テクニカルダイビング体験会に行ってみた!水中探検家が紹介する新しいダイビングの世界

富士山を仰ぐ静岡県沼津市の絶景ダイビングスポット・大瀬崎で、水中探検家・伊左治佳孝氏が主催するテクニカルダイビング体験(以下、体験会)が7月に開催されるという話を聞きつけ、テクニカルダイビング未経験のocean+α編集部のセリーナが現地へ!テクニカルダイビングは誰でも挑戦できるのか?テクニカルダイビングの“体験”とは一体どんなことをするのか?など、レポートしていきたいと思います!

テクニカルダイビングとは?

まず、そもそもテクニカルダイビングが何か?ということに簡単に触れておきたい。テクニカルダイビングとは、“何かあったときにその場で浮上できる範囲を超えた、一般的なレクリエーショナルダイビングの領域を超えたダイビング”のことを指す。一般的なレクリエーショナルダイビングの範囲とは、1.水深40mより浅く、2.洞窟や沈船などすぐに水面に上がれない頭上閉鎖環境では太陽光が入っていて水深と進入距離の合計が40m以内 、3.無減圧潜水時間内(NDL内で、減圧停止を必要としない=DECOが出ない)範囲のことだ。この範囲を超えると緊急時でも簡単に水面に上がることができないため、より安全に関する知識や計画、それを実行するスキルが必要となってくる。より詳しく知りたい方は下記の記事をチェック。

テクニカルダイビングとは

そんなテクニカルダイビングで、実際に用いられる器材セッティングやスキルの一端を体験してみよう!というのが今回、開催されたテクニカルダイビング体験会だ。

テクニカルダイビング体験会スタート!

今回開催された体験会への参加条件は、ライセンスがアドバンスドランク以上で、かつダイビング本数50本以上であること。この体験会の開催理由を伊左治氏に伺ってみると「テクニカルダイビングは、一人ではなくチームで行うもの。だからこそ、まずはテクニカルダイビングというものがあることを知ってもらい、興味を持ってもらうきっかけをつくるために今回の体験会を開催しました。このような機会を通じて、新たにこの分野に挑戦する若手を育てたり、一緒にテクニカルダイビングを楽しむ仲間を増やしていきたいです」と熱く教えてくれた。ちなみに伊左治氏は、沖縄南大東島の水中洞窟をはじめ、世界各地のまだ誰も入ったことのないような場所の開拓も行っている。

そして、本日の参加者は普段からレクリエーショナルダイビングをしている20代の女性で、オーバーヘッド環境を潜ることに興味があるよう。「もともとメキシコ、ユカタン半島に見られる世界最大の水中鍾乳洞・セノーテでのダイビングに興味がありました。でも洞窟の中を潜るためには何が必要なのだろう?と思っているときに、たまたま今回の体験会のことをSNSで知って、こんなチャンス逃せない!未知のものに挑戦してみよう!と思ったのがきっかけです」とのこと。

まずは使用器材の紹介と器材セッティングから

今回の舞台は、大瀬崎。ここは、テクニカルダイビングに対応したダイビングサービスがあったり、横に広い沿岸線の複数箇所からセルフダイビングでビーチエントリーすることができるため、教育やトレーニングがしやすい環境が整っている場所と言われている。

当日朝、現地で合流した私たちは、大瀬崎のダイビングサービスのレクチャールームに向かい、自己紹介などをしつつ、まずは伊左治氏からテクニカルダイビングとは何か、使用器材の紹介、器材セッティング方法などのレクチャーを受ける。

今回のテクニカルダイビング体験会で使用した器材はレクリエーショナルダイビングとさほど変わらないが、何かトラブルが発生したときに、そのトラブルを解決するための器材の配置や取り付け方に工夫があるのが特徴といえる。

