東伊豆・赤沢でダイビング。火山が作った地形・水中・施設・グルメ、一挙ご紹介!
伊豆半島の中でも古い歴史を持つダイビングエリアのひとつ赤沢。ここは2019年12月以降、約1年半にわたりクローズしていたが、2021年6月よりダイビングエリアとして再オープンした。
そんな赤沢にオーシャナ編集部が突撃取材。ダイナミックな地形や賑やかな水中だけでなく、綺麗になった施設、そしてみんな大好きアフターダイビングのグルメまで一挙ご紹介。
今回ガイドしてくださったのは、伊豆半島の自然を愛してやまない「伊豆海ダイビングリゾート」の泉光幸氏。本来よく潜るホームポイントは川奈だが、海況によっては赤沢にも足を運ぶという。
また、水中カメラマン・堀口和重氏による水中レポートも!
目次
「南から来た火山の贈りもの」。自然豊かな赤沢ってこんな場所
東伊豆のちょうど真ん中あたりに位置する赤沢は、温泉地・別荘地として有名な緑豊かなエリア。観光地として人気の高い名湯スポット「赤沢温泉」でも有名だ。
伊豆半島の赤沢を含める東部はユネスコ世界ジオパーク(※1)に認定されている。3つのプレート(※2)によって構成されている本州の中で、唯一フィリピン海プレートの上に位置する伊豆半島は、約2000万年前、本州から数百kmも南に離れた場所に位置する海底火山群だった。フィリピン海プレートの上にできた火山島は、プレートとともに北に移動。やがて本州に衝突し、約60万年前に現在のような半島の形になったという。
※1 ジオパークとは、「地球・大地」を意味するジオ(Geo)と「公園」を意味するパーク(Park)を組み合わせた言葉で、地球を学び、丸ごと楽しむことができる場所だ。ユネスコ世界ジオパークはユネスコの定める基準に基づいて認定された高品質のジオパーク。
※2 地球の表面を覆う十数枚の岩盤。
その後もプレートによる地殻変動や火山活動が続き、美しい景観や温泉、深い海など、独特な自然環境を生み出した。伊豆半島には「南から来た火山の贈りもの」というテーマがあるそう。その中でも赤沢周辺の海岸は、約2700年前に噴火した伊雄山の噴火時に流れだした溶岩流でできたといわれている。
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火山でできた地形…。気になる水中はいかに!
赤沢は緑豊かな静かな入り江。ここには広くて穏やかなビーチポイントとダイナミックなボートポイントがあるが、今回は泉氏にビーチポイントを案内してもらった。現地ダイビングサービスは20歩たらずで即ビーチという海の目の前の「赤沢ダイビングセンター」を利用。
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赤沢ダイビングセンターの目の前で器材セッティングをしてエントリー(左 編集部スイカ、右 編集部セリーナ(筆者))
器材のセッティングができたら、いざ海へ!海が目の前なので、重い器材を背負ってもすぐにエントリーできる。さらに足元はコンクリートとなっており、海の中まで続く手すりもあるのでエントリーが非常に楽なのも特徴。なんだか最近腰が痛くなってきた筆者にとっても嬉しいかぎり。
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手すりを使ってエントリーできるので転びにくく、安全面も考慮されている
海の中は浅い砂地が続いており、最大水深も10m〜15mほどで講習や初心者にもぴったり。私たちが取材した当日(10月中旬)の天気は曇りだったので、黒い砂地と相まって海の中も少し薄暗かったが、流れもなく水温が24〜26度と非常に快適。
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穏やかな砂地が続く
ここには多種多様な生き物が生息。今回観られたのはイワシ、ミナミハコフグ、ミツボシクロスズメダイ、オオウミウマ(タツノオトシゴ)、ワモンダコなど。他にもアオリイカやソラスズメダイ、キタマクラ、ムレハタタテダイ、クマザサハナムロ、ヘラヤガラなどが生息している。生粋の千葉ダイバーである筆者にとってはどの生き物も珍しく、毎回テンションが上がる。
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水面近くにいるイワシの群れ
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水玉模様がとってもキュートなミナミハコフグ
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クルンとした尾部でロープや海藻に巻きつくオオウミウマ
