オクトパスは右側につけるべきか、左側につけるべきか(後編)

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前回の記事(オクトパスは右側につけるべきか、左側につけるべきか(前編))の続きです。

さて、次はもうひとつの対応方法。
いわゆるオクトパスブリージングについてお話しよう。

エア切れダイバーへの速やかな対応

エアを与える側のダイバーが、その時呼吸しているセカンドステージを絶対に口から離したくない、と決めた時点で、エア切れダイバーには、エア切れダイバー専用のセカンドステージが必要になる。
これも、オクトパス登場の背景のひとつだ。

オクトパスをエア切れバディ用のセカンドステージとした場合も、真っ先に考えるべきは、先にお話した緊急時における対応の即効性と確実性だ。

本当に切羽つまったエア切れダイバーは、エアが手に入りそうな相手に突進してくる。

そんな相手を目の前にして、あるいは、望む以上にド接近されてしがみつかれそうになった状況でも、相手が咥えやすいよう、善意をにじませた状態で、相手にオクトパスを手渡すことが出来るか?

オクトパスを右から出すか、左から出すか以前に、まずそこには、切羽つまった状況でも、確実かつスムーズにオクトパスを手に取り、エア切れダイバーに手渡わたすことができるための器材配置と、反射レベルで対応可能なスキルが必要となるのだ。

特に、バディの位置関係が正しく保たれてたいた場合(これはバディは非常に近い位置にいる)、この対応には間髪おかず、の枕言葉が不可欠だ。
だって、エア切れで取り乱したダイバーが、触れられる位の近い位置からエアを渇望して迫ってくるんだもん。

よって、この対応はほぼ一発勝負。
最初の対応をミスってエア切れダイバーにしがみつかれたら、後の対応の難易度は一気に高くなる。
最優先事項が二重事故を防ぐ事にFIXされても不思議でない。

ということで、オクトパスをエア切れダイバー専用と決めたら、まず、オクトパスの配置とエア切れダイバーへの対応の完成度の追求に力を注ぎましょう。

この件をこれ以上掘り下げるとテーマが完全に変化するので、今回は、切羽つまったエア切れではなく、そろそろ残圧が心配になってきたから、とりあえず余裕がありそうなバディのお世話になろうかな、的な余裕のあるバディに対するエアの提供を前提として、以降の話を進めマス。

セブ島のサンゴのシルエット(撮影:越智隆治)

オクトパスの右出し、左出しを決める要素

こうした場合も、やはり速やかかつ、確実なオクトパスの提供は大事だが、しかし、緊急性がないだけ余裕を持って動けるし、相手の協力も望めるし、ちょっとしたミスも結果オーライで許される。
よって、これは、宝塚のミュージカルスタイルの台本が通用する状況と言えるだろう。

こうした状況下では、エアのシェアが始まってからの動きがオクトパスの右出し、左出しを決める大きな要素となる。

もし、エアをシェアしたまま水中を移動することを前提としたら、オクトパスは左出しが便利だ。

エアをシェアしたまま水中移動することが前提なら、オクトパスは左出しが便利

エア切れダイバーを供給ダイバーの左側に配して横並びすれば、ファーストステージの左側から出ている中圧ホースは、その長さをそっくりバディ間の距離として使えるし、エア切れダイバーにとっては、ありがたく頂いたセカンドステージが右側から出ている状態となる。

つまり、普通に自分のレギュレーターで呼吸しているのと同じ自然なポジションでの呼吸の続行が可能となる。

従って、ボートダイビングで、とりあえずアンカーリング地点まで水中をご一緒して戻りましょう、とか、ビーチエントリーでエントリーポイント近くまでは仲良く水中を泳いで戻りましょう、みたいな作戦を想定するなら、第一選択肢は左出し仕様のオクトパスだ。

右出しのオクトパスはエア切れダイバーを左に配すると、右側に出た中圧ホースがエア供給ダイバーの体の前か後ろを経由して左側に伸びることとなり、バディ間の距離を十分に保つことが難しくなる。

バディ間の距離が狭すぎると、泳ぎの効率が悪くなり、スムーズな動きもスポイルされがち。
二次的なトラブルやアクシデントに狙われることになる。

エア切れダイバーを右に配した場合も、中圧ホースのUターンが必要になって、結果、やはりバディ間の十分な距離が確保しにくいし、オクトパスを咥えたエア切れダイバーの口元に、不自然に曲がったホースによるストレスがかかる可能性もあって、これは芳しい状態とは言えない。

そんなこんなの問題が起こりがちなので、エアシェア後に水中の移動を想定するならオクトパスは左出しがオススメ、となるワケだ。

エア供給後に水中での活動を中止するなら、オクトパスは右出しが僅かに有利

一方、エア切れダイバーにエアを供給した後は、水中での活動を中止、そのまま向かい合って垂直浮上に移りましょう、といういう作戦を基本とするなら、オクトパスは右出し仕様の方が僅かに有利だ。
ただし、左出し仕様を否定するような決定的な問題はないと思われる。

