ナイトダイビング時に起きた潜水事故での判決事例

専門的な講習における事故の原則

Cカードを取得するための講習と、Cカードを取得したダイバーを引率するファンダイビングでは、インストラクターやガイドダイバーの監視義務の程度が変わることは言うまでもありません。

Cカードを取得するための講習では、受講生は自己の身の安全を守る知識や経験が乏しいため、インストラクターが受講生の生命・身体の安全を守るための高度の注意義務が課せられており、一方、Cカードを取得したダイバーは自分の身の安全を守る最低限の知識と経験があると考えられるからです。

従って、講習とは言っても、更に上級のランクを目指すための講習であれば、受講生と言っても安全にダイビングをするための一定程度の知識と経験があるため、インストラクターの監視義務もCカードを取得するための講習とは異なり、かなり軽減されたものになると考えられます。

ただし、専門的な講習や上級の講習と言っても、当日の天候や海況、ダイバーの経験、ブランクの有無などによって、Cカード講習同様の高度の監視義務が課せられることがあります。

撮影:峯水亮

撮影:峯水亮

ナイトダイビングにおける潜水事故の判決事例

ナイトダイビング中における事故でインストラクターが業務上過失致死に問われた刑事事件判決があります。

インストラクターが指導補助者3名(A,B,Cとします)と共に6名の受講生に対してナイトダイビングの講習をしていた際の事故です。

当日はそれまでの降雨のために視界が悪く、海上では風速4メートル前後の風が吹いており、インストラクターは受講生2名に対し指導補助者を1名ずつ配置して、担当の受講生を監視するようにという指示をしていました。

潜水を開始後、沖へ100メートルほど移動した水深3メートル地点で魚を捕え受講生らに見せると、インストラクターは再び移動を開始し、Cもこれに続きました。

しかし、受講生6名とAは逃げた魚を追っていたため、インストラクターが移動を始めたことに気付きませんでした。

Bはインストラクターの移動に受講生らが気付いていないことが分ると、インストラクターとCの後を追い、Cに追いつくとインストラクターを呼び戻すようにというサインをだしました。

一方、インストラクターも移動を開始して間もなく後ろを振り返るとBとCしかいないことに気づき、先ほど魚を見せた場所まで戻ってきました。

しかし、インストラクターが移動を開始した直後位にAと受講生6名は海中のうねりのような流れで沖の方に若干流され、しかも、Aはインストラクターとはぐれたことに気付くと、インストラクターを探そうとして沖に向かって数十メートル水中移動を行い、受講生もAについて移動をしてしまったのです。そのためインストラクターが戻ってきても受講生を見つけることができなくなってしまいました。

水中移動後、Aは事故者のタンクの残圧が60になっていたため浮上を指示しましたが、海面に浮上すると風波があって水面移動が困難と考え、再び水中移動を指示しました。事故者は自分の残圧を確認しないまま水中移動を続け、途中で空気を使い果たしてしまいました。

なお、事故者のそれまでのダイビングの経験本数は6本、他の受講生は15本程度で、Aは10カ月前にダイビングを始め、指導補助の経験は4回目でした。

判例における注意点

Aは海中ではぐれた際のルールを守らず、そのためインストラクターと猶更はぐれることになりました。
また、残圧が少ない受講生に水中移動を指示するというミスを犯しています。
しかし、この刑事裁判で被告人となったのはインストラクターであり、指導補助者Aではありません。

また、事故者は6本という少ない本数ですが、Cカードの保有者です。
残圧が少ないことは認識していたでしょうから、その後は残圧をこまめに確認し、エア切れになる前にリーダやバディに伝え、何らかの処置をとることはできたと思います。
事故者にも相当の落ち度があるようにも思えます。

従って、この事故はAと事故者自身のミスが相まって発生したものとも考えられますが、裁判所はインストラクターには「各受講生のタンク内の空気残圧量を把握するために絶えず、受講生のそばにいてその動静を注視し、受講生の安全を図るべき業務上の注意義務があるのに」、「不用意にその場から移動を開始して受講生らのそばを離れ、間もなく受講生らを見失った過失」があるとしました。

一般的は、専門的な講習や上級の講習では、インストラクターが残圧の管理までする義務があるとは考えられません。

Cカードを持っているダイバーであれば当然、自分で残圧のチェックをすべきだからです。
また、上級の講習であれば、通常、受講生の行動を一挙一動見ている必要もないとも考えられます。
そこまでの監視をしなくても受講生自身である程度のことができると考えられるからです。

しかしこの判例では、ナイトダイビングで極めて視界が悪い状態であったことや事故者のダイビングの経験はごく初心者という域であったこと等から、インストラクターにCカード講習同様の高度の監視義務を負わせたものと考えられます。

Cカードを持っているダイバーだから大丈夫だろうと安易に監視の程度を軽減するるのではなく、個々のダイバーのスキルや経験、海洋の状況など個別具体的な状況において、どの程度の監視が必要か、検討することが重要だ言えます。

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
近年、日本で最も多いと言ってよいほど、ダイビング事故訴訟を担当している弁護士。
“現場を見たい”との思いから自身もダイバーになり、より現実を知る立場から、ダイビングを知らない裁判官へ伝えるために問題提起を続けている。
 
■経歴
青山学院大学経済学部経済学科卒業
平成12年10月司法修習終了(53期)
平成17年シリウス総合法律事務所準パートナー
平成18年12月公認会計士登録
 
■著書
・事例解説 介護事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 保育事故における注意義務と責任 (共著・新日本法規)
・事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任(共著・新日本法規)
FOLLOW