【奄美ダイビングログvol.4】トップガイドの古田さんと潜る奄美北部
ダイビング経験のほとんどを伊豆で積み上げた根っからの伊豆ダイバーである筆者・松田が、個人的な目線で奄美大島の海を紹介する「奄美ダイビングログ」。vol.4である今回はいよいよ奄美北部に進出し、ダイビング業界の中でもトップのガイドが集う「ガイド会」のメンバーのひとり、ダイビングショップ・ネバーランドの古田さんに水中を案内していただいた。トップガイドが魅せる奄美大島の水中世界とは一体。
トップガイド集団「ガイド会」とは?
ガイド会とは、「ガイド」という職業により関心を深めてもらいたいという想いを持つガイドが在籍している会だ。非日常である水中世界を現地インストラクターが自分自身の言葉で表現し、海だけに限らず「地球」をフィールドとして活躍し、各地域を代表する海の案内人として世界の海を届けている。
そんなガイド会に加入し、奄美大島を代表するガイドに海を案内してもらえる機会を得た私は何日も前からその日を心待ちにしていた。
1時間早く到着したダイビング当日
迎えたダイビング当日。充電済みのカメラとライトをカバンにつめ颯爽と家を出た。この日を待ち望んでいた私は興奮状態だったのか、集合場所の奄美北部にある喜瀬漁港に1時間ほど早く到着。山間部が目立つ奄美南部とは雰囲気の違う自然を感じて、冷めやらぬ心を落ち着かせる。
約束の時間になり、古田さんをはじめとするネバーランドのスタッフがゲストとともに到着。古田さんのやわらかい笑顔に挨拶を交わし、早速船に乗り込み器材のセッティングを始める。準備が整うと、古田さんが各ゲストを紹介してくれた。以前、私はダイビングインストラクターとして勤務していたこともあったため互いに自己紹介をしバディを決めるといった時間はどこか懐かしい気持ちにもなった。
いよいよエントリー!初めに迎えてくれた生物に大興奮
私たちを乗せた船は、台風が明けたばかりの外洋へと進む。いつまでも見ていられるほどの青い海の上を白波を立てながら贅沢に進んでいく。ポイントに到着し、チームごとにブリーフィングを受ける。確認事項はあらかじめ指導団体ごとに規定があるものの、ブリーフィングには各ガイドの個性が出るから好きだ。古田さんの柔らかい笑顔とユニークな言葉づかいで終始笑顔が絶えない。準備を済ませ、バディとともにいざエントリー。「海にお邪魔します」の精神で水中世界へ降りていく。
白い砂地が広がり、砂紋がはっきりと浮かぶ水底。その先にポツンと置かれたようにある小さな根に向かう。すると、古田さんから「止まって」の合図。指差す方向にいたのは、なんとマダラトビエイだ。ひし形のようなフォルムに、白色のまだら模様が特徴的。飛ぶように優雅に泳ぐ姿に一同釘付け。しかも、私は初対面。ひっそりと心の魚図鑑に新たな1ページを刻んでいく。
エントリー直後に訪れた嬉しい出会い。「お邪魔します」という気持ちで入ったからこそ、「いらっしゃい」と言われているような感覚にさえなる。突然のマダラトビエイとの遭遇で心を奪われていたため、残念ながら写真はない。ダイバーならよくあるシチュエーションだと思うのでご了承いただきたい。
ここはパラオ?初めてみるヨスジフエダイの群れに感動
大島海峡が通る奄美南部とはまた違い、東シナ海に面しているため回遊魚との遭遇も期待できる。黒潮の恩恵を受けた暖かい海流を好む生物たちが生息し、南国らしい色鮮やかな魚たちに癒されまったりとフィッシュウォッチングを楽しめるため初心者ダイバーでも安心だ。
奄美大島に滞在し1ヶ月が経過したが、まだまだ見たことのない生き物たちとの出会いが私の心を豊かにしてくれる。その中でもヨスジフエダイの群れに引き寄せられた私。海の写真や雑誌でも被写体に選ばれるほどの綺麗なイエローの体色に4本の白い線がチャームポイント。雑誌でしか見たことがない彼らとの遭遇は、私にとって憧れの芸能人に会えた時並みの感動に匹敵する。
