【vol.02】デジタルカード登場! BSAC JAPAN「 Cカードの変遷」
今年で35周年を迎える「BSAC JAPAN」。この記念すべき年に「BSAC JAPAN」では、新たにデジタルCカードアプリをリリース。Cカードはダイビングを楽しむうえで不可欠な認定証だが、「自分がダイバーである」ことのステータスを証明する大切なアイテムでもある。そんなCカードの変遷、Cカードの持つ意味などについて、「BSAC JAPAN」の大槻祥久氏に話を伺ってみた。
時代背景を反映したCカードには、それぞれにストーリーがある
オーシャナ編集部(以下、――)今回は「BSAC JAPAN」のCカードの変遷についてお話しいただくのですが、実物のカードをお持ちいただき、ありがとうございます。年代順にご説明いただいてもよろしいでしょうか?
大槻祥久氏(以下、大槻氏)
はい。では古いものから順に説明していきますね。まずは第一世代のCカードですが、こちらは長年登録頂いているメンバーから借りてきました。1987年から1990年代中盤まで発行されていたものです。当時はカードに写真が入っていることだけで、価値があったようです。今では顔写真入りのカードは珍しくありませんが、当時は運転免許証くらいでしたので、今でも大切に保有してくれている方がたくさんいらっしゃいます。
■第一世代のCカード(1987年~1990年代中盤)
――こちらのカードは、紙製のものをラミネート加工したものですね。時代を感じます(笑)。この緑色のカラー、懐かしいです。当時はBSACといえば、この緑色という印象が強かったです。
大槻氏
そうですね。BSACのイメージカラーは緑と青で、青はイギリス王室の公式なカラーのロイヤルブルーを使用していました。
――イギリス王室とゆかり深い、BSACならではのカラーですね。そしてこの次にはどんなCカードが登場したのでしょうか?
大槻氏
次は私がCカードを取得した頃のものになりますが、1990年代後半から2005年までこちらのCカードが発行されていました。当時「NOVICE(ノービス)(初心者という意味)」という名称が講習の種類分けに使用されていました。デザインも統一されていて、色でランクを分けていましたね。
■第二世代のCカード(1990年代後半~2005年)
――色でランク分けされているのは、わかりやすいですね。
大槻氏
NOVICEが緑、スペシャリティが黒、メンバーランク(ガイドダイバー、インストラクターのランク)は金、ファーストクラスダイバー(アマチュアダイバーの最高峰ランク)は青、というように色分けしていました。
――次の第三世代、こちらは水中写真が使われていて、「スキューバダイバーであることを証明するカード」というイメージが強く感じられます。
大槻氏
そうですね。このCカードはとても評判がよかったです。日本のダイビング人口もどんどん増えていた時期でBSACでは年間の発行枚数が多く、現在最も普及したCカードです。
■第三世代のCカード(2005年~2018年)
大槻氏
第二世代と同様に、エンボス加工(型押しして表面に文字が浮き出す加工法)が施されているタイプです。当時は珍しい水中写真家の写真を採用したカードデザインになっています。またこの時代には、NOVICEというランクの名称からOCEAN DIVERという名称に変わりました。NOVICEというのは初心者という意味なので、ランクが下というイメージが強いため、日本に先立って英国本国で名称が変更されました。
また水中写真は、それぞれのランクのイメージに合わせた写真にしています。ほかの指導団体のダイバーの方から「BSACのカード、いいね」と言われることも多くありました。
――そして次が現在のカードですね。こちらは第三世代と同じく水中写真を使っていますが、エンボス加工はされていないのですね。
大槻氏
BSAC JAPANの事業者(ダイビングショップの方たち)からは、エンボスがなくなったことへの心残りの意見がありました。しかし、ちょうどこの時期、Cカードの申請をオンライン化することが決まっており、その過程での会社の決定だったので仕方ありませんでした。
――そうなんですね。でも最近、エンボス加工のカードはあまり見られなくなってきていますね。これも時代の流れですね。
■第四世代のCカード(2019年から現在まで)
――時代とともに変化してきたBSAC JAPANのCカードですが、以前のものも大切に持っている方が多いそうですね。
大槻氏
昔にCカードを取得した人の方が、Cカードを大事に持ち続けてくれているような気がします。自動車の運転免許証のように更新制度がないので、このように取得したCカードを長年大切に持っていていただけることは本当に嬉しいですね。
