神子元島にハンマーヘッドは実在しました! ~ギャンブルの味を知る~
出た!
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Mr.サメ除けの称号をいただいた僕は、WEBマガジン撮影のために来ているカメラマン・むらいさち君の邪魔ということで、別班に隔離。
さらに、スキルや経験本数ではなく、ハンマー運分けという非科学的ですが、なぜか信憑性があるような気もする班編成で、むらい君のチームには持っているダイバーが集合。
これでひと安心。きっと、あっちで出るのでしょう(涙)。
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エントリーしてしばらくすると、どこからともなく、チリンチリンチリンとけたたましいベルの音が遠くから鳴り響くのが聞こえます。
きっとどこかでハンマーが出ているのでしょう。
僕にとってはいつものことなので、ただただ、むらい君が出遭っていることを願うのみ。
それでも、イサキが根の隙間から湧き上がり中層を流れ、タカベが降り注ぎ根を這う光景に、群れが好きな僕は大満足。
ずっと見ていて飽きません。
いやいや、潮がドンピシャの南伊豆の南端の海、すごいですよ。
常連さんは、ワラサでさえ邪魔者扱いですが、なにか間違っています(笑)。
苦節15年。ついにハンマーが目の前に!
ダイビングの後半。
皆が上方ばかり見ている間、ハンマーなどいないと思っている僕は、根の隙間のイサキに夢中。
そんなとき、不意に幸せのベルの音。
チリンチリン、チリンチリン。
え? 自分の班? まさか!!!!
見上げれば、ハンマーの姿は見えませんが、皆がダッシュしています。
慌てて後を追うと、プランクトンの靄が徐々に晴れ……
出た!
特徴的なトンカチ頭。間違いなくハンマーヘッドシャークです。
単体だと思って近づいてみると、まさかの大群。
30匹はいるようです。
出遅れたため、群れを間近で見られたのはごくわずかでしたが、確かにこの目でその美しい流線型を確認しました。
苦節15年、とうとう神子元でハンマーヘッドに遭遇。
感動で胸が熱く……と一瞬思いましたが、ダッシュで息切れしていただけでした。
それでも、水中でグッと小さくガッツポーズ。
長かった……。
ハンマーヘッドを見ちゃったバージンの僕は、ここからが楽しいことを知りませんでした。
見た後が楽しい!? 病みつきの理由
エグジット後、何でしょう、この腹の底からわき上がるテンション。
他の人も同じで、皆、笑顔で饒舌。おしゃべりが止まりません。
後から浮上してきたむらい君たちはさらに大きな群れに当たったようで、水面ですでにおしゃべり。
「そんなハンマー!」。
よくわかりませんが、いつもはおとなしいむらい君もギャグが止まりません。
船上が、見たもの同士のテンション2乗で、うねりのような幸福な一体感で包まれています。
しかし、皆、喜びつつも少しだけ意識が違う方向に向いています。
それは、出なかった班。
簡単に言えば、ハンマーウオッチングは、島をぐるぐるしているハンマーに、点と点で遭遇する遊び。
そして、その確率を上げるための戦略を楽しむギャンブルです。
勝つ者がいれば負ける者もいます。
敗者の方々は、こんなに楽しい気分を味わえないなんて。気の毒に……。
は! 僕もこう思われていたのか!? 15年も。
それが、人に気をつかいつつ喜ぶだなんて貴族な気分を味わえる日がくるなんて。
見られなかった彼ら、まあ、めげずにがんばりたまえ(笑)。
今度は全者見られるという、幸福のうねりの中に立ち合いたいものです。
そして、ハンマーを見て、常連さんから聞いていた“ハンマーあるある”がちょっとわかるような気がしてきました。
例えば……
■イサキやタカベは邪魔
僕が出遅れたのは、イサキやタカベに夢中だったから。
それまでは、ハンマーは幻だったのですが、ハンマーに現実感を持つと、イサキなんてものを見ていると出遅れるし、その前にハンマーを見つける確率が減ってしまいます。
※ちなみに、タカベやイサキの大群に興奮してチリンチリン鳴らすと常連さんにおっかない目で見られます(笑)
■ガイドはヘッドではなくリーダー
神子元の常連さんたちは、ガイドより先にいて、振り返りながら潜ったり、まるでガイドの衛星のように上下左右、立体的なフォーメーションで潜ったりしています。
そう、つまり、ハンマーフォーメーション。
言わずとも、ハンマーを見つけられる最も確率の高いフォーメーションを組むのです。
ハンマーがいるとわかった僕もこの前に行きたい気持ちはよくわかります。
■間違ってダイバーにダッシュする
「僕に向かって必死にダッシュしてくるガイドがたまにいます(笑)」。
シルエットを見たらダッシュが基本の神子元。
見たいという気持ちが強いほど、きっと他の班のダイバーにダッシュすることでしょう。
それに、透明度が悪い中、目を凝らしていると、思いがプランクトンに通じるのか、ハンマーが見えるような気がしてきます。
■般若心経を唱えながら潜るとハンマーが出やすい
これはつまり、ゲン担ぎとか運とかといった要素がハンマーダイビングには重要視されるということ。
ハンマーダイビングがギャンブルだということを如実に表しています。
なので、“持っている”とかゲン担ぎとか勝率とかというのは、おもしろ半分とはいえ重要視され、僕のようにMr.サメ除けの称号をもらうと、割とシャレになりません。
その他、まだまだ“あるある”ネタがあるのですが、またの機会に。
※
これまでハンマーが幻だと思っていた僕は、伊豆最南端という最高の海で、“オールorナッシング”でハンマーを狙うというギャンブルスタイルはちょっともったいないと思っていました。
とにかく魚群は凄まじく、外洋性の生物も豊富でおもしろい。
僕は昨日、ひとりウミコチョウを見つけて喜んでいたのですが、小物もおもしろいのにハンマーばかりだなんて、と。
ただ、ギャンブラーに言わせれば、目的はずばり勝つこと。
そのためには、余計なものはそぎ落とすべきで、もったいないのではなくストイック。
逆に勝利に徹せない僕はいい鴨。はっ! だから15年も勝てなかったのかも……。
そして、彼らはハンマーに一途。
口説くには八方美人ではなく一途でないと難しいと知っているのでしょう。
勝利の美酒の味を知ってしまった僕も、ギャンブルダイビングもありだと感じ始めています。
初めての人には神子元の豊かな海を楽しんで欲しい気持ちは変わりませんが、あとはハンマーに一途なダイビングもいいのかもしれません。
※むらいさち君撮影のWEBマガジンは近日公開!
【おまけ】
Mr.サメ除けの称号をいただいてしまった僕に見かねて、“持ってる男”Mr.シャーク・越智隆治カメラマンが明日から初めての神子元ダイビング。
その持ってるぶりにご期待ください。