沖縄の伝統工芸「紅型」をウエットスーツに!紅型職人・有山さんへインタビュー

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沖縄伝統の染色技法の一つとして知られる「紅型(びんがた)」。正式名称は「琉球びんがた」と言い、大胆な柄や鮮やかな色彩が特徴で、古くから沖縄の民族衣装などに使用される染物として愛されてきた。

そして沖縄といえば美しい海が広がる、私たちダイバーにとっても一度は行きたいダイビングスポット。そんな沖縄の伝統工芸と、ウエットスーツやドライスーツのメーカーの「ワールドダイブ」がコラボレーションし、紅型柄のウエットスーツ生地を製造している。

紅型ウエットスーツ

ワールドダイブのスーツの柄にあしらわれている「うりずん チンオウ」



水中写真家のむらいさちさんのウエットスーツにもあしらわれているこの紅型柄について、デザインを行った紅型職人・有山誠さんへインタビュー。自身もダイバーである有山さんのこだわりをむらいさんから聞いていただいた。

沖縄の伝統工芸「紅型」って?

今回インタビューにあたり、実際に有山さんが作業をしている工房へ伺った。工房へ入ると、作品や制作中の紅型、絵筆などが並ぶ。

琉球銀行主催「りゅうぎん紅型デザインコンテスト」2016年大賞作品が飾られている

むらい

そもそも紅型ってどういうものなのでしょうか?

有山

紅型の歴史は資料が少なく、解釈も様々で一様には言えないため私の解釈となりますが、琉球王朝の貴族の方を中心に、着物に使われていた染物といわれています。14世紀前後、琉球王朝は中国など近隣諸国と交流が深く、その際に取り入れられた染織技術が発展したものなんです。

むらい

王朝に愛された染物なんですね。

有山

そうですね。ただその琉球王朝も薩摩藩による琉球侵攻や、明治時代の王府廃止があり、その影響で紅型が衰退し、さらに第二次世界大戦で多くの型紙や道具が消失してしまいました。なので、その後に琉球の染物をされてた方々が改めて復活させたのが今の形のようです。

むらい

紅型と呼ばれるには、何か決まりはあるんですか?

有山

7色というところもありますが、僕の作家の先生のところでは決まった9色を使用しています。この9色に、別の色で「隈(くま)」と呼ばれるぼかしをつけるんですが、これにもルールがあるんです。例えば、「チンオウ」という黄色には、4色が隈に使用できます。こういうルールのもとで作られたものを紅型と呼びます。

むらい

なるほど。

有山

今後、紅型を見る機会があったら、この黄色には4色の隈だったよねって思い出してもらえると、今までとは違った見方ができると思います。

むらい

色の呼び方は、沖縄の方言なのでしょうか?

有山

紅型独自の表現ですね。今回ウエットスーツの柄の名前にもしている「チンオウ」と「ミジイル」は紅型の色の名前からとりました。

むらい

デザインやモチーフにもルールが?

有山

元々、古典模様は花鳥風月をモチーフにした中国の吉祥紋や日本の友禅染の影響を強く受けているようですが、ルールはないみたいですね。私がデザインしたものにはクジラや海の生物を入れることが多いです。

むらい

さすが、ダイバーですね!よく見ると、この大賞作品も海の中ですよね…?

有山

はい。「かくれんぼ」という題名で、色々な海の生物が絵や柄の中に散りばめてあるんです。

むらい

本当ですね!魚が色々なところにいます。あと、大きいタツノオトシゴが見える。

有山

あっさすがです!これをタツノオトシゴとわかってくれるのはダイバーが多いです。

ダイビングから始まり実現した紅型ウエットスーツ

むらい

そもそもの紅型を始めたきっかけはなんだったんですか?

有山

ダイビングが好きで2009年に沖縄に移住したのですが、せっかく沖縄に住んでるのであれば、沖縄の伝統工芸を何かやりたいなと思ったんです。そんなことを考えていた時、2015年にたまたま近くに紅型の工房を発見して、体験してみたら、面白いし家でもできるなと感じ教室に通い始めたのがきっかけです。

むらい

それでもう2016年には大賞を受賞したと。

有山

はい(笑)。

むらい

天才だ。

むらい

そこからの、ワールドダイブさんへのデザイン提供のきっかけはなんだったんですか?

有山

実は、最初は他のウエットスーツメーカーさんに持って行ったのですが、そちらではこの柄は難しいと言われてしまいまして。その後、たまたまお世話になっているタンク屋さんの方に話を持って行ったら、ワールドダイブさんにご紹介していただけました。

むらい

ダイビングは人を繋げますね。それに、やっぱり海やダイビングが好きな人が作っているっていうのは嬉しいですね。

有山

色々人との繋がりがあって、こういったお話をいただけるのはすごくありがたいです。

ウエットスーツ柄「うりずん」への想い

むらい

「うりずん」は何をイメージして作られたのでしょうか?

有山

一つは桜、そしてもう一つはクジラです。僕は慶良間諸島の阿嘉島に潜りに行くことが多いのですが、「沖縄で海を表現するものってなんだろう?」って考えた時に、慶良間諸島のクジラが思いついたんです。桜とクジラをモチーフに、色々アレンジしてみたっていうのがデザインの元ですね。

むらい

そこに桜が入ってくるところが面白いですね。

有山

日本だけじゃなくて世界に向けた時に、日本で有名なのものは何って聞かれたら「やっぱり桜なのかな」って思ったんですよね。

紅型ウエットスーツ

「うりずん ミヂイル」桜とクジラが海を舞っているよう

むらい

ちなみに「うりずん」とはどういう意味なんですか?