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群れている姿が可愛いミツボシクロスズメダイ
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紫がかった綺麗なワモンダコ
しばらく浅瀬を水中観察しながら泳ぐと、目の前に立ちはだかる絶壁が。そう、冒頭でも記述した伊雄山の噴火による溶岩で形づくられたダイナミックな地形を水中から見上げることができる、赤沢の絶景スポットなのだ。
ここまで、安全停止が必要ない水深を泳いできたので、水面から少し顔を出して絶壁を見上げると、圧巻の大迫力。泉氏がダイビング開始前のブリーフィングで赤沢の地形の歴史を説明してくださっていたので、それを踏まえてこの景色を観ると「何千年もの歴史がある地形かぁ…」と感激もしつつ、初めて観る伊豆半島の自然の偉大さや力強さに感慨深い気持ちになった。
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陸の自然の造形美を水中からじっくり観察することができる、国内にも滅多にない場所
そして、あっという間にエキジットの時間に。感動も冷めやらぬまま、ゆっくり岸へと向かう。その道中、釣り糸を発見。というのも、赤沢には多くの釣り人もいるため、釣り糸がよく水中に落ちているそう。海洋環境保全のためにも、針に注意しながら無理をしない範囲でオーシャナ編集部も泉さんと一緒に回収した。
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積極的に釣り糸を回収する泉氏
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海の目の前に海ごみ専用のごみ箱があるので、釣り糸回収後もすぐに捨てられる
水中カメラマン・堀口和重氏がみた赤沢の「赤」生き物
伊豆を拠点に日本各地を潜り生き物の撮影を行う水中カメラマン・堀口氏も赤沢に訪れて、その様子をレポートしてくれた。堀口氏は「伊豆半島でも今もっとも熱く、ポテンシャルの高い海と言ってもいいぐらいの場所」というその場所を堀口氏の視点でご紹介。(2021年秋取材)
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赤沢 空撮
何がそんなに魅力的な海にしているのか?それは溶岩が作り上げた地形や流れ着く生き物の数、そしてレジャーダイビングの水深に現れる通常深場で見られる生き物たち。それ以外にもアオウミガメや根付き回遊魚が回って入ってきたり、この秋はザトウクジラまで登場したりしたのである。
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水中内の柱状節理
魅惑のハナダイ
メインで使われているボートポイントは3カ所。急な斜面になっていて、水底の岩や石の形や粒の大きさがポイントにより異なる。そのおかげで、普通の人が見るとわかりにくいところもあるが、生き物が定着しやすい環境のバリエーションが多い。南方種も定着しやすいようで、伊豆半島で数年前まで1匹でも出たら大騒ぎのハタタテハゼは、ボートポイント全体を探せば何十匹、何百匹もいるのではないかというほどだ。そんな中でもハナダイやベラといったダイバーに人気の生き物の種類と量は、伊豆半島のエリアでも別格と言ってもいいぐらいだ。
9月中旬まではコウリンハナダイが、オス・メス共に数多く見られた。このハナダイ、1匹だけでも登場したらハナダイ好きには話題になる珍しい魚なのである。だが9月下旬に台風がきてからは、姿を消してしまったようだ。少し残念だと思ったが10月に入ると赤沢ダイビングセンターの仲榮眞さんが、これまた驚くようなハナダイを見つけてきた。それが、キシマハナダイのオスである。
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キシマハナダイのオス
幼魚は伊豆半島や伊豆七島でも見られることはあるが、オスは水深がとても深いところに生息しているので滅多にお目にかかることができない。赤沢で見られている個体は水深が深めであるものの、レジャーダイビングで行ける最大水深のギリギリな場所。さらに近くにはメスもいるので、夕方には求愛行動を撮影できるチャンスもある。
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キシマハナダイのオスとメス
ただわかりづらい場所で、深場にいるため長時間滞在するのは安全面に不安な部分もあるので、赤沢ダイビングセンターのガイドがいないと観察や撮影は困難である。
