100mmマクロの常識が変わった。1.4倍撮影・高速AF・フルタイムDMF SONY新世代マクロレンズSEL100M28GMを水中で使う

水中マクロ撮影を楽しむダイバーにとって、レンズ選びは作品づくりを左右する重要な要素だ。SONYの新型マクロレンズ「SEL100M28GM」は、最大撮影倍率1.4倍に加え、高速AFやフルタイムDMFを搭載し、これまでの撮影スタイルを変える可能性を秘めている。実際に水中で使用した写真家・清水淳氏が、その実力と運用のポイントを詳しくレポートする。

「SEL100M28GM」の発売が発表された時、私は少し懐疑的だった。「また100mmマクロか」と、正直そんな印象だった。ところが実際に水中へ持ち込んでみると、その考えは数本のダイビングで覆されることに。このレンズは単なる100mmマクロではない。これまでのマクロ撮影のスタイルそのものを変える可能性を持った、新世代のマクロレンズだった。

今回紹介するのは、SONYの新型マクロレンズ SEL100M28GM(FE 100mm F2.8 Macro GM OSS) と、それに完全対応した AOI製専用システム。「AOI FLP-104 フラットポート」「AOI LG-SEL-100-MACRO-GM フォーカスギヤ」そして私が実際に運用している「SONY A7CⅡ × SEL100M28GM × AOIシステム」通称、「SONY A7CⅡ100マクロ清水スペシャル」である。正直なところ、見た目もかなり格好いい。しかし本当に凄いのは外観ではなく、その撮影性能だ。

水中マクロの常識を変える1.4倍撮影

最大の特徴は何と言っても「最大撮影倍率1.4倍」である。これまでフルサイズ用100mmクラスのAFマクロレンズは等倍(1.0倍)が一般的だったが、SEL100M28GMはレンズ単体で1.4倍。つまり、「今まで撮れなかったサイズの被写体を、クローズアップレンズ無しで大きく写せる」ということになる。

例えば

  • ●ウミウシの触角
  • ●小型ハゼの眼
  • ●エビ類の複眼
  • ●ピグミーシーホース

などを撮影する際に絶大な威力を発揮する。しかも1.4倍でありながらワーキングディスタンスも十分確保されているため、ライティングも行いやすい。これは水中写真家にとって非常に大きなメリットだ。

90mmマクロ最大の弱点だったAF速度

SONYユーザーなら誰もが知っている名レンズ。「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」もちろん現在でも素晴らしいレンズである。しかし水中撮影に限って言えば、「AFが遅い」という評価が常につきまとっていた。

特に

  • ●ベラ類
  • ●ハナダイ
  • ●クマノミの幼魚

などではAFが迷うことも少なくなかった。結果として「マクロはMF主体」という撮影スタイルになりやすかったのである。

新世代AFが別次元

SEL100M28GMではAF性能が劇的に向上した。実際にA7CⅡで運用すると、被写体を認識しながら高速C-AFで追従できる。従来ならMFで対応していたシーンでも、AF-Cのまま撮影できる場面が大幅に増えた。特に魚類撮影では恩恵が大きい。水中で動く被写体を追いながら、構図作りに集中できる。これは撮影スタイルそのものを変える進化と言える。

水中でこそ真価を発揮する「フルタイムDMF」

今回のレンズで私が最も注目している機能が「フルタイムDMF」である。AF-C動作中でもフォーカスリングを少し回すだけで即座にマニュアル介入できる。つまり、AFで大まかに合わせ、最後の微調整だけ指先で行える。さらに水中ではこれが非常に面白い使い方になるのだ。

フルタイムDMF スイッチ

FULL TIME DMF ON/OFFスイッチ

AOI専用フォーカスギヤを装着すると、ギヤをほんの少し触るだけで、瞬時にAF位置を固定できる。被写体が複雑な背景の中にいる場合でも、狙った部分へピントを置きやすい。これは従来のAFかMFかという二択ではなく、「AFとMFをシームレスに融合する新しい撮影スタイル」と言えるだろう。

フォーカスレンジリミッターも水中向き

レンズにはフォーカスレンジリミッターが搭載されている。選択できる範囲はFULL、∞~0.5m、0.7m~0.26mの3段階。特に水中マクロ撮影では0.7m〜0.26mに設定しておくことでAF速度がさらに向上する。

