「喜界島リーフチェック2023」を徹底解剖!サンゴ礁の健康診断とは

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鹿児島県の奄美群島の一つ、喜界島にあるサンゴ礁に関する研究に取り組む「喜界島サンゴ礁科学研究所」が主催、(株)第一リフォームが協賛する「喜界島リーフチェック2023」が10月7日に無事に終了した。

そこでサンゴ礁の保全活動について注目しているオーシャナ編集部は、一般ダイバーが参加できるこのイベントについて詳しく知るべく、喜界島サンゴ礁科学研究所の研究員、鈴木倫太郎(すずきりんたろう)博士(地理学)(以下、鈴木)にお話を伺った。すると、リーフチェック前に研究所で行うサンゴ礁の環境に関する講義、調査後のリーフチェックの調査結果の発表などを通じて、サンゴ礁の環境について深く理解することができる内容となっていることが分かった。そして、記事の最後には「喜界島リーフチェック2024」の開催情報も発表。この記事を読むと、今年のダイビング計画に喜界島を入れたくなるかも。

一般ダイバーをリーフチェックの参加対象としている理由

喜界島では一般ダイバーの参加が可能なリーフチェックが開催されている。それは、サンゴの保全や調査活動に一般のダイバー自体が参画できる機会が少ない中、サンゴ礁環境や保全を目的とした活動を体験してもらうことを通じ、一般の方にサンゴ礁の大切さ、重要さを知ってもらう機会のひとつになってほしいという想いから生まれた。

「サンゴ礁のダイビングにおいて、リーフチェックは科学的な視点と高付加価値な体験を、一般のダイバーの方々に提供ができるプログラムであると感じています。リーフチェックを通じ、より多くの方にサンゴ礁の環境の大切さを理解してもらい、サンゴ礁環境の保全に参画する機会にしていただきたいと考えています」と、鈴木氏は語る。

講義で「サンゴ礁」の基礎知識を学ぶ

「喜界島リーフチェック」では、リーフチェックの意義をより深く理解できるよう、リーフチェック前にサンゴ礁について学べる講義を行っている。そこで、まず本題へと入る前に講義で学べることの一部分を紹介していく。

講義の様子

サンゴの弱点とサンゴ礁が減少する原因

はじめにサンゴ礁について軽く触れておこう。サンゴ礁が発達する温かい海は、「貧栄養」の世界で、生き物たちが生きていくには過酷な環境だ。そんななかで、サンゴなどの光を利用して生きる動物や、海藻(ウミモ)海草(ウミクサ)などの植物が、サンゴ礁という浅い海で太陽の光を効率よく栄養に変換に変換することで、多くの生き物が、その栄養を利用して生きている。

そんな生き物たちの栄養源ともなるサンゴは、他の動物と違って決定的な弱点がある。それは「動けない」ということ。そのため、地球温暖化による高水温、陸域からの農薬や肥料、生活排水による富栄養化などの環境の変化や、ダイバーのフィンキックでサンゴを折ってしまうなどの事象から逃げることができず、死んでいってしまうケースが多いという。

サンゴと人間の関係

そんなサンゴに、私たち人間は知らないところで恩恵を受けているのをご存知だろうか。例えば、サンゴ礁という地形は、天然の防波堤として、強い波から人が暮らす地域を守る役割を果たす。また、私たちはサンゴ礁に暮らす魚や貝や海藻などの多くの食料を得ている。そのほかにも、ダイビングやスノーケルなどのリクリエーションの場としてサンゴ礁を利用しているなど、人間は多くの恩恵をサンゴ礁から受けている。このような恩恵を「生態系サービス」と呼び、私たちはサンゴ礁をはじめとする様々な生態系の恩恵を受けて生活を営んでいるのだ。サンゴ礁をはじめとする自然を守るという事は、私達の生活を守る事にも繋がる。

サンゴを守るためにできること

サンゴを守るためにできることはたくさんあると鈴木氏は助言する。
現在、サンゴ礁環境を脅かす主な要因は二つ。一つは地球規模の温暖化。もう一つはサンゴ礁に接する地域からのストレスだ。多くの要因がサンゴ礁環境を劣化させているが、私たちができることは多くある。一つは普段の生活で二酸化炭素の排出を減らすこと。サンゴ礁から離れた場所でも、生活の中で脱炭素に取組むことは、サンゴを脅かす海水の高水温を抑えることに繋がる。一方で、サンゴ礁を保全するためには、サンゴ礁の状態がどうなっているかをモニタリングすることが重要。サンゴ礁の状態を知るリーフチェックは、サンゴ礁を保全するためには、非常に重要な活動と言える。