たとえば、目の前にキムタクが現れたらどうだろう。興奮して言葉を失いその姿に釘付けになるはず。まさに、そんな感覚だ。奄美大島などの南の島では珍しい生き物ではないのかもしれないが、根っからの伊豆ダイバーにとってもそれなりの知名度がある彼らは、国民的アイドルと同じくらいの存在なのだ。
松田、4年越しのフォトダイバーに
これまでも、それなりにダイビング経験を積み重ねてきた私。見た景色を写真に納めたいと思い4年前にカメラを購入。しかし一向に上達する気配がなく、最近は簡単にきれいな動画が撮影できるGoProに頼りっぱなし。一応カメラを持って海に入るもののBCDにぶら下げたままなのはいつものこと。私にとってカメラは、もはやアクセサリーと化していたのだ。そんな私に古田さんは一言。
「カメラ使わないの?(笑)」。
「写真、苦手なんですよね」。
すると古田さんは、日頃データ整理もしないためこれまで撮りっぱなしにされ放置されていた写真を見てアドバイスをしてくれた。
「生物に近づく時はゆっくり。相手よりも遅いスピードで警戒心をといてあげると写真を撮らせてくれるよ」と古田さん。その他にも古田さんに言われたことを意識しながら、被写体と向き合う。インスタグラマーがよく使う「ファインダー越しの世界」とはこのことかと、少し嬉しい気持ちになりながらシャッターを押す。そして、見事撮影できた写真がこちら。
以前の写真と比較しても、我ながら上出来すぎる一枚だ。水中にいながら自分の撮影した写真にうっとり。今まで見返したくなる写真を撮ったことがなかったため、早く自分で撮影した写真をゆっくり見返したいといった感覚になったのは初めてだ。カメラもアクセサリーとしてではなく、本来の使用方法で活用され、4年越しに喜んでいることだろう。ダイビングの楽しみ方にまたひとつ、カメラが増えた瞬間だった。
水中生物の暮らしを魅せるガイド
「水中ガイド」と言ってもそのスタイルはさまざま。ガイドは自身が見て感じる世界観をゲストに伝えているようなもの。同じポイントでさえ、案内する人が違えばそこはまた別世界となるのは必然だ。古田さんのスタイルは「水中生物の暮らしを紹介するガイド」。邪魔ではないのかと不思議に思うほどの大きなお絵かき先生を存分に使い、面白かわいく生き物たちの生態や様子を教えてくれる。
水中ガイドは海と私たちの「仲介人」
古田さんのガイドはまるで海と私たちを繋いでくれる「仲介人」のようだ。生物が今に何をしているのか、何のためにここにいるのか、そして海や生物たちに対し「お邪魔します」という信念を持っているからこそ見える世界観がそのガイドから伝わってくるのだ。
奄美大島が世界自然遺産に登録され、また世界中の企業が自然と融合した体験型プログラムを率先して取り入れている今、ダイビングはその最先端ではないのかと、古田さんと出会い改めて確信した。また、自然学校やエコツアーなどで自然の大切さや素晴らしさを伝えるインタープリターの需要も高まりつつある。世界の需要に合わせダイビングインストラクターも水中に特化したガイドという名のインタープリターとして活躍できるはずだ。
これまでにもダイビング指導団体をはじめとし、インストラクターもダイビングを通じた環境教育プログラムについて発信し行動を起こしてきた。とはいえダイビングは、マリンアクティビティとしてのニーズが多いのも現実。しかし世界のニーズがSDGsをきっかけに、環境問題や社会貢献、地域創生になり始めている今だからこそ、ダイビングの新たな方向性も見出せるはずだ。
古田さんは奄美大島に移住を決めて16年になる。水中生物の暮らしを魅せるガイドは今に始まったことではないだろう。これまで続けてきた彼のガイドスタイルにやっと時代が追いついてきたと言わんばかりの充実した水中ツアーを満喫できる。奄美大島に訪れた際には、ぜひ彼と生き物たちの暮らしを覗いてみて欲しい。きっと素敵な世界が待っているはずだ。
取材協力;奄美大島ダイビングショップネバーランド