一方で、様々な原因でCカードを紛失されている方も多く、毎年地方の警察署から、紛失された財布の中にその方のCカードが入っていて、弊社に問い合わせの連絡が入ることもあります。このように身分を明らかにする手がかりになっていたり、国によっては身分証明書として扱われていたりするようです。
近年はコロナの影響もありましたが、緊急事態宣言が開けると同時にCカードの再発行依頼もたくさんあって、びっくりしました。
Cカードの価値を高めていく努力が、指導団体には必要
――Cカードはダイバーとしてのスキルや知識を身につけていることを証明するものですが、それと同時に「Cカードを持っている=自分はダイバーである」というアイデンティティにもつながっていくように思います。BSAC JAPANが考える「Cカードを取得することの意義」について、お聞かせください。
大槻氏
BSACとしては発行するCカードはあくまで「BSACが定めている講習内容を修了したという証」であって、それ以上でもそれ以下でもありません。ダイバーが取得したランクのカードにBSACが保証できるものは、それ以外何もありません。
しかし実際に講習を実施するインストラクターの技量や質が異なると、同じカードでも受講者の満足度は異なります。ただし、それはあくまでインストラクターの努力による付加価値であって、エンドユーザーがCカードを取得する意義とは異なります。
それでは、インストラクターは付加価値を付けるために努力をしているのに、指導団体はCカードを発行するだけで何もしないのか?と問われれば、そんなことはありません。
納品されたCカードが、世間一般に受け入れられるものであるか?という部分で我々の認知度の向上に努める。また講習内容がISOなどの国際基準を満たしている内容であるか?という部分で、基準や講習内容をチェックしていく。
さらに受講生に提供された講習は、本当に基準に沿って実施されたものなのか?という部分が証明できるように質の維持に努めるといった作業が、Cカードの価値を高めていくと考えています。
――デジタルCカードについては、どうでしょうか?
大槻氏
3月にリリースした「デジタルCカード」は、Cカードを保有している方の利便性を上げるだけでなく、紛失された方にもメリットがあります。これは、指導団体からエンドユーザーに提供する新たな付加価値であると考えています。
このように指導団体からエンドユーザーに提供される新たな付加価値や差別化が、受講前のエンドユーザーに「BSAC」を選んでもらえる一つの要素になると良いなと思っています。
――Cカードを取得すると、ひと通りの講習内容を受けたことになりますが、実際に習ったスキルがすべてできるようになっているかは個人差もありますよね?
大槻氏
BSACの本国では「Cカード」をCカードとは呼ばず、「Qカード」(クオリフィケーションカード)と呼んでいます。「クオリフィケーション(Qualification)」とは資格、能力、またはそれらを有していることを意味します。つまりCカードとは、日本ではそれ自体を取得することが目的となっていますが、本来は講習で行ったことを「できるようになっている」ことに意義があると思います。だから、クオリフィケーションを維持するために、継続して潜っていくことも大事です。
今、Cカードが抱える問題点とは?
――Cカードが抱える問題点があるとのことですが、具体的にはどのようなことなのでしょうか?
大槻氏
すべてのショップではありませんが、現地でCカードの提示を求められない場合があるということです。これにはいくつかの要因があります。そもそも免許証ではないため、不携帯での罰則がないため、携帯する意識が薄れてしまうということです。しかしそれだけでなく、事業者側のオペレーションの問題点もあると思います。
たとえば一部のショップの話ですが、インストラクターがゲストダイバーを引率するツアーの場合、インストラクターが現地で申込書に記入するだけでCカードの提示を求めていないケースがあります。また現地サービスでは、ヘビーユーザーに対して毎回来られた際にカードの提示を求めていないケースがあります。
カードを提示する機会が減れば、おのずと使うこともなくなるため、その価値は下がってくる。そしてチェックされないことが常習化したり、都合の良い解釈をしたりする人と「なあなあ」な関係になると、さらに悪いスパイラルに陥ってしまいます。
ただ、国外では厳しくチェックをしている事業者もあります。国内でしか潜ったことがないダイバーが、海外で潜る際にCカードの提示を求められてビックリしたという話をよく聞きます。
その点、この度始まったデジタルCカードのシステムは、スマートフォンに取得したCカードを入れておけるので、突然Cカードの提示を求められても「持っていない」とか「忘れてしまった」という失敗が減るのかなと。取得したダイバーにとっても心強い仕組みだと思います。
――提供するショップ側が、「Cカードを取得する価値をエンドユーザーに与えられていない」ということもあるようですね?
