伊豆大島の台風と土石流から3週間。ダイビングを再開する現地の葛藤と現状

土石流災害により甚大な被害を受け、今もなお復興作業の続く伊豆大島。

週末に高速船で通える海としてダイバーにも人気で、皆さんも現地の様子が大変気になっていることと思います。

そこで、伊豆大島のダイビング連絡協議会事務局、シーサウンドの小川修作さんに現地の状況や率直な気持ちをお聞きしました。
※2013年11月5日(火)現在。

(画像提供/イエローダイブ 古山徹)

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小川さんご自身の当日の様子、被災状況を教えてください。

小川

まず、ひょっとしたら伊豆大島全体が被災したと思っている方もいるかもしれませんが、土石流の発生したのは局地的で、私の住む南部は土石流による被害はありません。

当日は、いつも通りの台風対策をし、夜中に風の音や雨の音で時折目を覚ましながら、特に変わった様子ものなく過ごしていました。

明け方に目を覚まし、大島の知人のFacebook投稿でいつもと違う雰囲気を初めて感じます。
元町港のすぐ近くで飲食店を営む方だったのですが、店の前が川のようになっていて、どこから流れてきたかも分らない流木と共に自分の車が流されていったという内容でした。

台風の被害を受けた伊豆大島

今なお続く復興作業。取り除かれた土砂は島の各所で一時保管されている

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被災の状況や全体像が見えてきたのはいつごろですか?

小川

ただならぬことが起きていることは感じていても、被災地の近くに住んでいない島民にとっては、朝になってもなかなか被害状況を把握できませんでした。
しばらくは、元町に住むダイビングガイド仲間に安否を確認する連絡などをしながら、ガイド仲間のFacebook投稿や報道でしか知る由がありませんでした。

被害が大き過ぎて、とても現場に近づける状況ではなく、島外の方と同じように、今起こっている事がテレビの向こう側の出来事。
山から流れてきた流木や土砂の映像を見ても、とてもすぐそこで起こっている出来事だとは信じられませんでした。

直接的な被害はありませんでしたが、私の住む南部は、通行止めで1~2日くらいの間、陸の孤島状態になっており、元町までの道も、最も被害が大きかった箇所は1週間近く通行できませんでした。

台風の被害を受けた伊豆大島

七間沢(ななみさわ)で大きく山が崩れている

小川

元町以外にも数か所でがけ崩れにより通行できない箇所ありました。
通行可能になっても、新たな雨が降る度に道路が冠水し、再度通行止めになったりを繰り返していました。

直接的な土石流被害という意味では、私の身近な方で被害に遭われた方はいませんでしたが、顔見知りの方が大怪我をされたり、家を失ったりという話は耳にしました。
仲間のダイビングガイドなどは、身近な方が亡くなられた方も多くいらっしゃったようです。

ダイビングショップも、私の知る限り、元町のショップが1件、岡田のショップが2件が土砂流入などの被害に遭われています。

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頻繁に更新しているブログに注目していたのですが、土石流のあった16日以降はしばらく更新がなく、10月28日にダイビングの報告がありましたが、何か心境の変化があったのでしょうか?

小川

ターニングポイントとなったのは台風27号。

直撃となる予報が出ていましたので、台風への準備・対策と捜索・復興を同時に進める事で島内の緊張感は尋常ではなく、島民に発信される防災無線もひっきりなしに流れていました。
報道でもあったように、島外に避難する島民も多く、私の周りでも何人か自主避難されていました。27号が最接近した25日夜には島全域に避難勧告が出されました。

そんな27号を無事にやり過ごした後は、島外のボランティアなども入ってきて、やっと復興へ向けたムードが高まっていきました。

御神火スカイラインという山へ上がる道路以外はすべて通行可能となっており、多少の雨では冠水などは起こらないくらいまで回復しました。
スーパーや飲食店なども大よそ通常営業に戻っています。

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ダイビングショップの皆さんの営業状況はいかがでしょうか?
こうした災害があると、レジャー産業はどうしても自粛と営業再開の間で揺れることもあると思います。

小川

そうですね。
まず、そもそもみんな災害直後(1週間くらい)はとても海に潜ろうだとか、仕事をどうしようだとか考えられる状況ではなかったと思います。
多くのダイビングガイド仲間は取材クルーのコーディネートなどを依頼されて現場を回っていました。

私は仲間のガイドと一緒に、災害3日後くらいに設置されたボランティアセンターの活動に参加しました。
捜索活動が同時に進行していたので、危険性の少ないエリアでの作業でしたが、庭や床下・床上に土砂が流入してしまったお宅が多くあるという事実を改めて知る事になりました。

しかし、先ほど言ったように、台風27号を無事にやり過ごしてから、ようやく、「これからどうしていこうか?」という話題になりました。

そこで、2013年10月28日(月)にダイビングポイント「秋の浜」の清掃がてら、ダイビングガイドで集まり、意見交換を行いました。

私たちは、エンターテイメントを提供するレジャー産業ですから、提供する側(ダイビングショップ)も提供される側(お客様)も「なにもこんな時にやらなくても」と思われがちです。

この感情は、いつになったらこう思われなくなるのか?

1週間経ったら?1ヶ月経ったら?半年?一年?
行方不明者が全員見つかったら?大島が完全に復興したら?何をもって復興したと言えるのか?

