【渡嘉敷村】海が舞台の環境保全ムービーを制作。制作者・武藤洋氏と出演者・MAAKO氏の想い
2014年3月5日に、国立公園として指定された慶良間諸島。その島々のうち、10余りの島からなり、慶良間諸島のほぼ東半分を占める渡嘉敷村という美しい自然豊かな村がある。近年この村では、来島者の増加による海の水質汚染やサンゴの破壊で、生物の数が減るなど環境への影響が懸念されている実情も。
そこで渡嘉敷村観光協会は、来島者に環境保全の意識付けすることを目的に、渡嘉敷村の美しい自然をテーマにした環境保全ムービーを制作。手がけたのは音楽ディレクターでフィルムメイカーの武藤洋氏とワールドトラベラーのMAAKO氏だ。今回、オーシャナ編集部が武藤氏とMAAKO氏にムービーにかける想いを伺ってみた。
※沖縄本島・泊港から渡嘉敷港を結ぶ「フェリーとかしき」と「マリンライナーとかしき」、そしてそれらの船舶が発着する泊ふ頭旅客ターミナルビル「とまりん」内で3月下旬から放映予定。
2019年、沖縄県・石垣島で開催された音楽と水中写真が融合したフェスで出会った二人。プロデューサーとしてフェスを企画した武藤氏と、そこにフォトコンテストの審査員として参加したMAAKO氏。以降、二人は意気投合し、その後も撮影やトークショーなど、何度か協働してきたという。そんな二人が今回タッグを組み新たに制作したのが、渡嘉敷村の環境保全ムービーだ。
渡嘉敷村 環境保全ムービー制作に至った経緯
「昨年、渡嘉敷島に潜りに行ったとき、私の作風を気に入ってくださっている知り合いのダイビングショップの方から渡嘉敷村の環境保全ムービーをつくってほしいと言われたんです。普段はエンターテインメントのムービーを制作することが多いのですが、渡嘉敷村の自然が大好きだったので挑戦することにしました。字コンテや制作所要日数などをまとめた資料を制作し、渡嘉敷村観光協会にプレゼン。それが見事に通りました。そのとき、ムービーに登場してもらう水中モデル思い浮かんだのがMAAKOさんで、連絡してみました」と武藤氏。
武藤氏からこの話を聞いたMAAKO氏は、「二つ返事で、やります!とすぐお返事しました。すごくやりがいがありそうでしたし、こんなムービーに携われるチャンス滅多にないな、と嬉しく思いました」と話す。
この話があったのは昨年の11月中旬。寒くなる前に撮影をするべく、すぐに制作に取り掛かり始めたそうだ。「契約書の捺印をしながら、カメラ回しましたよ!」と武藤氏は冗談混じりで、その怒涛の撮影開始の様子を教えてくれた。
渡嘉敷村の魅力について
これまでにも世界中を旅してきたMAAKO氏の目に、渡嘉敷村の海はどのように映るのだろう。
「渡嘉敷村の魅力はなんと言っても、ドカーンとした美しすぎる砂地ですね。プライベートでも何度も来ていますが、ここの砂地は、何回でも見に行きたくなります。砂地のおかげか、透明度も抜群で、他のどんな国のビーチにもない清々しいクリアさがあります。潮の流れもないので、泳いでいてとても気持ちがいいんです」。
武藤氏もMAAKO氏と同じ意見だという。
「僕も渡嘉敷村の魅力は、白い砂地が生む青い海と透明度だと思います。同じ慶良間諸島の座間味島や阿嘉島と近いから、似たような海なのかと思いきや、抜け感が全然違いますね。白い砂地に太陽の光が反射して、なんか海が青く光っているんですよね。圧倒的な水の色の綺麗さ。これは写真を撮ったり、ムービーを回すと、得してしまうほど。どんなに写真が苦手な人でも上手に撮れるはず」。
お二人が口を揃えて言う「白い砂地」。ムービーにも映っているので、ぜひ注目していただきたい。
ナレーションに出てくる「魔法がかかった美しの島」という言葉について
ムービー内で何度か出てくる、“魔法”という言葉にはどのような意味が込められているのか、武藤氏に伺った。
「このムービー内でいう“魔法”は、自然がつくり出す美しさを意味しています。渡嘉敷村は笑っちゃうくらい本当に綺麗で、魔法みたいな美しさなんですよね。けど昔と比べたら想像するに、人も多くなり、利便性のために山が削られたり、海が汚れたりして、自然がつくり出す美しさ=魔法は失われ始めてきている。つまり魔法が解け始めているという比喩として表現してみました」。
ムービー制作の難しさ、意識したことや大変だったこと
武藤氏は、観ている人が笑顔になるようなエンターテインメントなものを制作することが多かった。しかし今回は、“環境保全”という今まであまり挑戦したことのないテーマ。そこに対して感じた難しさとは。
「渡嘉敷村に向かう高速船内で、ワクワクした気持ちの方々が観るムービーなので、環境保全のことをどうやって楽しく伝えようか悩みました。自分で環境保全について勉強して、付け焼き刃的にやるのではなく、自分にある知識をベースにムービーの中に盛り込もうと思っていました。僕は、環境問題を柔らかく考えたいと思っています。目の前で小さい子が泣いていたら助けるように、折れているサンゴを見つけたら生きているサンゴの上に置いてあげる、そんな自分にできるちょっとしたことをやればいいだけだと思うんです。そして、『やっちゃだめ』というような禁止する表現は一切使わず、観た方の心に爪痕が残るように意識しながら制作しました」。