キシマハナダイのオスが見られたのは衝撃的だったが、それだけでないのが赤沢の海。ほかの珍しいハナダイの種類も多いのである。フチドリハナダイの幼魚やベニハナダイの幼魚は、至る所で数個体まとまって見られる。小さいので見つけるのは難しいものの、色鮮やかでフォルムがかわいらしい。ほかの伊豆のポイントであれば、アイドル級の人気になるようなハナゴンベの幼魚も数匹見られるので、ここでは普通種のような扱いだ。またミナミハナダイも、撮影時には小さな群れを組んで元気よく泳ぐ姿が見られた。
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フチドリハナダイ 幼魚
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ミナミハナダイの小さな群れ
ハナダイの生態系もおもしろい。今の時期、夕方になれば、たくさんいるサクラダイが各所で求愛をしている。私は以前にサクラダイの求愛を大瀬崎で何日もかけてひたすら追い続けて、撮影するまでに散々な苦労をした思い出がある。だが赤沢の場合はオスの猛烈な求愛が、時間帯さえ合えば見られる数が多いので、とても観察や撮影がしやすいのだ。
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サクラダイの求愛
ハナダイだけじゃない!人気やおもしろい生き物もたくさん!
ここまでの話だとハナダイに特化している海のような印象だが、それ以外にも人気の生き物たちも数多く見られる。柏島や沖縄などでは根強い人気のクジャクベラの幼魚や、ハゼ好きにはたまらないアケボノハゼも観察されている。本当にここは伊豆の海なのか?と不思議な感覚になる。
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アケボノハゼ
珍しい生き物ばかりの紹介になってしまったので、少しおもしろい生き物を紹介していきたい。水深の浅い水底で休んでいたサザナミフグ。伊豆半島でもこの数年で見ることが急激に増えてきた、南方種のフグである。だが、とても珍しいわけではない。そんなサザナミフグをよーく見てみると、身体中に小さなコバンザメがついていた。しかも4匹も……。コバンザメも、今まではそこまで見られていなかった魚である。伊豆半島でこんなにコバンザメがついているのを見るのは、初めてだった。なかなか珍しい共生シーンに、遭遇することができた。
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モヨウフグと4匹の小さなコバンザメ
赤沢の「赤」の体色の生き物
ガイド仲榮眞さんが赤沢の頭文字にちなんで、赤い色の生き物も紹介してくれた。先程、紹介した情熱的な赤い体色のサクラダイ以外にも、温帯種のハナタツやハマサンゴの仲間など、赤い生き物が数多くいる。赤い葉状サンゴの仲間に乗るセボシウミタケハゼもまた、サンゴもハゼも赤色である。赤沢にちなんだ「赤」を探してもおもしろい。
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セボシウミタケハゼ
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ハナタツ
生き物の種類が多く、珍しいものを見るチャンスも多い、魅力的な赤沢の海。行く度に驚かされることが多く、個人的にもまた行きたいなという気持ちになる奥が深い海である。潜れば潜るだけ、新しい発見があるボートポイントであり、秋の後半も赤沢からの情報に目が離せない。
水中カメラマン 堀口和重
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日本の海の素晴らしさを伝えるため活動している⽔中カメラマン。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリストなどに関連する雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載、水中生物の図鑑や教書にも写真提供している。2019年に日本政府観光局(JNTO)主催の“「⽇本の海」⽔中フォトコンテスト 2019”にて審査委員、2020年には“第28回 大瀬崎カレンダーフォトコンテスト”の特別審査員も務める。近年は訪⽇ダイビングツーリズム促進を⽬的として“NPO 法⼈ Japan Diving Experience”としての活動も⾏っている。
オーシャナで行ってきた場所のレポートや連載の「イキイキと生きる!生き物伊豆紀行」を執筆。
▶︎堀口さんが執筆した記事はこちら