私たちはこれを生業にしていて、営業なくして収入が得られないのは誰もが理解してくれます。
しかし、理屈は通っていても、島内外に取り巻く複雑な感情はこの理屈についてきてくれるのか?
いったいいつまで待てば「あいつらだって仕事だし」って思ってもらえるのか?

いくら話し合っても正解なんて分りませんが、観光産業復活なくして大島の復興はあり得ないと思っています。
被災された方だって、そんな風に大島が衰退していく事を望んでいないと思います。

結局、根本となる復興への気持ちを共有した上で、あとは、これまで各店判断で営業自粛をしていたショップも、営業していたショップも、「これから先の営業についても個々に任せる」ということを確認し合いました。

ただ、協会として少しでも島の復興のお手伝いをしたいということで、「災害ボランティアセンター」への参加を決めました。
平日を中心に有志が集まり活動をしています。

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実際のところ、ダイビングポイントへの影響はありますか?

小川

例年大きな台風が直撃したような時に起こる被害という意味では、それなりにありました。

「トウシキ」は陸に打ち上げられた岩で車の進入が出来なくなったり、海底の砂が吹き飛んで地形が変わってしまったり。

台風の被害を受けた伊豆大島

車での侵入ができなくなった、南部のトウシキ遊泳場

小川

「野田浜」や「ケイカイ」は流木が海岸にたくさん打ち上げられていたり。

台風の被害を受けた伊豆大島

流木などが打ち上がった野田浜(現在は清掃済み)

小川

最も被害の大きかった元町に一番近い、「王の浜」(野増という地区)は海中の多くの場所に砂が溜まっていて、大幅に地形が変わってしまいました。
※ちなみに、大島の海域利用の諸事情から、元町エリアにはダイビングポイントが存在しません。

台風の被害を受けた伊豆大島の海中

台風後、砂地になった「王の浜」の湾内

小川

雨水と共に多くの土砂が流れ込んだと思われる、伊豆大島を代表するポイント「秋の浜」(泉津という地区)には、所々ヘドロのような砂泥が蓄積していて、フィンで巻き上げるとあっという間に視界不良になってしまいます。

また、「秋の浜」は、陸上も目に見えて被害を受けました。
海岸へ降りる入口付近が土砂崩れをしたり、駐車スペースの崖が土砂崩れしていたり、夏に地元の子供たちが利用しているプールが土砂で埋まってしまっていたり。

台風の被害を受けた伊豆大島

しばらくは雨が降るたびに沢を下って泥水が海へと流れ、水中への影響が懸念される

台風の被害を受けた伊豆大島

「秋の浜」の駐車場も山側が土砂崩れ

小川

ただ、現状は危険性がない程度に整備されました。

ダイビングという意味では、今はまったく問題なく潜れる状況です。

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ダイビングポイントが潜れる状況であれば、潜りに行こうというダイバーもいると思うのですが、現地の皆さんの受け入れ状況、雰囲気はいかがでしょうか?

小川

もちろん大歓迎です。
私たちは仕事をさせて頂ける事に感謝いたします。
潜りに来ていただけるのであれば、ご本人さえ良ければありがたいことだと思います。

ただ、観光でご来島されている方はまだなかなかいない状況なので、港や空港に降り立った時にちょっと場違いな違和感があるかもしれません。
島内の関係各所が自衛隊等のベースとして利用されていたり、特殊車両が島内を行きかっている雰囲気は、やはりちょっと特殊です。

それでも、純粋に楽しみに来て頂いても、復興の手助けのつもりで来て頂いても、ガイドを励ましついででも、動機は何でも結構です!
来ていただけた方にしっかり楽しんでいただくだけです。

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ダイバーならではのボランティア活動もあるのでしょうか?

小川

ダイバーならではの海での活動は一切ありません。
もしボランティアを望んでいらっしゃる方は、「一日ボランティア、一日ダイビング」などでご来島いただくのもよいかと思います。

ちなみに現在、東海汽船はボランティアで来島された方に、復路の割引サービスを行っております。

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最後にダイバーの皆さんへひと言お願いします。

小川

メディア等で発表されている通り、この度の自然災害で、多くの死者・行方不明者が出てしまいました。
大切な家や思い出の品々を失った方、未だ流入した土砂を除去しきれていない方も数多くいらっしゃいます。
土砂が流入してしまったダイビングショップも数件あり、今もなお復旧作業に追われています。

このように被災された方々を様々な形で支援しながら、これまで通りの生活を続けている方もおります。
私たちも、まさに、これまで通りの生活を続けようとしている島民の一人です。

ダイバーが大島に戻ってこない事には私たちの生活は戻って来ません。

大島でダイビングを希望される方がいらっしゃる限り、私たちは精一杯みなさんをおもてなしさせて頂きます。

もし今すぐの来島を躊躇される方は、1ヶ月後、2ヶ月後に、もう一度ご検討されてみてください。
さらには、半年後、一年後の伊豆大島に目を向けてみて下さい。

どうか長い目で伊豆大島をご支援頂きますようお願い致します。

オーシャナでは伊豆大島の現地を支援するためのダイビングツアーを計画しています。
2013年11/16(土)~17(日)を予定していますが、詳細はまた改めてサイト上で告知いたします。

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writer
PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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