大槻氏
都市型と現地型のショップで、Cカードを取得したダイバーの扱いは異なるように思います。都市型は、スキルアップのための講習をメインで運営しているお店が数多くあるなか、現地型のショップは、ファンダイビングのガイドがメインの業務とされている所が多くあります。
事実、BSACのデータでは、都市型はお客様が通いやすいという点からCカードをレベルアップしていく方が多くおられます。しかし現地型ショップでCカードを取得したお客様は、レベルアップする率は都市型と比べてとても低いです。現地型の場合、旅行費用や時間もかかるので、習いたくても難しいというのが背景にあるのではないでしょうか。
大槻氏
お客様からすると、都市型も現地型も同じダイビングショップであり、インストラクターも同じインストラクターです。都市型と現地型でダイバーが受けるサービスが異なったり、逆にランクの異なるダイバーが無理して同じサービスを受けたりすることはあってはいけないと思います。
具体的には、都市型ショップでは「あのポイントを潜るには100本は必要だと言われたのに、現地型ショップを訪れると20本でも潜れた」「ディープダイビングの講習を受けていないお客様が、現地型ショップで30mを超える深い水深に連れて行かれ、怖い思いをした」という話をダイバーの方から聞いたことがあります。本来ダイバーのレベルを確認するためにCカードが発行されているのに、そのチェックをせずにこのようなことが当たり前になると、このようなことだけでなく、地道にスキルアップをしてCカードを取得することの意味が薄れて、Cカードの価値は低下してしまいます。
デジタルCカードのメリット、デメリットとは?
――BSACでは、デジタルCカードの導入が3月から始まりました。その背景などを教えていただけますか?
大槻氏
デジタルCカードは他の指導団体が先行してリリースしていました。BSACも後れを取らないようにと、2018年度の総会(事業者向けのセミナー)で発表して以来開発を進めてきました。しかしさまざまな問題が見つかって開発が遅れていました。そしてコロナのタイミングで、遅れていた開発が一気に進み今に至ります。
デジタルCカードは、BSAC JAPANのCカードを取得した人であれば、アプリをダウンロードしていただき、本人確認の手順が済めば、すぐに見られます。アプリは無料なので、是非皆さまにも試してみていただきたいです。
国内でBSACのCカードを取得した人は、エントリーレベルだけでも16万人近くいらっしゃるので、多くの保有者にダウンロードして活用していただけると嬉しいです。ただし、メンバーランク(ガイドダイバーとインストラクターのランク)はまだ対応できていないので、今後の開発を検討しています。
――「デジタルCカードのメリット、デメリット」について、教えていただけますか?
大槻氏
はい。下の表を見ていただきたいのですが、デジタルCカードはダイバーにも、事業者にもたくさんのメリットがあります。
■デジタルCカードのメリット
ダイバー | 事業者 |
---|---|
Cカードを保有しなくても良いため、「忘れる」リスクがなくなる | Cカードの発送にかかる費用や、印刷物を削減できる |
複数のコースを受講しても、カード枚数が増えてかさばることがない | ゲストにこれまでより早くCカードを渡すことができる |
Cカードを紛失してもアプリをインストールすれば、カードが提示できる | Cカードの渡し忘れをなくすことができる |
Cカードの再発行の費用がかからない |
大槻氏
一方、スマートフォンのバッテリー切れの際提示できなくなる、Cカードを集める収集意欲が減少する可能性があるなどのデメリットもあります。しかしすぐにすべて従来のCカードをなくすわけではありませんので、今までどおりにカードを持ちたい方には発行させていただいています。
これからのCカードとは?
――デジタル化が加速している昨今、Cカードというもの自体が変化していく可能性がありますね。
大槻氏
先ほど「Cカードはあくまでも認定証以外の何物でもない」という話をしました。今のデジタル化の流れを踏まえて今後を考えると、これから「Cカードのあり方」が根本的に変わる可能性があります。
これはつまり、今「Cカード」という名前が一般的なので「デジタルCカード」と呼んでいますが、そもそも「カード」じゃなくても良いのではないか?ということです。
その人が修了した講習を証明するものは、「デジタル証明書」という方向に動いていく可能性があります。
最近、暗号資産などで良く聞く「ブロックチェーン」などでNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)と呼ばれる、偽造不可な鑑定書、所有証明付きのデジタルデータなどが注目されていて、著名なアーティストなどもこれに参画しています。
これと同じ技術を活用した証明書の仕組みが、大学などの単位認定、民間資格の認定証明などですでに導入されているそうです。
ダイビングの認定証がそこまで必要になるかどうかは分かりませんが、これだけ模造品やフェイクニュースが溢れている中で、まさに今後そういう仕組みの必要性が出てきているのかもしれません。
――ありがとうございました。
記念すべき35周年に、新たにデジタルCカードを導入したBSAC JAPAN。より便利に、スムーズにダイビングが楽しめるようになるので、ぜひアプリをダウンロードして、試してみていただきたい。
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1953年に英国ロンドンで設立され、今では世界中に支部を持つダイビング指導団体。2014年には英国王室ウィリアム王子が総裁に就任。
「SAFETY FIRST(安全はすべてにわたって優先する)」を基本理念に、各プログラムの開発等も行っている。
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