絶海の孤島、沖縄・南大東島の水中鍾乳洞探検に密着【後編】

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世界には数々の水中洞窟や沈船、未知のエリアが存在する。そんな場所を調査し、ダイビングポイントとして開拓したり、記録に残したりする「水中探検家」の一人、伊左治(いさじ)佳孝(よしたか)さん。前編では沖縄の離島、南大東島の水中鍾乳洞の探検の様子をお届けした。後編では、そもそもなぜ探検をしているのか? なぜ洞窟なのか? その想いやおもしろさについて伺った。

―なぜ水中探検をしようと?

伊左治さん

私は本気で新しい取り組みをするときは、自分が第一人者・自分がリーダーになれることをやる、自分が主体としてチームを作ってやっていく、と決めていまして。
日本人の方って未知とか未踏の地の開拓って、基本的にやらないじゃないですか。特に水中なんて、人がやっているのを見ることはあっても自分ではやらない。じゃあ、自分がまず0→1を切り開くのでみんなやろうぜ、と思って。

―ここ2~3年の伊左治さんしか存じ上げないですが、確かに私の知る中でも日本でもトップレベルに活動的に水中探検をしていらっしゃるイメージです。では、水中探検の中でもどうして水中洞窟なのですか?

伊左治さん

必ずしも水中洞窟に限るわけではないのですが、一番未踏の場所が水中洞窟だと思うからですね。開拓されていない場所は水中洞窟に限られているわけではありませんが、僕らがやらないと誰もやらない、じゃあやってやろうじゃないかという気持ちがあります。

探検は「一人ではできない」からおもしろい

―南大東島以外の場所も結構探検されているんですか?

伊左治さん

そうですね。私は陸地から入る水中洞窟が好きなのですが、海中から入っていく水中洞窟の探検や、そもそも洞窟ではない水没した構造物や沈船の探検や調査なども行っています。他の場所は海から入る洞窟もありますが、穴があると聞けば現地に調査にいっていますね。何ヶ所か調査を予定しているところもありますし、南大東島の兄弟島の北大東島も調査しています。

―普通の人がダイビングをできる、ポイント化できそうな場所はありそうですか?

伊左治さん

そういう意味では南大東島が一番可能性がありますね。南大東島の洞窟にはほぼすべて入りましたが、水中まで続いている洞窟の数も多く、洞窟の入り口から水までの距離が近いところも多い。周りに町があるので物資も現地で調達ができます。ここを整備していきたい気持ちはあります。

他の地域では、遊びで使えそうなところはまだですね。たとえば、数百メートルの陸上洞窟(ドライケーブ)を抜けないといけないとか、洞窟を縦に降りていかないといけないとか。そういうところはガイドとしてゲストを連れてでは難しいですから。

―探検していると危ないこともあると思うんですけど、心がけていることなどありますか?

伊左治さん

とにかく準備をして、余裕を作るようにしていますね。現地調査に時間をかけること、疲れていたり不安要素があると思ったらその日は水中には入らないこと。そんな日はタンクを運んだりロープを張ったりの準備だけして、潜るのは次の日にするとか。

あとは見栄を張らないことも大事。何か不安があったらチームでお互いに話しますし、お互いにそれを話せる人としか本気の探検はしない。

水中から上がった後のケガも怖いので、器材運びを別の方にお願いして余裕を作ったりもします。

―伊左治さんにとって、探検のおもしろいところはなんですか?

伊左治さん

一人じゃできないところだと僕は思います。変な話、全部ルールを無視すれば水があれば勝手に入っていくことはできますけど、僕がやりたいのはそういうことではないんですね。探検して、その発見や喜びをチーム全員やその現地で協力していただいた方と共有することも含めて探検かなと思います。
最終的には僕が探検した場所できちんと整備ができたところは、その驚きや感動をみんなで共有できるように、みんなが集まれる場所にしたくて。

未踏の場所って、単純に人がたどり着いていないというだけでなくて、ここをどう活用していくのかっていう意味でも未踏だと思うんですよね。その場所にアクセスできるようにして、観光地として遊ぶ場所とか、研究する場所とか、仕事する場所として開いていくっていうのはすごく意味があるなと思うんです。地元の方やダイバーみんなで作りあげることで、洞窟だけじゃなくてそこでの新しい文化や交流が生まれますし、それが僕は楽しいなと思っています。

―未踏の場所に行きたいというだけではないんですね。

テクニカルダイビングのフィールドを日本に

―今後やっていきたいことはあるんでしょうか?

伊左治さん

やりたいことは二つあるのですが、1つ目は、今あるチームをさらに発展させること。
探検や調査、あるいはダイビングのチームとして「DIVE Explorers」は既に存在するのですが、これをさらにいろんな分野の専門家が集まるチームにしていきたいと思っています。各々が同じ水準以上のスキルや認識を持って探検や調査ができて、その上でそれぞれの得意分野が活かせるようなチーム。その時の目的に合わせてメンバーが集まって探検や調査を行ってということを、もっと大規模で効率的にやっていきたいです。たとえば、タイの洞窟事故でのケーブダイバーによる事故者の救出(※)を例に出すと、世界的に有名なケーブダイバーの中から、医療の知識があるとか特定の分野が得意なダイバーなどが集まって救助に赴きました。チーム総体の中から目的に応じてそういう小チームができたらいいし、世界で他に行われているプロジェクトにチームで参加したり、逆に私のプロジェクトに来てもらえたりしたらいいですね。

※タムルアン洞窟の遭難事故:2018年6月23日にタイのタムルアン森林公園内のタムルアン洞窟で、地元のサッカーチームのメンバーとコーチ計13人が閉じ込められた遭難事故。熟練のケーブダイバーたちによって救助が行われた。

伊左治さん

2つ目は、さっきも言いましたけれど探検して開拓した場所の一部を、地域やいろんな人を巻き込んで資源化していきたい。たとえば考古学的な価値がある場所もありますし、洞窟性の新種の生物がいるようなところもあり、まさに資源です。ダイビング的に言うと、町とか村とか、現地のダイビングサービスなどとも協力して整備して、観光資源として遊べるようにしていきたいということになります。遊べるようになって収益が出るようになれば、その場所もダイビングポイントとして継続的に潜られていきますし、そこから収益が得られれば僕らもさらに探検を続けられます。ずっとボランティアではやれないですからね(笑)。
また、そういう場所に行きたいという人に向けて、リアルな現場から学んだ知識や技術を基にしてテクニカルダイビングの講習をしていけたらと思っています。

―ありがとうございました。

未知の世界に飛び込み、そこを開拓していく伊左治さん。南大東島がケーブダイバーが楽しめるポイントになる日は近いかもしれない。今回ご紹介できたのは「水中探検」のほんの一部かもしれないが、ドキドキワクワク感や未来のダイビングエリアを作っていく楽しさが伝わったら幸いだ。

絶海の孤島、沖縄・南大東島の水中鍾乳洞探検に密着【前編】

水中探検家
伊左治 佳孝 Profile
1988年に生まれ、12歳からダイビングをスタート。
冒険をライフワークとして求める中でテクニカルダイビングに出会い、水中探検に情熱を燃やすことに。
それ以来、水深80mを越える大深度から前人未踏の水中洞窟まで、多岐に渡る探検を実践。
現在では水中の未踏エリアの探検とともに、その現場経験を伝えることのできる唯一無二のテクニカルダイビングインストラクターとして指導にもあたっている。
DIVE Explorers 公式HP

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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