セールフィッシュスイム、最終日。船も人も混戦、そして泳ぎっぱなし

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

1月29日、日曜日。Week5、7日目の最終日。
昨日のべた凪から風が上がり、バショウカジキのコンディションとしては、ベスト(?)な感じだった。ビデオカメラマンの古島さんたちにとっても、僕にとってもこの日が最後。どうかバショウカジキに遭遇できますようにと祈りながら海に出る。

6時に出航して、北を目指す。朝7時30分前には、フィッシングボートに着いた鳥山を発見。しかし、雲があり、透明度も悪そうな海域。フィッシングボートが何匹かセールフィッシュをヒットさせて、群れを譲ってくれるのを待ってからエントリー。周囲には、他のフィッシングボートも集まり始めた。

大勢でエントリーしては危ないので、古島さんともう一人のゲストに入ってもらい、僕ともう一人、古島さんと同じ会社、ナビゲーターの原さんは船上から見守った。しかし、どうやら移動しているらしい。

ロヘリオが「彼らを船に戻せ」と言うので、船上から声をかけて船に戻ってもらう。戻ると同時に別の船がセールフィッシュをフックさせるために、鳥山に接近してくる。昨日べた凪で、ほとんど成果が無かったためか、多くの
フィッシングボートがこの鳥山目指して集まってきているのが見えた。

ロヘリオは無線で他の船と確認を取り合いながら、タイミングを見て僕らをエントリーさせた。「10分だ、10分だけだ。10分たったら、一度戻って来い。それから、移動していても追いかけ過ぎて、バラバラにならないように。船が多いから離れたら危ないぞ」と言って、僕らを海に落とした。

イワシの群れがまだ大きくて、移動を続けている。指示は理解しているつもりなんだけど、水面に顔を上げると、鳥山が無くなっていた。イワシの群れが水面より、8〜10m下くらいを逃げ回っているからだろう。これで、追跡をやめたら、見失ってしまう。

深追いするなと言われたことは理解しているのだけど、つい「見失っては、いけない」という思いで追跡してしまう。

同じ会社のスイムボートが加わり、お互いの船が交互にエントリーを続けたが、やはり止まらない。しかも、フィッシングボートも周囲に沢山いる。

ロヘリオはその場をもう一隻に譲る形で、他の鳥山を探しに移動を始めた。今日は、何カ所かで鳥山が立っているのが確認できていた。しばらくすると、2隻のスイムボートが一緒に鳥山に入っているのが見えた。

知り合いのダイビングサービスらしく、スキッパーに連絡を入れると、2隻に各10人づつ、計20人が一度に海に入っているとのことだった。一度どんな感じか見てみたい気もした。

しばらく探すが、他に鳥山が立っていない。食べ尽くして終わってしまったか、イワシが海中に逃げ延びたのか。ロヘリオが、「申し訳無い。今はあれしかないけど、行くか?」とそのスイムボート2隻のいる鳥山を指差した。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

古島さんに確認して、「中でごちゃごちゃになっているところも撮影しておきたいしな。ちょっと行ってみよう」というので、その群れに向かうことになった。「越智君、ごちゃごちゃしてるところ撮影したいから、今回はカメラの前に入っちゃっていいからな」とも指示を受けて、一緒にエントリー。1隻のボートは、チラ見せで、早々に引き上げていたのだけど、それでも、海中には10人以上のダイバーがいた。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

ほとんどの人がカメラを構えて、小さくなったイワシの群れにくっついている。「あれでは、なかなかバショウカジキも捕食に来れないし、写真もまともに撮れないな」、そう思いながら、僕は何度か前に回り込み、混雑する状況を撮影した。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

途中からもう一隻も合流して、さらに人数が増える。こうなると、バショウカジキだけの写真を撮影するのはなかなか困難な状況だ。イライラしたダイバーが、他の人の足を引っぱったり、手で押しのけたりしている。
僕はその様子を見ながら、少し離れたところで素潜りして、上を通過するバショウカジキのシルエット撮影に専念した。古島さんも最初は混戦状態のダイバーとバショウカジキを撮影していたけど、最後の方では少し離れて泳いでいる個体を撮影していた。

メキシコのバショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

少しづつ、ダイバーが船に戻り始めたけど、結局全員が戻る前に、イワシの群れを残してバショウカジキたちは姿を消した。しばらく水面下で右往左往していたイワシたちは、タイミングを見計らって、海中へと一気に泳ぎ去って行った。

一眼のカメラハウジングを持っていたグループは10人以上で船をチャーターしていたそうだ。大人数でのスイムの場合の弊害を経験することができて、やはり少人数でのチャーターが撮影には向いていることを再認識した。
その後、ロヘリオは賭けに出て、一気に透明度の高い南へと移動した。この風ではこちらで鳥山が立っている可能性は低い。しかし、鳥山を双眼鏡で探していたウワンが何かを見つけたようだった。しかし、遠くてあまりはっきりしないらしい。ロヘリオが「イエスかノーか」とウワンに聞くと「イエスだ」と言うので、全速でその方向を目指した。

しばらくすると、僕の肉眼でも鳥山が確認できるようになった。間違いない。バショウカジキの鳥山だ。古島さんたちに、「透明度の高い場所で泳げますよ!」と伝えて準備を開始。
エントリーすると、最初は移動していた群れも、追跡を開始して数が少なくなったところで、イワシ玉をかばうように泳ぎ、群れが止まった。その間にエントリーしてもらい、撮影を開始。しかし、途中で1匹のシルキーシャークが姿を見せると、バショウカジキの群れが姿を隠してしまった。
前の時もそうだったけど、シルキーが来ると群れがいなくなるのか、それとも、ダイバーを警戒してのことなのか、はっきりしない。

しかし、しばらくするとバショウカジキが戻ってきたので、古島さんだけ海に残して全員が船で待機。撮影を行なってもらった。

その後、フィッシングボートが来たので、釣りをしてもらい、それが終了するとまた海に入るを繰り返した。
最後は、5〜6匹になったところで、ずっと古島さんにイワシがまとわりついて離れなくなったので、「少し移動しましょう」と言って、二人で移動した途端に、古島さんの背後で食い尽くされて終了した。結果、朝7時30前から泳ぎ始め、移動の時間や混戦はあったものの、午後3時前までほとんど泳ぎっぱなしの1日だったので、6時間弱くらいは泳いでいたのではないだろうか。

Week5では、様々なバリエーションの群れに遭遇、しかも止まっていて撮影もし易かった。Week2の毛塚さんといい、今回の古島さんといい、やはり自然相手に撮影をしていて、良い写真、良い映像を撮影している人たちというのは、こういう良いシーンに巡り会える運に恵まれているのだなと感じた。「運も実力のうち」まさにその言葉に実感させられるような遭遇がこの2週間では沢山あった。

古島さんたちは、夜のフェリーでカンクンに渡った。フェリーに乗り込むときに、古島さんが、思いのほかしっかりと握手をしてくれたことが嬉しかった。今シーズンのINTO THE BLUEでのチャータートリップのゲストは、僕を残して、皆島を離れた。

今シーズン28日間ボートをチャーターして、24日間海に出た。そのうち、バショウカジキに遭遇したのは、16日間。これが、今回初めて長くこの島に滞在してバショウカジキスイムを行なった結果だ。
今日のフェリーでカンクンに移動して、明日早朝の飛行機で帰路に着く。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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