右出し仕様の若干の優位性は、浮上に際してのBC操作に対するホースの干渉の可能性にある。

インフレーターホースのある左側にオクトパスの中圧ホースがある左出し仕様より、それのない右出し仕様の方が、排気操作によるホースへの干渉の可能性がない分、リスクの小さい仕様と言えるだろう。

セカンドステージ自体に問題が生じた際の二つの対応

では、次に最後、4)のセカンドステージ自体に問題があってオクトパスが必要となる場合を考えてみよう。

※編注
4)は、「セカンドステージの問題/マウスピースの外れや欠損、EXバブルの巻き込みや遺物の挟み込み、デマンドレバーやダイヤフラム等の構成パーツの異常、激しいフリーフロー、ガス流量不足、口元を蹴られる等による口元からのセカンドステージの逃走」(前回の記事より)

この場合の対応は、大きく分けて二つ。
一つは今までの対応と同じく、バディに依存するというスタイル、そしてもう一つは自分のお尻は自分で拭きましょう、という考え方だ。

バディに依存する、依存される場合は、今まで説明してきた1)~3)への対応の考え方がそっくり流用できる。
右出し仕様か左し仕様かを決める際の考え方にも大きな違いはない。

ただし、セカンドステージ自体のトラブルは、いきなり呼吸不能になったり(例えばマウスピースが本体から外れる、とか、セカンドステージ内にあった異物が排気の際に排気バルブに挟まるとか、前のダイバーに口元キックされてセカンドステージが吹っ飛ぶとか)、我慢の限界を超えて苦しくなったり(ガスの流量不足で息苦しさがずっと続いた末の我慢の限界とか、セカンドステージ内の水分が常にクリアし切れないで不自然な呼吸が続いた末の我慢の限界とか)、という緊急性を伴う場合が多い。

対応する側は、ミュージカルの決闘シーンのつもりで対応すると、自己紹介の歌の伴奏が終わる前に、すでに止めを刺されていても不思議でない、と思っておくべきだ。

一方、バディに頼る側は、バディがよほどスムーズに対応してくれない限り、物凄く辛い思いをすることになる、という点を強く意識しておきましょう。

特に、バディのフィンで口元をキックされてセカンドステージが吹っ飛んだというような、状況的にも位置関係的にもバディに異常を気づいてもらいにくいトラブルや、バディとの距離が離れている場合等は、バディに頼るという発想への固執が命取りになりかねない。

ということで、そんなこんなの悩みの突破口が、自分のお尻を吹くのは自分、というもう一つの考え方だ。
つまり、オクトパス=自分のためのバックアップのセカンドステージというスタイル。

このスタイルの場合、先に説明したように、オクトパスは、基本、右出し仕様になる。
その理由に関しても、先の説明が有効のはずだ。

さらに、例えば、バンジーコードのネックレスを使ってバックアップのセカンドステージを首からぶら下げるというスタイルであれば、最短かつ確実な対応が望めるから、特に、呼吸不能状態の突発や、オクトパスリカバリーに専念しにくい状態(例えば流れの中で水底をほふく前進している最中とか、流れの中でアンカーロープに掴まって安全停止している最中とか、サージの中でのENやEXの最中とか)で、お尻を吹くハメに陥った場合にも心強い。

自分の頭で器材構成を考える

ということで、長々とメンドクセー話を続けて申し訳ありませんでしたが、オクトパスを右出し仕様で使うか左出し仕様で使うかを単純に結論付けるつもりは、私にはない。

もし、このお話が参考になるようなら、これを参考にしていただいた上で、メリット、デメリット、注意点、チェックポイント等を考えながら、あなたご自身でお決め下さい、が私のスタンスだ。

逆に言うと、ダイバーは、自分の装備に関して、その必然性を理解し、必要を感じたらそれを変えてゆくことも厭わないという姿勢を持つ、持ち続ける、のが”理想の姿”だと私は思う。

ただし、どの仕様を選んだとしても、実戦でそれが正しく機能するような完成度の追求とスキル磨きはお忘れなく。
あらゆる器材、全てのスキルは、実践の場で活躍できてこそ意味を持つもの。
お餅のお絵かきは、いざと言う時、あなたの身を助けてはくれません。

田原浩一の器材構成

メンドクセー話を長々と続けてしまったので、やけくそで、最後にちょっと、私の器材構成を紹介しておきます。

私自身のオクトパスは、右出し仕様で、ショートホースとネックレスを使って顎の界隈にぶら下がっています。
自分のお尻は自分で拭くスタイル。

このスタイルの場合、エア切れダイバーへの対応では、メインのセカンドステージをエア切れダイバーに渡すことになる。

ただし、メインのセカンドステージのホースの長さが短いことで、エアのシェアが始まって以降の活動が制限されるのは、私の好むところではない。

そこで、私はメインのセカンドステージ用の中圧ホースを1.5mのロングホース仕様にしている(シングルタンクの一般のダイビングの場合)。

1.5mの長さがあれば、エア切れダイバーの位置が右側でも左側でも、二人の距離が接近しすぎて動きが制限される、という厄介から開放されるので、これはなかなかめでたい仕様である。

