ダイビング指導団体PADIが発表した、新しいハンドシグナル
ダイバーにとってハンドシグナルは、会話ができない海中において意思の疎通を図れる大切な手段。アクティビティをより楽しくするために、サメやウミガメなど海洋生物が近くにいることを知らせるハンドシグナルもあるが、何らかのアクシデントが発生したことをバディやインストラクターに知らせるハンドシグナルについては、安全に直結するので特に覚えておく必要があるだろう。
ダイビング指導団体のPADIでは、2020年にダイバー自身の体調を伝えるための新しいハンドシグナルを発表。ダイビングをする前に、バディやグループと共有しておきたいところ。どんなものなのか早速みていこう。
「なんだか体調が悪い」を伝える新しいハンドシグナル
PADIが発行するThe Undersea Journalの2020年第三四半期版にて発表された新しいハンドシグナルがこちら。
顔から胸にかけて、片手を反時計回りにグルグルと回すこのハンドシグナルが示す意味は、
「体調が悪いので、すぐに浮上したい」。
従来のハンドシグナルでは体調が悪い部分を指して、バディやインストラクターに伝えていたが、このハンドシグナルであれば、‟体のどこが悪いか分からないが体調が悪い”場合にも積極的に使えるのがポイント。
このハンドシグナルが生まれた背景には、ダイビング中やダイビング終盤に水面近くで意識を失ってしまうという症例がある。ダイビング中に病気にかかることは稀だが、この原因の一つといわれる疾病「浸漬性(しんしせい)肺水腫」は、冷たい水などに体がつかることで末梢の血管が収縮し、心臓や肺に血液が集まって肺に水がたまるというもの。特に心肺に疾患があるダイバーや、高血圧のダイバーにみられるようだ。自分の意思に関係なく意識を失ってしまうのが怖いところなので、過度な息切れや急激な意識の低下など、ダイビング中に体調の変化を感じたら迷わず使用していきたい。
健康状態を十分に把握し、万が一に備えることが大事
ただ、このハンドシグナルをなるべく使うことがないよう、未然に事故を防ぐための準備にダイバー自身が積極的に参加していくことは大前提。海中に入る前に、ダイバーの健康状態を確認するための「ダイバーメディカル」を用いて体調を確認するタイミングや、ブリーフィング時に少しでも不安な点があれば、無理をせずインストラクターやバディに伝え、時には勇気を持って、ダイビングをしないという選択肢を取っていきたい。
とはいえ、こういった事前準備をすり抜けて海中で体調が悪くなってしまう事態があるからこそ、新しいハンドシグナルが追加されたわけであって、海中で実際に使用する可能性は十分にありうる。
いざという時に使えるように、ダイビングをする前にはグループ全体でこのハンドシグナルの確認、共有を意識し、これからも安全で楽しいダイビングライフを送っていけることを願っている。