フォーカスレンジリミッター

∞〜0.5m / 0.7m〜0.26m / FULLの3段階設定

余計なレンジを探しに行かないため、被写体への食いつきが非常に良い。動きの速い生物を撮る際には積極的に活用したい機能だ。フォーカスレンジリミッターの設計が興味深い。一般的にこの手のレンズなら、FULL、∞〜0.5m、そして最短撮影距離付近の0.26〜0.5mという設定になりそうなものだ。ところがSEL100M28GMは違う。近接側のレンジが0.26〜0.7mに設定されているのである。

この70cmという数字が絶妙なのだ。実際の水中撮影では、被写体との距離が50cmを超える場面も少なくない。魚の警戒心やストロボワーク、構図作りを考えると、必ずしも超接近戦ばかりではないからだ。そのため0.5mで切ってしまうと、せっかくレンジリミッターを使っていてもAFレンジを超えてしまう場面が出てくる。

水中ではレンジ切り替えはできない。しかし0.7mまでカバーしておけば、多くのマクロ撮影シーンをそのままの設定でいける。スペック表だけ見ていると見落としてしまいそうな部分だが、実際に使ってみると、この70cmという設定に開発者の意図を感じざる得ない。単に数字を並べたのではなく、実際の撮影現場を理解したうえで決められたレンジなのだろう。水中で使っていて、「このレンズはよく考えられているな」と感じたポイントのひとつである。

AOI専用ポートシステム

今回AOIから専用設計された「FLP-104フラットポート」と「LG-SEL-100-MACRO-GMフォーカスギヤ」によって、水中運用が非常にスマートになった。専用設計だけあって、レンズの操作系が正確に再現されている。フォーカスリング操作も滑らかで、フルタイムDMFとの組み合わせは抜群。まさにこのレンズの性能を水中で100%引き出すためのシステムと言える。

SONY A7CⅡ100マクロ清水スペシャル AOIシステム全体

AOI UH-A7CⅡ + FLP-104フラットポート + LG-SEL-100-MACRO-GM フォーカスギヤ

このレンズと専用レンズポート&フォーカスギヤをAOI UH-A7CⅡと組み合わせて、クローズアップレンズやレンズキャップの一時的保管場所に最適なMPレンズホルダー67とを組み合わせた「SONY A7CⅡSEL100M28GMマクロ清水スペシャル」が完成した。

この組み合わせは、現在考えられるフルサイズ水中マクロシステムの一つの完成形と言えるだろう。1.4倍という圧倒的な拡大性能、高速AF、フルタイムDMF。そして優れた操作性。これまでの「100mmマクロ」のイメージを大きく覆すレンズである。

SEL100M28GMを使ってハウジングにカメラをセットするときのコツ

輪ゴム

レンズに輪ゴムをはめてフォーカスリングが不用意に動くのを止める。AFに設定していてもフォーカスリングが動いてしまうとAFが作動しないトラブルになる場合を未然に防ぐ。(フォーカスギヤ使用時には輪ゴムは外す)

フォーカスギヤの装着

  • ●初めに小さいパーツをレンズに取り付ける。フォーカスリングがAF/MF側に固定される。
  • ●大きなパーツはレンズをボディーから外してレンズ後方から装着する。
カメラボディにHSC-03装着

「SONY A7CⅡSEL100M28GMマクロ清水スペシャル」装着方法

①カメラボディーにHSC-03を装着してカメラボディーをハウジングにセットする。

カメラをハウジングにセット

②レンズにレンズギヤをセットしてレンズをハウジング前面からカメラに装着。ギヤの噛み合わせもここでチェックできる。

レンズをハウジング前面からカメラに装着

③レンズがカメラに装着され、ギヤの噛み合わせも確認できたらレンズポートをハウジングへ装着。

ギヤ噛み合わせ確認

従来通り、ハウジングにレンズポートをセットしてレンズがついたカメラをハウジング後方からエントリーさせようとすると、レンズギヤがハウジング内部に干渉する。レンズギヤが無い状態であれば後方からエントリーも可能だが、HSC-03の接続状態の確認はレンズポートを外さないと目視はできない。

