鮭の旅立ち
こんにちは。須賀潮美です。
遅い夏休みをとって、スペインのマヨルカ島に行ってきました。
ダイビングはしなかったのですが、フリーダイバーのエンゾが住んでいたという島。
美しい地中海を前に指をくわえていました。
さて今回は川の撮影について。
「こころと感動の旅」では川の取材も各所で行いましたが、川の撮影は海以上に苦労しました。
「ニュースステーション」の水中企画第2弾は「鮭の旅立ち」をテーマに取り上げた。
舞台は北海道の西別川。摩周湖の水が地下を通り、湧き水となって始まり、
道東を流れ根室湾に注ぐ全長65㎞の川である。
西別川の源流部の水温は一定して9度、川のほとりに鮭の孵化場がある。
孵化場では、秋に親の鮭から採卵し、ひと冬、人の手で育てた鮭の稚魚を、
3月、川が雪解け水で満たされる頃に放流する。
この孵化場からは5千万尾が放流される。
小さな鮭の旅立ちを見るため、
作家の立松和平さんと共にドライスーツを着込み、川へ潜った。
水深30㎝ほどの川は、まだあどけない顔をした鮭の子供で満たされていた。
川の色が黒く変わるくらいの群れは、
川底の水生昆虫などをついばみながら海を目指す。
その様子を上流から順に追って行くのだが、
当時のフルフェイスマスクはまだスノーケルが付いていなかったため、
呼吸するにはタンクが必要だった。
重いタンクを背負いへっぴり腰で浅い川を歩く2人は、場違いとしか言いようがない。
カメラも同様、TVカメラが入ったハウジングは50㎏を超える。
数人がかりで川底を引きずるように撮影する。
鮭の子供たちが自由に川を泳ぐ中、人間の無様なこと。
だが、たった30㎝でも水があれば、陸とは違った世界が広がる。
透明な水の中で小さな身体をきらめかせながら、鮭の子供たちは海へと下っていく。
鮭は川から海へ旅立つと、ベーリング海で大きく成長し、
4年ほどで生まれた川に産卵のため帰って来る習性がある。
けれども、日本で鮭が自然に産卵できる川はわずかしかない。
大半が途中で捕獲され、人工孵化場で採卵され、一生を終える。
何とも味気ない話だが、北海道・知床半島には鮭が自然に産卵する川が残されている。
秋、オホーツク海の波音が響く小さな川に潜ってみると、
産卵期を迎え顎が張り出し、鬼気迫る形相のオスの鮭の顔が目の前に迫って来た。
タンクを付けて身動きできずに打ち上げられたトドのような私の足や身体にぶつかりながら、
最後の力をふり絞るように遡上する。鮭は産卵を終えると静かに生涯を閉じ、
その死骸は微生物に分解され水生昆虫など川の生き物の養分になる。
春、卵から孵った子供は、親が残してくれた養分が育んだ
水生昆虫を食べて長旅の準備を整えるという。
北海道では秋の気配が感じられるようになると、鮭が帰って来る。
今ごろ、知床の小さな川にも鮭は戻っているに違いない。