潜水事故の記事を取り巻くバカたち
今回の寺子屋では、
パラオの漂流事故リポートをかなりの誌面を割いて取り上げており、
それに“ドリフトダイビング”の記事が続く。
ドリフトダイビング
漂流者が語る生々しい漂流体験と驚くほどの冷静な思考と行動が
刻銘に記されているこのリポートから得るものは大きいはずだ。
ぜひ、5月号(4/10発売)をご覧ください。
さて、こういう潜水事故を取り上げると、
必ずと言っていいほど業界側からバカな反応が起きる。
「ダイビングのイメージが悪くなる」
「パラオのイメージが悪くなる」
こういう視野狭窄な人々は無視したいところだが、
雑誌が広告で成り立っている以上、内から敵が出現することもある。
僕は面倒だが、当たり前の意義と利益について説明する。
■ダイビングは基本的には安全で楽しい遊びだが、
ちょっとしたボタンの掛け違いで事故につながることを理解してほしい。
■事故を公開・分析することは、潜水事故の再発防止につながる。
■事故ネタは視聴率につながる。
それでもお金を持っている人が大騒ぎすれば、
僕の記事がふっ飛ぶことなど簡単なこと。
今回はそうならないことを願うのみだが、すでにその徴候が……。
ちなみに、当事者であるダイビングサービスは、
急な僕の電話にとまどいつつも真摯に答えてくれた。
このオーナーの方にはいつも情報提供をいただいており、
マジメで熱心な経営者だと知っている。
やはりちょっとしたボタンの掛け違いで事故は起きるのだ。
業界側にバカがいれば、
事故ネタを読んだダイバーからも視野狭窄なバカが生まれる。
僕は“安全バカ”と呼んでいるのだが、
安全に潜ることがダイビングの目的になってしまうバカだ。
いや、安全に潜ることは正論だが、正論なだけにたちが悪い。
僕自身が学生時代、安全バカのクラブにいた。
一糸乱れぬ編隊を組み、
アイコンタクトのタイミングがちょっとでもズレたら叱られる。
まったく楽しくない。
以前、安全バカがロギングで、
ビギナーに「ナイフを持たないのは意識が低い証拠」と諭していた。
そのスポットは砂地の穏やかなビーチだったが、
「万が一を考えれば水中拘束に備える必要がある」と言いビギナーを困らせていた。
正論なので返答に困るところだが、ガイドがナイフを持っているし、
僕が「それ、億が一な感じですよ〜」と笑いながら言ったらムスッとされた。
漂流を想定すれば、
フードをかぶり、真水入りのペットボトルを持ち、
海面着色剤やシグナルフロートはもちろん、
救助用の凧、携行用の食料……キリがない。
しかし、ダイビングは“楽しむ”とか“ふざける”とか“気軽さ”
ということを抜きにしてしまったらつまらない。
南国の海でフードなしで潜る気持ちよさを捨てるのはいかがなものか、
エマージェンシーグッズにお金をかけ過ぎるのはいかがなものか。
安全に潜ることだけが目的なら和尚の衣装で潜ることも悪でしかない。
最も大事なことは、“主体的に潜ること”だと考える。
“連れていかれる”意識でいると驚くほど耳から情報が入ってこない。
自分で情報を集め、これらかどういうダイビングが行われるのか考える。
そして、何を持っていくのか、どう行動するのかを自分で決める。
お店側から提示される安全のラインを守ることは当然だが、
それ以上の安全のラインは自分の頭で考えるしかない。
今回のリポートも書いてある安全対策を全部守れ、
というのではなく、
自分なりの安全のラインを考えるきっかけになればいいと思う。
僕の例で言えば、
このリポートではレーダーフロートの携行が勧められているが、
僕はゲストで参加するなら今までのシグナルフロートしか持たないだろう。
ただ、レスキュー態勢が整っていないような海でのドリフトなら
真水入りペットボトルを持っていこうかな、と思ったりもした。
もちろん、プロ側としては安全バカなぐらいな用意周到さが必要だし、
初心者の人は最初は自分のことを俯瞰して見ることは難しいので、
とにかく知る努力とガイドの言うことを聞いて理解して実践する努力が大事だろう。