絶海の孤島、沖縄・南大東島の水中鍾乳洞探検に密着【前編】

この記事は約6分で読めます。

なぜダイビングをするのか。水の中の生物に会いたい、非日常を味わいたい、美しい水中写真を撮りたい…その目的はさまざまだろう。中でも、水中探検というチャレンジングでエクストリームなダイビングがある。知られざるその世界をテクニカルダイビングインストラクター(※)で水中探検家の伊左治(いさじ)佳孝(よしたか)さんに取材をさせていただいた。舞台は伊左治さんが探検している場所の一つ、沖縄県・南大東島の水中鍾乳洞。水中探検の全貌、そしてその醍醐味とは。

※テクニカルダイビング:水深40m以深や、洞窟や沈船の内部など頭上が閉鎖された空間などの、緊急浮上ができない環境下でのダイビング

サンゴ礁が隆起してできた
南大東島は鍾乳洞のメッカ

南大東島は、沖縄本島より東に400km離れた場所にある。パプアニューギニア付近で数千年前にサンゴ礁が隆起してできた島で、少しずつ北に移動を続け現在の位置にある。陸地と接したことがないため「絶海の孤島」と言われ、今でも毎年7cmほど移動しているらしい。島の地形は環礁と言われるドーナツのような地形で、外周部分は崖のように切り立った高台、中心部が低地になっている。

そんな南大東島には鍾乳洞が数多く存在する。島を形作るサンゴ礁は石灰岩となり、長い時間をかけて雨水や地下水によって侵食され、鍾乳洞が形成されるのだ。鍾乳洞「星野洞」は観光スポットともなっており、「東洋一美しい」と言われている。また、100以上あるという湖沼は海と繋がっているとも言われている。

探検した穴は約40ヶ所!
地道に歩いて入れそうな場所を探す

伊左治さんが探検をしている水中鍾乳洞は、陸地でできた鍾乳洞が水没して出来た場所。海面の水位の上昇や、島自体が沈下することで、水に浸かっていったそうだ。その水中鍾乳洞につながる洞窟(陥没穴)が地表面にはいくつもあり、そこから入っていくのだ。かつて、洞窟は200はあったと言われているが、20年ほど前からサトウキビ畑の開発が大々的に行われ、埋め立てられてしまった場所も多いという。しかし、すべて埋め立てられているわけではなく、一部の穴は農業用水や生活用水を採水するために残されている。実際に島に広がるサトウキビ畑を見ると、ほとんどの畑の横や畑の中に大きな木がポツンと生えており、その根元を覗くと鍾乳洞につながる大きな穴が開いていることも多い。

サトウキビ畑の中や脇に木が生えている

木の根元にぽっかり空いた洞窟

伊左治さんによると今まで南大東島で探検した洞窟は、すでに40ヶ所を超えているという。まずは、徒歩で回ったり、地図をチェックしたりして地道に洞窟を見つけていく。次に所有者と交渉し、洞窟の中で水中まで到達できるルートを探し、そのうち水中に入れたのは15ヶ所程度。南大東島では昨年から探検を始め、何度も訪問しながら現地との関係を築き、水中鍾乳洞の調査を進めていったとのこと。

陸上の洞窟の先には水に浸かった鍾乳洞が

欠かせない協力者たち

今回の取材の際に印象的だったのが、たくさんの地元の方とコミュニケーションを取っていたこと。全部で3つの水中鍾乳洞の探検への同行取材を行ったのだが、すべてサトウキビ畑の中にあるもの。つまり私有地で、普段は農業用水を採取するために使われている穴なのだ。そのため、畑の所有者に事情を説明し、許可を得て探検をさせてもらっているというわけだ。所有者の皆さんは笑顔で快く迎え入れてくれていて、中には器材を洗うのに農業用水とホースを使っていいよ〜と言ってくれる方も。

南大東島でケイビングツアーガイドをしているオフィスキーポイントの(ひがし)和明(かずあき)さんも探検に欠かせない人物。20年以上前にこの島に来て洞窟に入って以来、洞窟に魅せられ、探検、ガイドを行っている。陸地の鍾乳洞から水中鍾乳洞へつながる場所への案内や内部へ入るサポートを今回はしていただいた。

洞窟の説明をする東さん(左)

そして、2023年8月に南大東島でダイビングサービスをオープンした屋嘉比(やかび)康太(こうた)さん。南大東島の出身で、地元で宿泊や建築などさまざまな事業を行っている。伊左治さんとは共通の友人から知り合ったそうで、洞窟の所有者の紹介や器材の置き場所、充填所の確保などさまざまな点で協力してくれている。

伊左治さん(左)と屋嘉比さん(右)

いよいよ水中へ
どんな光景が待っているのか

陸地での地道な準備を経て、いよいよ水中鍾乳洞へ入っていくのだが、これもまた一筋縄ではいかない。急な斜面を降り、器材を運び、綿密な打ち合わせの上で入っていく。タンクをどのように水に下ろすか、どういう順番で入っていくか、こういう場合はどうするかなど、普段のダイビングとは違うことが山のようにある。
しかし今回準備を見させていただいたが、スムーズに打ち合わせをして慣れたように準備をしていく様子が印象的だった。

こんなとこ入るんですか?っていうところに入っていく

狭い隙間からバケツリレー方式でタンクを搬入

あらかじめ設置していたロープでタンクを受け渡し

真っ暗な中、持ってきたライトを頼りにセッティング

そしていよいよ水中へ…!

エントリーするところ。ライトで照らすと幻想的

エントリーから10分程度経った頃だろうか、一度エントリー場所へ戻ってくる伊左治さんとそのバディ。「ホールになっていて広かったですよ! すごいですよ」とお互いに話しながら、楽しそうに「こっち行ってみましょうか」と今度は別の方向に向かっていく。

しばらく経つとまたエントリー場所へ戻ってきて、また別の方向へ向かう。少しずつ洞窟内の地形を把握していっているようだ。そして数分経った頃、姿が見えないのに二人の話し声が洞窟内に響いた。エアドームが見つかったので、水面から顔を出して会話をしていたのだ。エントリー場所から近かったため、すぐに戻ってきてエキジットする二人。水に入っている時間は30分程度だったと思うのだが、上がった後の饒舌ぶりから大変楽しかったと見てとれる。

【動画】探検の様子の一部始終はこちら↓

なぜ探検をするのか?
おもしろさ、今後の展開は

2日間という短い時間だが探検に同行させてもらい、個人的にはワクワクしっぱなしだったのだが「そもそもなぜ探検をしているのか?」「どうして洞窟なのか?」とふつふつと疑問が湧いてきたので伊左治さんにぶつけてみた。

絶海の孤島、沖縄・南大東島の水中鍾乳洞探検に密着【後編】

水中探検家
伊左治 佳孝 Profile
1988年に生まれ、12歳からダイビングをスタート。
冒険をライフワークとして求める中でテクニカルダイビングに出会い、水中探検に情熱を燃やすことに。
それ以来、水深80mを越える大深度から前人未踏の水中洞窟まで、多岐に渡る探検を実践。
現在では水中の未踏エリアの探検とともに、その現場経験を伝えることのできる唯一無二のテクニカルダイビングインストラクターとして指導にもあたっている。
DIVE Explorers 公式HP

Sponsored by DIVE Explorers

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
  • facebook
  • twitter
  • Instagram
FOLLOW