一方、何事もない平和な状態では、ロングホースの処理が問題になる。

一般のホースと同じように、なりゆきで漂わせておくと、リードを付けたまま飼い主から逃亡した犬みたく、ホースが体から大きくはみ出してみっともないし、場合によってはそのはみ出したホースがトラブルやアクシデントの原因にもなる。

そこで、平和時のロングホースの処理だが、まず背中側にあるファーストステージから出たホースを右の脇の下に回して体の前面にし、まんま体の前面を経由して、首の左側から首の後ろに回す。

そのままのノリでホースを首の右の後ろ側から体の前方に出しみると、あら不思議、ホースの先端のセカンドステージが、ちょうど口元界隈に現れることになる。

つまりロングホース仕様で使うセカンドステージは、体を斜めに一周した後に咥えて呼吸することになるのだ。

このスタイルを取ることによって必要となるスキルや装備の見直しはもちろんあるし、それ自体、一般の講習、いわゆる標準的な器材構成からは外れたスタイルになるが、オクトパスの存在とその使い方を根元の部分から見直してみた結果、現状ではこのスタイルが一番理にかなったスタイルだと、私は考えている。

一般的な装備の致命的なウィークポイントとその対処法

ここまで長々と書いちゃったので、やけくその上塗りで、もうひとつだけ、つけ加えさせて下さい。

基本、私はカワイイ自分のお尻は自分で拭きたいという思いが強い人種。
特殊な環境に待機する特殊なスキルを備えたプロフェッショナルを除けば、やはり自分のお尻を一番気持ち良く扱えるのは自分じゃないか、と思うからだ。

なわけで、自身によるお尻の拭き方だが、その方法、バリエーションに関して、ちょっとだけ違う角度で考えてみると、バックアップのセカンドステージ・オクトパスを使った対応には決定的なウイークーポイントがあることに、あっさり気付くはずだ。

それは、一般的な装備には、タンク(中味のガス)とファーストステージに関するバックアップがない点だ。

よって、この部分に関するトラブルがあると、望む、望まざるに関わらず、カワイイお尻をバディに委ねざるをえないことになる。
たとえネックレスを使ったバックアップのセカンドステージが口元のすぐ近く、絶好の位置にあっても、バディのオクトパスから呼吸せざるをえないのだ。

そうしたお尻の拭き”愛”を前提としたのが、バディシステムなので、それはそれで受け入れるべきことなのだが、そこには信頼できるバディと潜り、常にバディシステムを前提として行動し、信頼できるバディであり続けるべし、というかなり神聖な誓いが前提としてなくてはならない。

この点で不貞を働くと、バディシステムは崩壊し、ダイビングはロシアンルーレット一族に里帰りしてしまいかねない。。。

ということで、日常生活においての私は、不貞行為なんて1mmも考えたことのない超善良なオヤジだが、完全にプライベートの遊びで潜る時に、100%の不貞の否定を断言したら、それはほんのちょこっとだが、嘘になる。

また、現地で突然バディになったダイバーに100%の不貞の否定が期待できると考えるほど世間知らずでもない。
つまり、いざという時に常にバディシステムが完璧に機能すると信じてはいないのだ。

という訳でバディがいないと成立しない緊急手順は、バディがいなかったり、使いモノにならなかった時点で簡単に崩壊する。
オクトパスが右にあろうと左にあろうと口元近くの絶好位置で待機していようと、関係なしに。

そこで必要となるのは、独立した呼吸源(十分なガスが入ったタンクとそれを心地よく使うためのレギュレーターセット)だ。

この、レギュレーターセットを装備した、フル充填のポニーボトルと呼ばれる小型(2~3L程度)タンクを携帯していれば、呼吸源に関するトラブルは、バディに頼ることなく自分でお尻を拭くことが可能になる。

私自身に関して言えば、このポニーボトルは、自分自身の装備を理想の完成形とするための必需品だ。

ただし、このポニーボトル、日本においては、高圧ガス関係を管轄する組織(天下りが闊歩する組織なんて一言も言ってません!)の認可を受けるのが超大変で、自分好みのタンクやバブルを手軽に買って手軽に充填してもらって手軽に使うといことができないのが現状。

大手の指導団体が、もし、本気でダイビングのセーフティレベルを上げたいと思っているなら、サイドマウントはタンクが2つあるから安全デス、なんていう、デメリットを無視した半嘘広告に精を出す前に、その力を駆使してポニーボトルが簡単に手に入り、使える環境作りに励んでいただけるとありがたい、と、私、誰かがどこかで言っていたのを小耳に挟んだことがあります。

長いものに巻かれる私は、そんな事を、思いつけるハズもないので、それ、どーゆー意味か、良く分かりませんが。

ということで、長の肩書きが恐れ多い寺編集長の今回のお題「オクトパスは右側にセットするべきか、左側にセットするべきか?」に対しての私なりのお答えは、ここまで。

信じるか信じないかは、あなた次第です!

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writer
PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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