リノベーションして営業再開!赤沢のサービス「赤沢ダイビングセンター」
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2021年6月にダイビングエリアとして営業再開した赤沢に潜りにくるお客様に、ガイドをしたり休憩所やタンクを提供してくれるのが「赤沢ダイビングセンター」。営業中止前と建物自体は変わっていないが、内装を整え、外には器材セッティング場所や干場を新たに設置。ダイバーがさらに快適に利用できる施設へと変貌を遂げた。オーナーは、東京都出身のガイド歴20年のベテラン・仲榮眞充氏。到着するとサウナ愛好家だという仲榮眞氏が笑顔で迎えてくれる。
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清潔感ある白が貴重とされた内装。エントランスにはオーシャナ編集部が潜ったポイントマップが設置されている。
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更衣室も非常に広く、のびのび使える(写真は男性更衣室)
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シャワーが4台設置されているので、順番待ちをせずとも浴びられる(写真は女性シャワー室)
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ドライヤーも設置されている洗面台は女性にとっても嬉しい(写真は女性洗面台)
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屋上にはゆっくり食事や休憩ができるテラス席も
お腹が空いたダイビング後は、伊豆グルメを堪能!
赤沢から車で10分ほどの伊豆高原駅には「やまもプラザ」のという買い物と食事ができる駅ナカ施設がある。海鮮を味わえる定食屋をはじめ、魚の煮付けや地酒などを購入できるお土産店、カフェ、さらにはフィットネススタジオまで揃う場だ。
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一見、駅には見えない伊豆高原駅
お土産屋も広く、金目鯛漁が盛んな東伊豆らしい金目鯛に関係したお土産が数多く並んでいる。
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お土産屋で旅の思い出を
お腹を空かせたオーシャナ編集部が泉氏に連れてきてもらったのは、和定食や丼物を味わえる「海鮮料理 おかりば」。
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伊豆高原駅の1階に位置する「海鮮料理 おかりば」
筆者が注文したのは、笠子の煮付けとミニ海鮮丼、茶碗蒸しがセットになった「笠子煮膳」。金目鯛と迷ったが、笠子を食べたことがなかったので挑戦してみた。
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豪華な「笠子煮膳」
お店秘伝だという優しい甘さの煮汁が染み込んだ笠子は非常に柔らかく、実に美味しい!ご飯が進んでしまう…。ミニ海鮮丼の魚も新鮮そのもの。ダイビング後の食事がこんなにも美味しいのは、料理の素材自体の旨味はもちろん、水中で感動を共にした仲間と食べるからというのも理由の一つなのかもしれない。
赤沢ダイビングセンター
営業時間:8時〜17時
住所:〒413-0233 静岡県伊東市赤沢1-2
WEBサイトはこちら
アクセス(車):東京から東名高速道路を利用して約3時間半。
・東名高速道路、厚木ICより約85km(小田原厚木道路・国道135号線経由)
・東名高速道路、沼津ICまたは長泉沼津ICより約55km(伊豆縦貫自動車道・伊豆中央道・修善寺道路経由)
アクセス(電車):東京から東海道新幹線・東海道本線を利用して約2時間半。
・熱海駅より伊東線で伊東駅、伊東駅から伊豆急行線で伊豆高原駅まで
・伊豆高原駅から東海バスで約9分
・伊豆高原駅からタクシーで約7分
ダイナミックな地形や賑やかな水中、快適な施設、グルメという贅沢尽くしの赤沢。ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。
また今回、赤沢をガイドしてくれた泉氏はキャンプサイト・「伊豆海の森スマイルキャンプ場 IZUMI RESORT」も経営している。「この伊豆の大自然をもっとたくさんの方に感じて欲しい」という想いから2020年にオープンした。オーシャナ編集部は、グランピングと陸の自然を満喫できるこのキャンプサイトの取材も行ってきたのでこちらも併せてお読みいただきたい。