たとえば、2つあるうちの1つのレギュレータは、マウスピース(咥える部分)にゴムをネックレス状に取り付け、顎下にぶら下げるような形で配置する(テクニカルダイビングでは、ショートホースと言う。)。これは、レギュレーターを相手に渡したときに、もう一つのレギュレーターが必ず自分の口元にあるというメリットがある。
ネックレスを実際につくってみる。参加者はマウスピースを自分で取り外す方法に興味津々で撮影もしている

ネックレスを実際につくってみる。参加者はマウスピースを自分で取り外す方法に興味津々で撮影もしている

ネックレスを実際につくってみる。参加者はマウスピースを自分で取り外す方法に興味津々で撮影もしている

また、テクニカルダイビングでは、減圧停止を必要とする減圧ダイビングをすることもあり、その際には、メインで吸うシリンダーとは別に減圧用シリンダーを使用する。そこで必要になってくるのが、ガスの切り替えなのだが、今回はこれにも挑戦。減圧用シリンダーには、高濃度の酸素が充填されているため、決められた深度以浅で吸わないと酸素中毒の可能性がある。誤った深度で吸ってしまうことがないよう、シリンダーにガスを切り替えて良い深度が書かれたステッカーを貼ったり、ガスを安全に切り替える手順など、伊左治氏がわかりやすく教えてくれた。

ガスの切り替え方のレクチャーを受ける

ガスの切り替え方のレクチャーを受ける

セッティングした減圧用シリンダー。見慣れない器材を使用するのは、ワクワクする!

セッティングした減圧用シリンダー。見慣れない器材を使用するのは、ワクワクする!

水中でテクニカルダイビングを体験!

器材のセッティングが一通り済んだら、午後はいよいよ水中へ!ここでは、先ほど陸上でレクチャーを受けたガスの切り替えや、チームの仲間がエア切れをしたときのシミュレーション、そして極端に透視度が悪い洞窟を想定して目隠しを付けて目的地を目指す体験などをする。

まずは器材の装着。BCを背負うところまではいいのだが、普段のダイビングで使うレギュレーターよりも長いホースのもの(ロングホース)を使うので、そのホースは体の前を一周したあとに首の後ろを通って口元にくる。そして、ショートホースの方は脇の下を通してネックレスを首にかけて口元へ…。ややこしくなりながらも、見様見真似でやってみる。

器材の装着を完了するとこのような感じになる

器材の装着を完了するとこのような感じになる

長いホースのレギュレーターは首の後ろを通って口元にきて、短いホースのレギュレーターは顎下にぶら下がるような形。今回は背中には普段のダイビングと同じ空気が入ったシリンダーを背負っている。この装備に加えて、先ほどセッティングした減圧用シリンダーを装着するが、陸上で装着すると重いのでこのあと水中に入ってからBCの左脇にぶら下げる形で装着する)

では、ここから水中でのスキル体験の様子を見ていこう。

水中に入ったら、減圧用シリンダーを自分で左脇に取り付ける

水中に入ったら、減圧用シリンダーを自分で左脇に取り付ける

中性浮力でバランスをとりながら取り付けるのは難しい

中性浮力でバランスをとりながら取り付けるのは難しい

減圧用シリンダーを左脇に取り付け完了

減圧用シリンダーを左脇に取り付け完了

普段は1本だけ背負うシリンダーに加えて、今回はシリンダーがもう1本。それだけでもバランスや中性浮力が取りづらくなって、コツを掴むのが難しい。伊左治氏を先頭にしばらく、慣れるまで泳いでみる。

次にやったのは、エア切れのシミュレーション。エア切れのハンドシグナルはレクリエーショナルダイビングと変わらずだが、エア切れした相手にレギュレーターを差し出す手順、相手がレギュレーターを咥えたあとに、一緒に目的地を目指して泳ぐ方法などを体験した。

