障がいの有無は関係ない!広島の江田島でユニバーサルなマリンレジャーイベント開催

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オーシャナのCEO・河本雄太が理事を務め、鹿児島県大島郡瀬戸内町にある障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設「ゼログラヴィティ」を運営する一般社団法人・ゼログラヴィティ(以下、ゼログラヴィティ)が、全国のマリンアクティビティ施設へとユニバーサルデザイン導入支援プロジェクトを2022年7月から全国各地で実施中。

今回の舞台は、広島湾にある江田島(広島県江田島市)。豊かな自然や透明度の高い海が魅力の江田島では、マリンアクティビティも盛んに行われている。ここでは2022年からユニバーサルデザイン導入支援プロジェクトに取り組んでおり、昨夏、地域に密着したクローズドなマリンレジャーの実践研修として、実際に障がいのある方を招待し、サップやカヤックの体験イベントを開催した。本プロジェクトでのトレーニング担当であるユニバーサルコーディネーターの上岡央子氏の話も交えながらイベントの様子を紹介していきたい。

夏には多くの海水浴客が訪れる江田島の入鹿海水浴場でイベントは行われた

夏には多くの海水浴客が訪れる江田島の入鹿海水浴場でイベントは行われた

ゼログラヴィティが導入しようとする“ユニバーサルデザイン”とは

障がいの有無、国籍、年齢にかかわらず、誰にとっても海での遊びや学びが日常となるデザイン(設計)のこと。ゼログラヴィティでは、SDGs達成の原則にもある「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という世界を実現するため、このユニバーサルデザインに則って障がい者向けのプログラムを作成したり、マリンアクティビティスタッフへの研修、設備導入などを実施している。

ゼログラヴィティが、ユニバーサルデザイン導入支援プロジェクトを本格的にスタートするきっかけとなったのは、初年度に行った障がい者に対する意識調査。そこで明らかになったのは、障がい者の70%以上が「障がい者はマリンアクティビティに参加できない」と思っていること。一方で半数以上がマリンアクティビティに興味を持っていること。実際にマリンアクティビティを体験された障がい者の方の90%以上が「世界が変わった」、「何事にも挑戦する意欲がわいた」と感じていることである。この結果を踏まえ、誰もがマリンアクティビティを楽しめる環境づくりをする強い必要性を再認識。

マリンレジャー体験イベントの様子

江田島でのユニバーサルデザイン導入支援プロジェクトでの取り組みは昨年からスタートし、江田島やその周辺地域(広島県、島根県、鳥取県、岡山県など)のアクティビティ提供者などに向けた座学研修会を実施した。このとき障がい者の受け入れについて多くの参加者から、「実際に障がい者からアクティビティ参加の問い合わせがあり、対応に困惑したが、積極的に受け入れて対応している。しかし障がい者に対する知識を持っていたら、もっと楽しんでもらえる提案ができたのに…」という声があったと。

上岡氏もこの座学研修会を通じて、10年前よりも障がい者の社会参加が増え、障がい者を受け入れる側も知識や経験の必要性が高まっていることを感じたという。

そこで今年度は、マリンレジャーのユニバーサル化を定着させるために地元が主体となった実践研修として、クローズドな体験イベントを実際に行うこととなった。ここでのゼログラヴィティの支援内容は、今後地元で運用することを踏まえてイベント実施の手順や方法のレクチャー。

イベント当日までにアクティビティを提供するマリンレジャー事業者が地元の障がい者福祉事業所などを伺い、参加を募った。その結果、当日は体験者として障がい者4名とスタッフ2名が集まった。

まずは、体験者にライフジャケットの着用方法と安全性を説明しつつ、不安を取り除くことからスタート。

ライフジャケットを初めて身につける体験者もいた

ライフジャケットを初めて身につける体験者もいた

地元のマリンレジャースタッフが体験者にパドルの使い方を説明

地元のマリンレジャースタッフが体験者にパドルの使い方を説明

ここでは、マリンレジャースタッフの経験値を増やし自信をもっていただくために、昨年の座学研修会で伝えたことを踏まえて普段から提供している形でマリンレジャー体験を始めてもらう。

