うんこマン(注:食事中の方)
彼がやってくる恐怖。冷や汗が出て心臓ドキドキ。
その場に立ちつくしかない。
しかし、自分のまいた種だから仕方がない。
種は育ち、やがて醸造されて固形になったり液体に
なったりして肛門様から、
おな〜り〜
やめなさい。
そう、水中での便意。
あまり触れられることがないが、これは本当に辛い。
パニックの原因にすらなるのだ。
元々自分は便意が不規則。
彼は主人と一緒で自由気まま。
突発的に出たいときに出る。
主人の意見はあまり聞いてくれない。
おかげで定期的に野グ○をするハメになる。
大学時代、雪の降る中、車の中で突然彼はやってきた。
駐車場に到着した僕は、座席からもう立ち上がれない。
座った状態が、彼が登場するのを押し留めているからだ。
僕が立ち上がれば、やんちゃな彼はすぐに出てくるだろう。
もはや、やむなし。
大学の駐車場で、自分の車のすぐ脇で彼をリリース。
幸い周囲には誰もいなかったのだが、
帰りにゼミの友人たちを乗せるために車にやってきたとき、
一人の友人が、
「うお! 汚ね。こんなところにう○こだよ」と……。
恥ずかしい。そして屈辱&敗北感。
フルチンを見られるぐらい何ともないと思った。
その後、大学時代はジョギング中、散歩中、
ドライブ中など、突然彼はやってきてはいたが、
大学が多摩の田舎にあるので、
意外と外でできるポイントがあるので何とかなった。
しかし、社会人で東京暮らしをすることになると、
そうはいかない。
社会人1年目だったか。
しこたま飲んだ帰り、駅から社宅への帰り道。
ふいに彼はやってきた。
地べたに座り込む。
もちろん彼に栓をしなければいけないからだ。
しかし、彼はそんなものおかまいなしに出てこうようとする。
「てめぇ、どけー!」、「こら、どけー!」
これまでになく彼は怒っている。
しかし、僕はしゃがみ込んで、彼を何とか説得しなだめると、
移り気な彼は、少々怒りがおさまったようだ。
彼の怒りが少し落ち着いたところで、
数メートル進むのだが、
彼はまた「やっぱ許せねー」と思い出しては怒り出す。
そして、僕はそのたびにしゃがみ込んで説得、
ということを繰り返す。
しかし、彼の怒りはピークに。
「もう、出て行く!」
出してはいけない。何をするかわからない。
もうイチかバチかだ。
次に落ち着いたらダッシュしようと決意。
彼の怒りが一瞬おさまった。とはいえギリギリだ。急げ!
ダッシュとはいえ、
本当に走ってしまっては彼が出てきてしまう。
結果、競歩のようなおかまなような走り方になる。
深夜、板橋で冷や汗をかきながらお姉走りな真っ黒な男。
さすが変質者の多い町。
マンションに到着! やった!! その瞬間、
上様のおな〜り〜
全部、おな〜り〜
出てもた。全部、出てもた。
気の緩みは肛門の緩み。
安堵感は最大の敵だったのだ。
100メートル走の選手は、
ゴールを120メートル地点に設定するという。
そう、僕もマンションにゴールを置いてはいけず、
トイレを済ませた後、お風呂に入っているぐらいに
思いを馳せねばならなかったのだ。
人生は日々勉強だ。
出てしまった後の大惨事はあえて書くまい。
シャレになっていない。
ひとついえることは、このとき僕の自尊心は半分に減った。
ジャージマンやパンツマンも歯が立たない、
最低最悪にして最強のうんこマン。とうっ!
やっと話が戻る。
これまでの人生、中学、高校、大学、社会人と
節目節目で1回ずつうんこマンに変身しているが、
フリーになるという節目な今年、
久しぶりにうんこマンが登場しそうになったのだ。
しかも水中。しかもドライスーツ。しかも取材中。
水中は開放感たっぷりだ。
開放感たっぷりな彼はいつもにも増して活発だ。
栓をしなければならない。
そこで、BCから排気して根の上に座る。
一生懸命トビエイを探すガイドとカメラマンにしてみれば、
一人だけ優雅に休憩して嫌な感じだろう。
しかし、もちろん優雅なんかじゃない。
港にトイレがあったが、あえてそのことは忘れる。
港から車で移動し、お店で彼をリリースする自分をイメージする。
“ゴールは先に”方式だ。一応、学習しているのだ。偉い。
いや、特に偉くはない。
結果、何とかもちこたえたのだが、
便意もストレスのひとつで、
パニックにもつながるものだと実感。
呼吸すら苦しくなってくる。
冗談抜きに、“辛い”と思うことは、
何でもパニックの要因になりうるので、
取り除く必要がある。
以来、ダイビング前は無理をしてでも
トイレに行くように心がけている。
だって、パニックを起すだけならまだしも、
うんこまみれで死ぬのは嫌だもの……。