エア切れした相手にレギュレータを差し出す様子。実際にテクニカルダイビングで起こり得る状況を模擬したスキルを体験

エア切れした相手にレギュレータを差し出す様子。実際にテクニカルダイビングで起こり得る状況を模擬したスキルを体験

ガスの切り替えのスキルは、レクリエーショナルダイビングでもやったことのない初めての体験。器材のセッティング時に取り付けたステッカーを仲間に見せて、現在の深度で吸って問題ないガスなのかを確認したり、シリンダーに取り付けたレギュレータのホースを引き出したり、シリンダーのバルブを開けたりと手順が多くて、なかなか覚えるのに苦戦。そこで、伊左治氏は、手順を覚えるのではなく、“何のためにその行為をするのかを覚えるといい”とアドバイスをくれた。

ガスの切り替えをやってみる。初めてやるスキルで、最初はスムーズできなかったが、何回かやると徐々に慣れてきた様子

ガスの切り替えをやってみる。初めてやるスキルで、最初はスムーズできなかったが、何回かやると徐々に慣れてきた様子

水中スキルで最後に行ったのは、目隠しをした状態で張られたライン(ロープ)を頼りに仲間と一緒に目的地を目指すというもの。今回は2人1組で、まったく経験したことのない状況の中、手の感覚を頼りに進んでいく。このように視界がほぼゼロの状況になることも、洞窟でのダイビングでは稀にあるという。参加者2人とも落ち着いて、目的地に到達することができた。

ラインを進路に張って、慎重にそれを頼りに進む

ラインを進路に張って、慎重にそれを頼りに進む

充実感、達成感で満たされる大満足の1日が終了

テクニカルダイビングというと、どんなことをやるのか、いまいちピンと来ず、勝手に難しいイメージを持ちがち。しかし、体験会では伊左治氏が、テクニカルダイビングの要所をしぼってレクチャーしてくださったので、とてもわかりやすく、テクニカルダイビングにさらに興味を持つ良いきっかけになったのは間違いない。

水中でのスキルの実践は、中性浮力やバランスを取るのが難しく苦戦した様子もあったが、後半にはスムーズにできるようにもなって、水中から上がった参加者には達成感も見られた。

1日を終えて、参加者からは「テクニカルダイビングは確かに普段のダイビングよりも手順が多かったり、覚えることもたくさんあり、難しい部分もあったけれど、今日学んだ器材のセッティングや水中で冷静に行動するスキルは普段のダイビングにも確実に役立つと感じました。新しい経験ができて楽しかったです」とその満足感を伺える感想が。

伊左治氏からは「テクニカルダイビング初挑戦にしては、浮力やバランスのコントロールも取れていました。スキルの手順を誤っても、自分で気づいてやり直すこともできていたので、上出来ではないでしょうか。普段は、レクリエーショナルダイビングで各々がガイドについていくスタイルが一般的ですが、テクニカルダイビングではチームとして、お互いで計画を立てたり、バディ同士で残圧を確認しあったり連携をとりながら潜ります。これもまたテクニカルダイビングの楽しいところなので、今回の体験会をきっかけに一緒にテクニカルダイビングをやる仲間が増えると嬉しいですね」とお褒めの言葉をいただいた。

私自身、体験会を通じて、テクニカルダイビングの奥深さやレクリエーショナルダイビングとは違った魅力を多角的に感じることができた。技術的な面に関してもやりがいは大いにありそうだが、チームでの連携の大切さや楽しさにも興味が湧いてきた。

日本では、海外と比べるとまだテクニカルダイビング人口は少ないようだ。テクニカルダイビングに興味がある方は、まずは体験会などに参加してみるのも手かもしれない。今後の開催日時については、伊左治氏のSNSで随時発信予定!

水中探検家
伊左治 佳孝 Profile
1988年に生まれ、12歳からダイビングをスタート。
冒険をライフワークとして求める中でテクニカルダイビングに出会い、水中探検に情熱を燃やすことに。
それ以来、水深80mを越える大深度から前人未踏の水中洞窟まで、多岐に渡る探検を実践。
現在では水中の未踏エリアの探検とともに、その現場経験を伝えることのできる唯一無二のテクニカルダイビングインストラクターとして指導にもあたっている。
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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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