まずはメガサップにみんなで一緒に乗って水遊びに慣れる

まずはメガサップにみんなで一緒に乗って水遊びに慣れる

体験者の多くは、最初は恐る恐るスタッフと一緒に乗る様子だったが、時間が経つにつれて積極的に一人で乗りたいと手を挙げる方が続出。障がい者施設職員も、普段の施設内では見せない行動力や積極性に驚きを隠せない様子だった。「想像以上にいろいろなことができるんですね、一人ひとりにこのような能力があることは知らなかった」と口にした。

一番近くで本イベントに携わった上岡氏も「障がい者施設職員にも障がい者一人ひとりの可能性を知ってもらうことで、普段の施設内の支援も変わってきます。『もしかしたらできないかも』と思って接していたものが『もしかしたらできるかも』、という感覚に変わり、そして、できるように支援する形に変わっていく。それこそが本来の自立支援の形だと思っています。新しいチャレンジをすることで、お互いに新しい世界を見ることができるのです」と話す。

一人でクリアカヤックに挑戦する体験者

一人でクリアカヤックに挑戦する体験者

障がい者も心も体も解放される自然の中で遊ぶことによって、自分でも気が付かない能力に気づくことができる。そして、それをきっかけに「やってみよう!」という気持ちが大きくなり、挑戦の可能性を広げることができるのだ。そこには、障害の有無は関係ないのだ。

今後の取り組み

無事成功し、参加者の笑顔で幕を閉じたマリンレジャー体験イベントを振り返って上岡氏はこう語る。「マリンレジャー体験イベント1回の単発的な実施だけではなく、この地域でどのようにユニバーサル化を根付かせていくかが今後の課題であり、そのためには地域性を考慮して行政機関と共に取り組んでいく必要があります。ユニバーサル化は、観光業における課題でもあり、地域住民の住みやすさの課題としても捉えられるものとなります」。

行政機関へ本プロジェクトやユニバーサル化の本質を理解していただけるようアプローチすることが重要であり、さらにそこから地域の住民や団体が主体的・積極的に発信されるようになることが、地域のユニバーサル化推進への近道になるのだ。

「今後もユニバーサルコーディネーターとして、安心して安全にアクティビティが提供できるようスタッフ指導や環境整備などにアドバイスすることで、参加者と事業者の双方に人生の価値をさらに高めていただけるようお手伝いさせていただきます」と上岡氏は意気込みを語ってくれた。

上岡央子氏プロフィール
上岡氏は、2010年からユニバーサルコーディネーターとして活動。店舗のユニバーサル設計や福祉住環境デザインなど、バリアフリーの観点から発展したユニバーサル化を提唱。ハード面だけでなくソフト面のバリアフリー化も重要と考え、人材育成として研修会なども実施している。ハード面の整備ではなくソフト面がポイントとなってくる自然相手の本プロジェクトの主旨に共感しプロジェクトに参加している。

本プロジェクトは日本財団の補助事業により実現
本プログラムは、日本財団の補助事業により実現。「バリアフリーマリンレジャー事業」は、 日本財団が推進する「海と日本PROJECT」の取組の一環として行っており、ユニバーサルデザインの導入のための補助として、一施設の工事の実施および機材などが寄贈された。
ゼログラヴィティ

障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設として、2016年、奄美大島瀬戸内町清水に 「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」が設立。宿泊施設をはじめ、自社船、プールなど全てがバリアフリー設計となっており、スノーケリング、スキューバダイビング、カヤック、クルージング、ホエールウォッチングなど、奄美の海で の豊富なマリンアクティビティを誰もが安心して楽しめる設備とサービスが整っている。「旅と海遊びで夢と希望を作り出す」をコンセプトに、日本のダイビング業界におけるユニバーサルデザインの普及を推進しています。
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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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