和歌山県すさみ町「スサミトラベルカウンターFRONT110」、ユニバーサルデザインの導入を目指して

オーシャナのCEO・河本雄太が理事を務め、鹿児島県大島郡瀬戸内町にある障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設「ゼログラヴィティ」を運営する一般社団法人・ゼログラヴィティ(以下、ゼログラヴィティ)が、全国のマリンアクティビティ施設へとユニバーサルデザイン導入を支援を行っている。

今回、本州最南端に位置する和歌山県で雄大な太平洋に面し、豊かな大自然に囲まれたすさみ町にある「スサミトラベルカウンターFRONT110」にて、障がい者の本格的な受け入れ開始を前にモニターツアーが行われたということで、その様子をお届けしたいと思う。導入に携わった、すさみ町地域未来課の水上力仁氏と、実際にマリンアクティビティに参加した石塚雄大氏にもコメントをいただいた。

「スサミトラベルカウンターFRONT110」とは

スサミトラベルカウンターFRONT110は、すさみ町へ訪れた人に地域の魅力コンテンツを「案内する」という役割を担う、すさみ町の観光案内所。ここでは「海と戯れる(たわむれる)」をテーマに、SUPとカヤックをレンタルして遊べるフリープランと、ローカル案内人と一緒に戯れる「スサミブランドツアー」を通して、すさみ町の豊かな自然を満喫できるマリンアクティビティも提供している。

ユニバーサルデザイン導入に至った背景

今回、なぜ「スサミトラベルカウンターFRONT110」にユニバーサルデザインを導入することになったのだろうか。「すさみ町に訪れた人の観光拠点となるスサミトラベルカウンターFRONT110ができ、健常者へのマリンアクティビティは提供してきてはいましたが、SDGsの観点から障がい者への提供もしていきたい思いがありました。

しかし、ユニバーサルデザインのノウハウもなく、海水浴場の改修といったハード面の整備にまだ巨額な投資もできず、手をつけることができない状態。そんなとき、ゼログラヴィティの河本さんから『日本財団からの支援も受けつつ、まずはシャワースペースの改修やスロープの新設といった、小さな整備から始めるのはどうでしょう。それだけでも障がい者にとっては、使いやすい場所になります』と後押ししていただき、小さなところから始めてみることにしました」と話すのは、すさみ町地域未来課の水上力仁氏(以下、水上氏)。

モニターツアーの様子

そんな中、2022年7月に行われたモニターツアーには、手足に運動障害のある石塚雄大氏が参加し、施設内の導線の確認や実際にクリアカヤックを体験したり、着脱のしやすいウェットスーツを着用してシュノーケリング・SUP・水中スクーターを体験した。

 着脱がしやすいように通常より手首足首のチャックが長いユニバーサルデザインのウエットスーツ

着脱がしやすいように通常より手首足首のチャックが長いユニバーサルデザインのウエットスーツ

水中が見えるクリアカヤック体験

水中が見えるクリアカヤック体験

キックができなくても、手の操作で推進力を得ることができる水中スクーター

キックができなくても、手の操作で推進力を得ることができる水中スクーター

SUP体験

SUP体験

シュノーケリング体験

シュノーケリング体験

「参加者の石塚さんは何十年も海で泳いでいなかったようで、『とてもおもしろかった。プライベートでも、すぐにまた来ます!』とおっしゃってくれたのは嬉しかったです。正直、障がい者はできないことが多いと、先入観で決めつけてしまっていた部分がありました。しかし、実際のところ、思った以上にできることが多くて。サポートもしてあげれば、ほぼなんでもできてしまうから驚きました」と水上氏。

私たちは障がい者に対して“できないことが多い”という勝手なイメージを持ってしまっているが、私たちが想像する以上にできることが多い。少しサポートをするだけで、その幅はさらに広がる。マリンアクティビティもそのうちの一つなのだ。

モニターツアーを終えて

モニターツアー後のフィードバックタイムでは、障がい者の方ができる限り快適に施設を使うために、車いす専用の駐車場を設置することや、砂浜へのビーチマットの導入、誰でも使えるようなシャワーの設置、施設スタッフのお客様への指導方法など、さまざまな改善点も挙げられた。

モニターツアーに実際参加した石塚氏からは「今回、マリンアクティビティに参加させていただき、第一に感じたことは『どうせできない』という壁が意外と簡単に越えられたことです。人の力、モノの力を借りたら、できるやん!と思えたことは大きく、今後の物事の取り組み方の参考にしたいと感じました!またもう一つは、健常者も障がいを持った方も簡単、かつオシャレに使える道具、これは非常に興味が湧きました。今回はウエットスーツでしたが、色々調べてみたいと思います。分け隔てなく皆が使いやすいものがもっと増えたらいいなと、今回のような経験をしたことで思い始めました」とコメントをいただいている。

実際にマリンアクティビティを行う前まで、提供する側と提供される側、それぞれに可能性を否定する“壁”があったのは確かのようだ。しかし、実際に挑戦してみることで一緒に大きく前進する素晴らしいきっかけになったのは間違いない。

スサミトラベルカウンターFRONT110のこれから

すさみ町を代表して水上氏は「今後は、すさみ町内外のマリンアクティビティ事業者と協力して、より多くの方を受け入れられるようにしていければと思っています。何不自由なく楽しんでいけるかどうかは、まだわかりませんが、海に入ってできることを一緒に探していきたいです。将来的にはすさみ町全体がユニバーサルデザイン化され、障がい者の方がどこでも自由に豊かな自然を満喫できるようになることが目標です」、と意気込みを語ってくれた。豊かな大自然に囲まれながら、さまざまな人が集い交流する、すさみ町の未来を想像するとワクワクする。

スサミトラベルカウンターFRONT110では健常者・障がい者問わず、マリンアクティビティ参加者を募集中。ぜひ一度、すさみ町の海と戯れてみてはいかがだろうか。

日本財団の補助事業により実現
本プログラムは、日本財団の補助事業により実現。「バリアフリーマリンレジャー事業」は、 日本財団が推進する「海と日本PROJECT」の取組の一環として行っており、スサミトラベルカウンターFRONT110おけるユニバーサルデザインの導入のための補助として、一施設の工事の実施および機材などが寄贈された。
ゼログラヴィティ

障がい者と健常者が共に安心・安全に楽しめるマリンスポーツ総合施設として、2016年、奄美大島瀬戸内町清水に 「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」が設立。宿泊施設をはじめ、自社船、プールなど全てがバリアフリー設計となっており、スノーケリング、スキューバダイビング、カヤック、クルージング、ホエールウォッチングなど、奄美の海で の豊富なマリンアクティビティを誰もが安心して楽しめる設備とサービスが整っている。「旅と海遊びで夢と希望を作り出す」をコンセプトに、日本のダイビング業界におけるユニバーサルデザインの普及を推進しています。

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スサミトラベルカウンターFRONT110

スサミトラベルカウンターFRONT110には、すさみ町全体をひとつの観光宿と捉えたとき、旅行者の最初に訪れるチェックインの場所”フロント=入り口”という意味が込められている。施設スタッフはフロントマンとして、訪れた人へ地域の魅力コンテンツを「案内する」役割を担っている。また、ここが元警察署であったことから、フロントナンバーとして110(イチイチマル)が名付けられている。訪れた人たちとすさみ町をつなぐ入り口となるように。また、訪れた人と地元の人が交流できる場所であるように。人と人を繋ぐ関係案内所となっている。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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