いざ!リーフチェックを実施

講義でサンゴ礁環境がどのようなものかを理解することができただろうか。このように、サンゴ礁環境を学び、リーフチェックを行う意義を理解してから実際の調査に臨む。

リーフチェックの調査内容

リーフチェックで調べる項目は3つある。参加者は、調査方法ごとに3つのグループに分かれ、水中で記入ができる調査シートを持って、結果を記録していく。

①魚類調査

水深5mと10mのところに、メジャーで100mずつのラインを引く。そのライン上の空間にいる対象の魚を目で数える。1分間魚を数えたら5m進み数えることを繰り返し行い調査していく。この調査を毎年行うことで、サンゴの周りで群れて生活する対象魚類の増減を知ることができる。

リーフチェックの様子1

②海底に住んでいる生物の調査

海底に設置した100mのラインを中心として、2m50cm幅の間に生息する底生生物をカウントする。対象となる生き物は、オトヒメえび、伊勢海老、シャコガイなど、人間の採取の対象になりやすい生物だ。調査者は、岩の隙間を細かく探しながら対象の生物を調査していく。そうすることで、対象生物の増減を確認しすることができる。

リーフチェックの様子2

③底質(海底が何で覆われているかを調べる)の調査

海底に100mのラインをメジャーでひき、海底がサンゴや海藻、砂や岩など、何によって覆われているかを「砂→岩→サンゴ→サンゴ」というように、ラインに沿って50㎝ごとに判定して記録していくライン上の海底は何が形成されているかを記録していく。最終的に調査対象の海には、おおよそサンゴが何%存在しているかを把握することができる。

リーフチェックの様子3

2023年のリーフチェックの調査結果は?

「喜界島リーフチェック」では、調査が終わった当日の夕方に、参加者へ調査結果を発表し、調査結果を専門家と共に検証する。今回の調査結果からは、サンゴの被度も例年と比べて大きな変化もなく、サンゴを食べるオニヒトデや貝、また白化したサンゴや病気にかかったサンゴも確認されなかった。また、急激に増えたり減ったりした底生生物や、魚類も認められなかったことから、調査範囲のサンゴ礁の状況は大きな変化も無く健全な状態であったそうだ。

リーフチェックを実施している喜界島の荒木海域では、445年以上生きる大きな塊状ハマサンゴが見られる。また、島の北側に位置する小野津海域では、世界最北とされるアオサンゴの群生が広がる。喜界島は希少なサンゴを中心に多様なサンゴ礁生態系が広がる喜界島では、今後もサンゴ礁のモニタリングを継続することが重要だ。

リーフチェックを行い続けることの大切さ

リーフチェックとは、サンゴ礁の状況を調べる健康診断(モニタリング)である。サンゴ礁を保全するためにはサンゴ礁環境の変化を把握し、その変化がどのような原因によって起こるかを把握することが重要だ。そのために、毎年同じ場所でサンゴ礁の状態を調べることにより、サンゴ礁環境の変化を把握し、その変化の原因を知ることが、サンゴ礁保全の具体的な対策を講じる重要なヒントとなるからだ。

鈴木氏から読者へのメッセージ

「まずは、調査でなくてもダイビングでも良いので、喜界島にぜひ訪問してほしいです。キカイブルーと言われている海は透明度が抜群です!また、サンゴ礁環境を守ることにお力添えいただけると嬉しいです。できるところからご協力をどうぞよろしくお願いいたします」。

サンゴ礁を見るだけなく実際に調査することで、サンゴ礁の大切さだけではなく、海の大切さや自然の尊さも体感することができる。リーフチェックに参加して、サンゴ礁や喜界島の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

2024年は5月17日〜18日に開催が決定。開催内容や応募方法などの詳細は、喜界島サンゴ礁科学研究所までお問い合わせください。
mail@kikaireefs.org

喜界島リーフチェック2023参加企業・事業者
協賛:(株)第一リフォーム
協力:BLUE OECEAN、NAPS、OASIS、ヨネモリダイビングサービス、BSAC Japan、(株)キヌガワ

【プロフィール】NPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所
世界でも稀少な隆起サンゴ礁で形成された喜界島にあるサンゴ礁研究に特化した研究所である。「100年後に残す」を理念とし、国際的なサンゴ礁研究拠点として、地球規模での気候変動解析と未来予測のために必須である一次記録を次世代に残すための事業を展開している。
2018年から、喜界島におけるリーフチェックを主催しており、喜界島のサンゴ礁保全に積極的に貢献している。

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