サンゴを拾い上げるシーンは、“自分にできることをやる”ということを表現する印象的なパートなのでやりたいと思っていたという。サンゴは一度折れても、接木の原理でまた再生することがあるからだ。ただ一方で海の生き物には触れてはいけないとされている。公開にあたって、ダイビング協会や漁業組合、環境省に確認した上で、ムービーで伝えるべきことの本質を見たときにこのシーンの行動は間違ってないと考え、実行に至ったのだという。
対して、水中モデルのMAAKO氏はどのようなことを意識して撮影に臨んだのだろう。
「水中では喋れないので、カメラマンとの阿吽の呼吸が大事になります。カメラマンとの初撮影だったら難しい部分もありますが、武藤さんとは何度もご一緒しているので、撮りたい画がなんとなくわかって、画角を想像しながら泳ぎました」。
実際のムービーでもMAAKO氏が優雅に泳ぐ姿が、海の綺麗さと相まってとても美しい。自身も普段からインスタグラムに投稿する写真や動画を撮影しているので、画角のイメージが問題なくできたのだろう。
タイトル「そのあとのおはなし。」に込められた意味
タイトルについて武藤氏に伺った。
「タイトルは最後に決めたんです。わかりやすくて、すぐに答えに辿り着くものではなく、あえてどうゆうことなんだろう?と思ってもらえるようなものにしたくて」。
オーシャナ編集部もタイトルの意味を考えたがわからなかったので、教えていただいた。
「冒頭の子どものシーンだけを見たら、“砂は白く、魚もサンゴもクジラも多く、魔法がかかった美しい村でした”というおとぎばなしのようなハッピーエンドですよね。しかし、そこで話は終わらず、今回メインで描いたのは、子どもと海のハッピーエンドの“そのあとのおはなし”。つまり、子どもは大人になり、自然も変化してしまった姿です。昔と今を比べることで、人間が自然に与えた影響を知ってほしいと思ったので、ムービーのストーリーに合わせてこのタイトルを付けました」。
ムービーで描かれているサンゴの白化やクジラの個体数減少について
毎年夏の間は宮古島に住み、海と身近な生活を送るMAAKO氏。実際にムービーで描かれているような海の変化は感じるのだろうか。
「5年前、台風がまったく来ないときがあり、水温30度の日が2ヶ月間続き、サンゴはみるみるうちに白化していきました。そしてその翌年には、死んだサンゴに苔が生えて海は真っ黒になってしまったんです。そこからしばらくしてサンゴは戻ってきましたが、少なからず人間の力で自然は壊されていると感じます」。
ムービーで描かれている内容は、決して想像の世界ではないのだ。
このムービーを通して伝えたいこと
最後にお二人にそれぞれ、このムービーを通して伝えたいことを伺った。まずは武藤氏から。
「まずは『おもしろかったな』と思ってもらいたいです。同時に心に何か爪痕が残っていて、海の環境について考えるきっかけとなったら嬉しいです。ムービーを見てくれた人の10%でも、行動を変えてくれたらこのムービーの価値はあると思います。自分にできる簡単なことから変えてみてほしいです」。
続いてMAAKO氏。
「知識が無いと、何が海に悪影響をもたらしているかわからないと思います。だからムービーを通して海の現状を知って、海に優しい行動が自然とできるようになればいいな、と。綺麗な海や生物の尊さを知ったら、日焼け止めを塗る瞬間やサンゴを踏む瞬間に心が痛くなると思うんです。心で感じて、行動してもらえたら嬉しいです」。
武藤氏とMAAKO氏の想いが詰まった本ムービーは沖縄本当・泊港から渡嘉敷村港を結ぶ「フェリーとかしき」と「マリンライナーとかしき」、そしてそれらの船舶が発着する泊ふ頭旅客ターミナルビル「とまりん」内で3月下旬から放映予定。ムービー最後に描かれる「Last Chance」という言葉にある通り、行動を変える最後のチャンスだ。今ここで変えなければ、渡嘉敷村の魔法はとけ、美しい自然は観られなくなってしまうかもしれない。持続可能な観光であるように、来島者一人ひとりの心掛けが何よりも大切になってくるだろう。
ちなみに、優しく語りかけるナレーションは、なんとMAAKO氏の声。音声が使われるのは4分だが、初挑戦ということで、ガッツリ約1時間半練習し、本番に挑んだそう。
渡嘉敷村は、渡嘉敷島をはじめ10余りの島からなる村。ダイビングでも有名な慶良間諸島のうち最大の島である。沖縄本島・那覇市の西方約30kmに位置するその村へは、沖縄本島の泊港からフェリー(70分)または高速船(35分)で行くことができる。
渡嘉敷村 公式サイト