔のことであります。
ダイビング界の大先達の須賀次郎さんのブログによると、
その数年前に潜水士の免許試験に始まったばかりで、制度を定着させるために、
関係者の皆さん一所懸命に合格者を増やすのにご苦労なさってたようであります。
そのおかげで大変優秀な成績で合格しました。いやさせていただきました。
品川駅から仲間たちとトコトコ歩いて、
当時は東京水産大学の教室で2日間の講習会の最後に試験があって、
恭しく免許証いただいて帰ったような記憶がございます。
何でただのレジャーダイバーが潜水士免許の講習会にと思うむきもあろうかと思います。
当時は、後にも先にもこれっきり、ほかにはどこにもダイビング、
いや潜水に関するお勉強の機会はなかったのであります。
と同時に、そこで渡されたテキストが『潜水士必携』という、
えらく肩肘張ったタイトルの1冊でありました。
ほとんどがヘルメット・ダイバーの作業手順が大半で、
しかも基本的に「ダイバーにこれ以上作業で無理をさせてはいけないよ」と、
潜水士の雇用主、いわば親方のほうに釘を刺す法律に基づく関係上、
つまり、圧倒的にHOWばかりでWHYは説明のないテキストです。
レジャーダイバーにはほとんどちんぷんかんぷんでしたな。
そして今、手元にあるのは2年ほど前に改訂された潜水士テキスト。
日本の減圧表を調べたくて、現役バリバリのインストラクターから拝借しました。
300ページを越す、えらく難しい内容に変貌しておりました。
こりゃ試験を受ける人は大変だと、同時にお気の毒といった感想であります。
このテキストは潜水士に必要な高気圧作業安全衛生規則という法律がまとめられていますが、
この法律を厳密に私たちのダイビングに照らしてみると、
愕いたことに日本の国内では、講習でもガイドのような遊びのお相手でも仕事は仕事、
潜水士以外はダイビングに関するお仕事ができないとも解釈できるのであります。
しかも、そのダイビングは厚生労働省の制定している、
「別表2」というダイブテーブルを使わなくてはならず、
また潜降/浮上も必ずラインを使うといったことも、こと細かくきまっているのであります。
「なにを馬鹿な。コンピューターを使って、何十万の人がダイビングやっているではないか」、
「別表2なんてダイブテーブル見たこともない」と思われる方も多かろうと思います。
しかしながら、業務で潜水作業を行なう者は、潜水士免許が必要なのであります。
この業務というのが曲者であります。
私たちが自動車を運転していて事故を起すと、業務上過失を問われますな。
タクシーの運転手さんでも、トラックのドライバーでなくとも業務であります。
その意味で”潜水業務=ダイビング”と、ガチガチに解釈しちまうと、
潜水をするには潜水士でなければならぬという、ほとんど非現実な法律の傘の下に、
私どもレジャーダイビングもいるということになっているようです。
とまーここまでは、あくまでもレジャーダイビングをするにも、
お国が発行する免許証が要るという不可解な状況のオハナシです。
やや大袈裟な取り越し苦労的なお話であることは重々心得ております。
■日本で使ってよいダイブテーブルは1つだけ
世界各国にはさまざまなダイブテーブルや、ダイブコンピューターがあって、
ダイバーはそれなりの選択理由があって使っています。
ところが、ところが、日本では、法律的な建前上、
NAUIのテーブル、PADIのRDP、US NAVYテーブル、BSACなどなどどれも使えないのであります。
ダイブコンピューターなど、まるで使ってよいの悪いのという以前のお話、
はなから相手にされておりません。
つまり潜水士が、すなわち日本のダイバー(レジャーダイバーを含めて)が
使用できるダイブテーブルは、はるか60年近くの昔に制定された、
厚生労働省の別表2という、ダイブテーブルだけということになっています。
その別表2とは、一体いつ、どんな減圧理論に基づく減圧表なのか、
専門家ですらよく分からないという不思議なしろものなのですな。
普通は減圧表のような公共的な性格を持つものは、
その開発過程やその有効度が大体公表されているものです。
そうじゃないと誰も怖くって使えません。
空気で90mまで潜ってしまう、どんな減圧停止ダイビングをしても、
1日の制限時間以内なら何度でも繰り返しダイビングができてしまうという、
ちょっと現代の常識では考えられないダイブテーブルであります。
それなのに、世界にあまた減圧理論があり、それに基づく実績ダイブテーブルがあり、
それの応用版のダイブコンピューターがあっても、
日本にはこの別表2という減圧表以外はないという、このお役所支配的な状況は奇妙であります。
(近々に改良されるようですが)。
ということは、あなたが、いやテラ和尚がガイドをしていて、
不幸にしてお客さんが減圧症になってしまった。
もちろんダイブコンピューターでのダイビングであります。
その場合、日本の法律では認められていない、コンピューターでダイブプランを実行したという、
法律違反的なペナルティーが科せられる可能性が100%ないとはいえないのであります。
そして何より、あれこれ細かく指図はする法律なんですが、
内容的にスクーバ・ダイビングというダイビング・システムがほとんどない時代のまんまなのです。
この世界だけが刻が止まっているような免許制度であります。
もちろんレジャーダイビングにもヘルメット潜水を主眼にした潜水士免許が要るのか、
60年も昔のダイブテーブルを使うという問題点などは、専門家や業界は百も承知です。
それでも何十年も放っておかれているのです。
いや全員が知ってて知らんふりを決め込んでいるようにしか思えません。
実際には、いかにレジャーとは言うものの、何十万人のダイビング人口が、
年間何百万回もダイビングをしていて、それなりにスポーツとしてサービス産業として機能しているのに、
スクーバ・ダイビングの器材も技術も大きく変貌しているのに、
こんなわけの分からん法律や、免許制度が、何十年を営々と受け継がれていて、
毎年、毎年、春と秋に各地で潜水士試験が行なわれ、
スクーバ・ダイビングしかしない、ダイブマスターやインストラクターが、
受験対策講習会などに通って、しぶしぶと受けに行くというわけです。
(※付け加えますが、お仕事でダイビングをなさっている方は、お仕事中の怪我や事故が合ったときに、
事故補償を受ける、いわ