有山

「うりずん」とは琉球の言葉で「潤い初め」という意味です。

むらい

潤い初めとは?

有山

沖縄で、冬が終わり大地が潤い、命が芽吹く季節のことです。この時期に咲く桜と子育てをするために接岸するザトウクジラをあしらったのは、この「うりずん」という時期を表現したかったのもあります。

むらい

なるほど。

工房にはピンクバージョンも

有山

アンクルウエイトの柄や、スーツのワンポイントとかにするって構想もあるんです。そういう遊び心みたいなのがスーツにもあった方がいいかなって。そう考えるとやっぱり海の柄。ジンベエザメとかクジラとかイルカなどは入れたいかなっていう。

むらい

ダイバーだったらそれは嬉しいですね。先日ロケの時に、「そのデザインいいね」って声かけてくれたのが外人さんでした。そんな反応をみると、外国でも受け入れられるのかなって思います。

有山

僕もこの柄のウエットスーツを着させていただいて、乗り合い船に乗った時、「あ、いいねそれ」ってちょっと知ってるガイドとかインストラクターの人に言ってもらえた時、嬉しかったですね。日本のダイバーって黒いウエットスーツがかっこいいっていうイメージがついている気がしていて、こういう派手なの着てるとやっぱプロじゃないんじゃないかって見られがちなんですよね。

むらい

そこは、僕が完全に崩していきます!(笑)

有山

素敵です(笑)。

むらい

話のきっかけにもなりますしね。僕も20年以上ダイビングやってて黒のウエットしか着たことなかったんですが、もっとおしゃれも楽しんだ方がいいなと思っていたら、ちょうどこのデザインがあるよ、ってワールドダイブさんが言ってくれたんです。

スイカ

大人気でしたね。

むらい

ウエットスーツデザインの読者投票が圧倒的でしたね。

▶︎読者投票の結果はこちら:【結果発表】読者投票によりむらいさちさんのウエットスーツが決定!

むらい

今後こんな作品作ってみたいとか夢とかあるんですか?

有山

僕はセルフで青の洞窟で有名な真栄田岬とか砂辺海岸に潜ってるんです。その潜ってる場所を紅型で描いてみたい。

むらい

見たことないそんなの。

有山

ダイバーだとほとんど真栄田岬ってご存知だと思うので、「あっこれ真栄田岬のこういうとこだね」っていうのが描けたら面白いかな。

むらい

陸の風景と水中のお魚、半水面みたいな世界がイメージできます。

有山

それから、リアルにウミガメだけを全面的に描いてみたいとかそういう構想は色々あるんですけど。いかんせんちょっと大変で。大変手間なんですよ紅型って。

むらい

どうやって描くんですか?

有山

せっかくなので、やってみますか?

むらい

ぜひ!!

むらいさちも挑戦!紅型制作の工程

有山

まずデザインしたものから、型紙を作ります。

むらい

えー!型紙なんだ!

有山

これを布の上に乗せて糊を塗り、糊が塗られていないところを染めるんです。

制作途中の紅型

むらい

もちろん手で染めるんですよね?

有山

そう、手で染めるんですけど、一つずつ、一色ずつ染めていくんです。

むらい

意外と大変…。ちなみに「うりずん」はどれくらいの制作期間がかかったんですか?

有山

デザインからすると、3〜4ヶ月はかかりましたね。

むらい

すごいですね!

有山

そうなんです。この作品は、一度色を染めたら染めたところだけ糊をのせ、乾いたら別の型紙を置き、糊をのせて乾かして染めるっていう作業を繰り返して制作しています。

むらい

染めて乾かすというのを、何回も繰り返すんですね。

有山

そうなんです。

優しく見守る有山さん

むらい

できました!

有山

いい感じです。このコースターも、本当はしっかり乾かした後、蒸して色を定着させるのですが、今回はドライヤーで熱を加えて色を定着させましょう。これを2週間くらい乾かしたら、水につけて糊を落としてください。それで完成です。

むらい

楽しみです!最後に読者の方へメッセージをいただけますか?

有山

是非、ワールドダイブさんのこの柄を着て沖縄に潜りに着てください。特に沖縄が好きな人は、ワンポイントでもこの柄を使っていただけると嬉しいです。コロナ禍で大変な時ですが、潜りに来て、沖縄の自然を満喫してくれればと思います。

むらい

ありがとうございました。

ちなみにむらいさん作のコースターはどうなったかというと…?

完成!

むらい

有山さんからお話を伺い、紅型のイメージ自体がらっと変わりました。試行錯誤し、すごく時間をかけて作られた紅型のデザインと聞いて、自分のウエットスーツも愛着をもって大切に着たいと思いました。今後のワールドダイブさんとのコラボも楽しみにしています。

海とダイビングを愛する有山さんの想いが詰まった紅型柄「うりずん」。ぜひ新しくウエットスーツを作る際に取り入れてみてはいかがだろうか。

▶︎紅型柄「うりずん」があしらわれたウエットスーツはこちらから

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図WD

「あらゆる環境で快適なダイビングライフをお届けすること」をモットーに、国内生産にこだわり、自社の工場でスーツを製造している総合スーツメーカー。設計、素材、装備、そして技術のすべてにおいて、現在得られる最上のクオリティで仕上げ、その名の通り世界の海で通用するスーツを作り上げている。

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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