ハイボールはフェールセーフ!?
絶対に事故は起こせない。
この言葉が、ダイビング以上にシビアな業界のひとつが鉄道。
鉄道における事故はまさに大参事。それであるがゆえ、
安全に対する研究とその運用にかけるお金も時間もダイビングの比ではない。
そこで、鉄道会社に勤める傍ら、プロダイバーと
フォトグラファーを目指しているぽっぽ屋ダイバーさんに、
安全のいろはのい、フェールセーフについて以下、寄稿いただいた。
※
「ハイボールのハイって、酎ハイのハイかな?」
合コンでこんなことを言い出す女子がいたら、これからはしたり顔で答えて欲しい。
(別に合コンに限らなくても良いけど・・・)
「ハイボールは鉄道用語です」と。
歴史は初期の鉄道が走り始めた頃まで遡り、場所はイギリスへと移ろいます。
当時の信号は、青(進行)と赤(止まれ)しかありませんでした。
赤信号はボールが地面に有る状態とし、青信号は国旗を掲揚するように、
ボールを高く掲揚していたと言われています。
時刻表なんてあって無いような時代。
駅前で列車が来るのをウイスキーをチビチビ飲んで待っていた旅客達は、
青信号(つまりボールが高く掲げられる状態)になって、
列車が来るのを待っていたそうな。
そして、ボールが高く掲げられる(=high ball)のを見るや、
チビチビ飲んでいたウイスキーにソーダを混ぜて飲みやすくし、
一気に飲み干して駅に向かったことから、
ウイスキーのソーダ割をハイボールと呼ばれるようになったというお話でした。
さて、このコラムは何も合コンで女子にウケル話をするためのコーナーではありません。
実はこのハイボール、鉄道最古のフェールセーフなのです。
フェールセーフをおさらいしておくと、
何か事故があった際、物事を安全側に作用させる仕組みのこと。
英語の「fail safe」を直訳すれば、「失敗したときの安全」といった感じでしょうか。
先ほど、赤信号はボールが低い状態にある時とお伝えしました。
もし、ボールを高く掲げた状態(青信号)の時、ボールを支えるワイヤーが切れたら……。
万有引力の法則で、当然ボールは落下し、赤信号となるわけであります。
つまり故障したら、自動的に列車を止める(=安全側)へ作用するのです。
これがもし青信号と赤信号が逆だとしたら、ワイヤーが切れた場合、
「止まらなければいけないのに進め」ということになるわけです。
どうなるか考えただけでも恐ろしいですよね……。
鉄道業界において、このフェールセーフ機構を取り入れている仕組みをあげたら
それこそ枚挙に暇がありませんが、
ダイビングにおけるフェールセーフでよく知られていることは、レギュレーターとBCDです。
OW講習の時、レギュレーターは故障するとフリーフローすることを勉強し、
マウスピースから空気をすする練習をしましたよね。
また、BCDが故障した際、空気が入りっぱなしになることも勉強しました。
レギュレーターが壊れるとなぜ、空気が出続けるかと言えば、
空気が出ないよりは安全だからです。
いわゆるフリーフロー状態になった時は、
落ち着いて浮上する程度の余裕時間はあるので、すぐに浮上すれば問題ありません。
またバディのオクトパスも使用すれば安全性はさらに向上します。
BCDに空気が入り続ける機構になるのも、
やはり、浮力が確保できない状態よりも安全側であるという設計思想に基づいています。
当然のことながら水中で空気が入り続けることは問題があるので、
インフレーターホースを抜く、空気を抜きながら浮上するということは周知の通りです。
また、オーラルで給気ができることも安全側であるといえるでしょう。
しかし、ダイビングにおいての最大のフェールセーフは私たちの心です。
鉄道の場合、乗務中急病で意識が無くったとしても、
必ず赤信号で止まる仕組みになっています。
機械が常にバックアップをしているのです。
一方、ダイビングはどうでしょうか。
レギュやBCDなど、個々の機械がフェールセーフであったとしても、
我々人間の裁量の余地が大きく残されています。
どんな危険な行為をしても、機械も人間も決して強制的には止めてはくれないのです。
つまり、我々の考え一つで安全側にも危険側のどちらにも作用するのです。
そういう意味では、仕組みとしての最大のフェールセーフはやはりバディであるといえます。
何かトラブルが起こった際、助けになるのはガイドではなく
バディであると再認識することも大切なのではないでしょうか。
また、何か不安なことがあり選択に迷った場合、常に安全側はどちらであるか、
考える癖をつけるだけでも事故防止になりえます。
さてさて実際、お酒のハイボールはフェールアウト側ですが、
女の子のお酒の席であれば危険側にいっても時には良いのかも。
節度があればですけどね(笑)