カメラ設定

私が今回マクロ撮影で使っているAF設定や各種設定について紹介しよう。撮影モードはマクロ撮影では基本的にM(マニュアル)モードを使用する。シャッターは電子シャッターではなく、メカニカルシャッターを使用する。ISOはストロボ撮影時には「オート」は使用せずに固定ISOを使用する。基本的にスタートはISO200で良い。

ホワイトバランス

ホワイトバランス設定

ストロボ撮影時はAWBを推奨

フォーカスモードは動きが遅い被写体はS-AF、動きの速い被写体はコンティニュアス-AFを使用。

ワイヤレスフラッシュ設定

フラッシュのモードは、外部ストロボがAOI Q1-iの場合には「ワイヤレスフラッシュ」をOFFを選択。AOI Q1-iはダイヤルをTTLもしくはi-Mの位置で使用。AOI Q-1i以外の外部ストロボの場合には、マニュアル発光の使用に限定されるが「ワイヤレスフラッシュ」をONにする。

ワイヤレスフラッシュ設定

AOI Q1-i使用時はワイヤレスフラッシュOFF

オートレビュー・バッテリー節約設定

撮影後に自動でレビュー画面表示させるにはオートレビューを作動させ希望の表示時間をインプットする。

オートレビュー設定
モニター自動OFF設定

バッテリーの消費を抑えるテクニック。モニター自動OFFとパワーセーブ開始までの時間(サスペンド)を設定する。サスペンドした状態から復帰させるには、シャッターレバー半押し、もしくはどこかのボタンを押す。

パワーセーブ開始設定
モニター明るさ設定

モニターが暗いと見にくいのでモニターを明るく表示させる。

背面ボタン割り当て

下記の機能をメニューから探さずに一発で呼び出させる。水中撮影では重宝する機能を集約。

  • ●シャッター方式 メカシャッター→ストロボON/電子シャッター→ストロボOFF
  • ●露出効果反映切替 ストロボ撮影などでISO感度固定時、露出補正をかけた際にモニターの明るさをブーストアップ
  • ●調光補正 ストロボ撮影時の発光量調整

最終チェック:ホットシューケーブルアダプター(AOI HSC-03)接続確認

ストロボの発光トラブルのほとんどが、HSC-03の装着不良が原因が多い。HSC-03がハウジング側コネクターピンに正確にフィットしているか? ハウジングポート側から確認する。

HSC-03コンタクト確認

ハウジングポート側からHSC-03の接続を目視確認

正常に接続が行われている場合には、モニター上にフラッシュ充電表示、調光補正、フラッシュモードが点灯する。

実写/ニシキテグリ

ニシキテグリの産卵シーンを沖縄本島北部の今帰仁で撮影してきた。

ストロボはワーキングディスタンスの変化にも自動調光補正をカメラとストロボで行うSONY純正信号でのTTL自動調光発光が可能なAOI Q1iを使用する。TTL発光で秒間約5コマのマシンガン撮影状態にチューニングを行う。フォーカスはカメラにお任せ状態でフォーカスギヤの操作は全く行わなかった。

撮影モード

M(マニュアルモード)

絞り

F16.0

シャッター速度

1/160

ISO感度

3200

露出補正

±0.0EV

ホワイトバランス

水中

フラッシュ

ON / ワイヤレスOFF

撮影地

沖縄本島/今帰仁

カメラ

SONY ILCE-7CM2

レンズ

SONY FE 100mm F2.8 Macro GM OSS

ハウジング

AOI UH-A7CⅡ

レンズポート

AOI FLP-104

撮影倍率が高いためにいつものワーキングディスタンスでの撮影でも、ニシキテグリのペアがフレームアウトしてしまう程拡大倍率が高い。被写界深度が浅いために絞り値をF16と絞り込みピンボケを防ぐ作戦。絞り込みの反作用でフラッシュの光量が増えるのを防ぎ、秒間5コマ程度の連写を得るためにISO感度を3200まで上げた。結果的に高感度ノイズは増えなかったが、モニタービュー自体も感度アップされるので、ノイズで被写体確認はし難い。

