ダイバーがダイブコンピュータの言いなりになる?ダイブコンピュータの未来とは

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電子制御のリブリーザー
ポセイドン・セブン

この2か月間、ヤドカリ爺はポセイドン・セブンというリブリーザーのユーザーマニュアルの翻訳仕事をいただいて、桜見物すらせずに、家にこもっておりました。

このポセイドン・セブンという新しいリブリーザーは、40m範囲内の無減圧ダイビングから深度100mまでのトライミックスダイビングまで、コンピューターソフトをワンタッチ挿入するだけで対応するという、チョー多用途、ある意味でえらく恐ろしげなダイビング装置であります。

当然そのマニュアルは100ページにも及ぶ分厚いしろものであります。
マニュアルの話はさておき、このリブリーザーは、ありとあらゆることを大型のスクリーンに表示して、ああしろこうしろというダイバーに要求するのであります。

リブリーザーは上手に使えば大変優れモノでありますし、はるかに小さなタンクで長時間の静寂なダイビングができますが、使用するガスの設定とかバッテリーの使用時間、炭酸ガスの吸収剤の能力チェックなど、ダイビング前にかなりの作業が要求されます。

タンクの圧力を確認してヒョイとタンクを背負えば準備完了のスクーバとは、ちょっと違います。
この面倒さがリブリーザーの普及が遅れている理由の一つでもあります。

ところがダイビング前の60もの項目のチェックをわずかで数分で、リブリーザー内臓のコンピューターが、自分でやってしまうのであります。

いちいちチェックリストを見ながら、項目にチェックマークなど入れる必要はなく、勝手にテストが進みます。

一つでも設定条件にかなわないと、そこでテストが中断、ダイバー自身が祖の不合格の原因を直すと、チェックが先に進むというわけで、全項目がOKになって、はじめてダイビングができる。
ということになります。

これはダイビングの前、準備がエレクトロニクスにコントロールされるということです。

しかしながら、このオーシャナの読者の大方は、普通のスクーバダイバーでしょうから、リブリーザーのダイビング前の準備が電子制御で全自動になったって、別段私には関係ないよと思うかもしれません。

ごもっともであります。

ダイビングコンピュータの長所は警告機能

長い前置きになりましたが、ヤドカリ爺の今日の本題は、このリブリーザーはダイビング中の減圧管理もやってしまうところにあります。

言ってみれば、「無減圧リミットにこれだけ近づいたよ」、あるいは、「この深度でこのままいると水面に戻る空気が足りないから浮上しろ」とか、「浮上スピードが早すぎる」、そして、いざとなれば減圧停止という情報までダイバーに送り続けるのであります。

コンピューターに助言されるどころではなく、コンピューターにコントロールされるダイビングであります。

最近では、この機能は、ダイブコンピューターにはいくらでも見られます。

そしてダイブコンピューターへの常にある批判は、“いくらダイブコンピューターが情報をスクリーンに表示したって、ダイバーがコンピューターを見なければ話にならん、意味もない”ということです。

本当のダイブコンピューターの長所は、“見過ごされちゃならない情報をダイバーに見過ごさせない警告機能”にあるのです。

まず、定期的にダイブコンピューターを見ろと促し、さらにはダイバーを浮上させる条件が生まれたときに、音がする、振動する、光が点滅する、いざとなれば数値も点滅する、といった警告方法で、何段階にわたって警告できるというのが、ダイブコンピューターのダイブテーブルにない、いや永久になしえない利点であります。

しかも、バディダイバーにその警告状態を発信することもできます。
バディ本人に警告が出されているのだから、当然その状況をバディが知らないでは困ります。

こう書くと、えらい大変な機能のように見えますが、ほとんど携帯電話の着信表示を少々大げさにするだけにしたようなものです。
事実ある種のダイブコンピューターは、携帯電話のメーカーが製造しております。

これがあるリブリーザーにすでに標準装備になっているのに、多種多様なダイブコンピューターには、この警告機能を徹底的に追及したモデルが、ほとんど見当たらないのですな。

ダイブコンピューターの未来とは

かつてはタンクバルブに発信機をつけてコンピューターに送って、残圧計算するダイブコンピューターもありましたが、いつの間にか姿を消しております。

ダイブコンピューターのコマーシャルを見ると、デザインだのカラーだのというスペックでの、モデル選びはできますが、どうも最大の機能である警告機能が、見過ごされております。
正しく言えば、やればすぐできるのに、あえてメーカーはおとぼけになられているとしか思えないのであります。

もちろんダイブコンピューターは進化しております。
1台のコンピューターに2種類のアルゴリズムを組み込んで、今日はやや楽観的なデータ、明日はややコンサバ控え目なデータなどと使い分けられる機種もあります。

無減圧リミットに近づくと警告をするように設定できるダイブコンピューターも発表されております。

ちょっと脇にそれますが、先日TUSAのダイブコンピューター開発のご担当者とお話しをして、無減圧リミットに近づくと、その設定した%で警告するダイブコンピューターが発表されるようであります。
警告機能重視の機種であります。

ヤドカリ爺は、基本的には、午前と午後1回ぐらいダイビングをするのになぜダイブテーブルでは不都合なのかと、いまだに素朴な疑問も抱いておりますが、それはそれ、ここまでダイブコンピューターにお任せの時代ならば、いっそのこと、ああだのこうだの言わずにダイブコンピューターにおんぶに抱っこにしてしまえ。
とも思うわけであります。

その条件としては、これから始めるダイビングがハードなのか、お気楽ダイビングなのかを事前に判断して、その設定(個人設定なんて言っておりますが)をダイバー自身が行うことが要求されますが、せめてそれぐらいはダイバーがやらないことには、ダイバーのほうがロボット状態になってしまいます。

ともあれ10数万円もするダイブコンピューターもある時代です。
実際に量産さえすれば、ダイビングメーカーにとっては、大変おいしいダイビング器材であります。

すでに全自動ダイバーコントロールのダイブコンピューターが発表される基盤はできあがっております。
はっきり言えば、どのメーカーが先鞭をつけるか、営業上の問題であろうかと思われますな。

ちっちゃな時計のようなダイブコンピューターのカラーがどうの、ベルトがどうの、なんてモデルチェンジではなく、大型の液晶画面のダイブコンピューターが水中のあちらでピカピカ、こちらでブーブーとサバを追いまくる時代は目前であります。

ポセイドンのリブリーザー

未来型は大画面のコンピューター!?

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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