結果的に高画質の産卵シーンを高倍率で撮影ができた。

撮影データは前画像と同じ。

編集後記

長年90mmマクロを使い続けてきた私だが、このSEL100M28GMを初めて水中で使ったとき、「これは久しぶりに撮影スタイルが変わるレンズだ」と感じた。AFで追い込み、必要なら指先でMF介入する。そして1.4倍の世界へ踏み込む。水中マクロ撮影は、また一歩先へ進んだのである。

インスタライブ

6月25日(木)20:00〜
ocean+α公式Instagram
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写真展情報

写真家・清水淳 写真展「LIGHT IN THE ABYSS」開催

写真展詳細

株式会社マリーンプロダクト(沖縄県那覇市)は、ソニーストア銀座 4F イベントスペースにおいて、写真家・清水淳による写真展『LIGHT IN THE ABYSS』を開催いたします。本展では、メキシコ・ユカタン半島の水中洞窟「セノーテ」を舞台に、極限環境下で撮影された作品群を展示いたします。地上から差し込む一瞬の光、完全な暗闇の中に浮かび上がる青、静寂の中に存在する地下水中世界。長年テクニカルダイビングを続けてきた清水淳だからこそ撮影できた、”地下世界の光”をテーマにした作品展です。

会場入口には、本展タイトル作品『LIGHT IN THE ABYSS』を2000×1200mmの大判サイズにて展示。さらに2500×1400mm大型作品を含む、全10作品を展示予定です。また会期中には、Sony α7C IIを使用した水中撮影技法や、セノーテ撮影の舞台裏を紹介するトークイベントも開催いたします。

写真展詳細ウェブページ:https://www.marine-p.com/news/light-in-the-abyss/

【開催概要】
会期:2026年6月23日(火)〜7月6日(月)
会場:ソニーストア銀座 4F イベントスペース
入場:無料
展示作品数:10点
主催:株式会社マリーンプロダクト
後援:日本洞窟学会 / TDI(Technical Diving International)/ RGBLUE / AOI LIMITED

【トークイベント】『Sony α7C IIで撮る CENOTE』
6月27日(土)14:00〜15:00 / 16:00〜17:00
7月5日(日)13:00〜14:00 / 15:00〜16:00
定員各回20名(完全予約制)
▶ トークイベント予約はこちら

セノーテ撮影ツアー

清水と一緒にメキシコ/セノーテを撮影します。セノーテ撮影を極める特別な撮影ツアーです。セノーテダイビングを熟知した専属モデルがフォトジェニックに入ります。ダイビングスタイルは通常(シングルシリンダー)、サイドマウントいずれでもOKです。

セノーテ撮影ツアー スケジュール

11/26 NH180 16:25成田→メキシコシティ14:15 / AM552 18:50メキシコシティ→カンクン22:30
11/27 セノーテ 撮影①
11/28 セノーテ 撮影②
11/29 セノーテ 撮影③
11/30 セノーテ 撮影④
12/01 カンクン→メキシコシティ
12/02 01:05 NH179 メキシコシティ発
12/03 06:30 成田着

定員:4名

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writer
PROFILE

1964年生まれ。水中写真や海辺の風景を撮り続けている。執筆や撮影を行ないながら、沖縄・那覇にて水中写真教室マリーンプロダクトを主宰。 また、カメラメーカーの研究開発にも携わり、水中撮影モードや水中ホワイトバランスの開発アドバイザーも務める。1998年にデビューしたOLYMPUS C900Zoomから最新機種まで全てのOLYMPUS水中モデルのチューニングテストを行なっている。カメラ機材に精通し、機材の特性を生かす能力が評価され、水中撮影アクセサリーメーカーのアドバイザーやテスト撮影の要望も多い。執筆活動では、水中撮影機材の解説や撮影の仕方、楽しみ方の記事をPADI Japan/デジカメ上達クリニック、OMDS/水中デジタルカメラ・インプレッション、マリンダイビング.ウェブ/水中デジカメ撮影教室、オーシャナ/カメラレビューを現在連載中。最近では、「清水淳のマンツーマン水中写真教室」が好評いただき熱意あふれるフォトグラファーたちと一緒に撮影をしている。
公式ホームページ https://shimizu.marine-p.com/ 公益社団法人日本写真家協会会員。

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