山見信夫先生に聞く! 新型コロナ回復後、 ワクチン接種前後のダイビングの注意点 

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日本国内のワクチン接種も進んできてはいるが、まだ収束までの道のりは遠い新型コロナウイルス感染症。「コロナにかかってしまった後、いつから潜れるの?」「ワクチン接種前後は、ダイビングは控えたほうがいい?」。そんなダイバーの皆さんの不安や疑問に、7月に新刊『ドクター山見のダイビング医学』を上梓された減圧症研究の第一人者で、多くのダイバーの体のトラブルを診察してきている山見信夫先生が答えてくださった。

コロナ回復後のダイビングは、いつから可能?

新型コロナウイルス感染症にかかった方の約30%は、長期的に何らかの後遺症が残るとの報告がありますから、ダイビングについても少なからず影響を受けることが懸念されます。
新型コロナウイルス感染症の急性期の症状は、①発熱86.9%、②咳67.3%、③倦怠感64.1%の順ですが、退院3ヶ月後は、①筋力低下53%、②息苦しさ30%、③倦怠感25%、④喀痰20%の順に多かったと報告されています。

性差については、女性に倦怠感、痛み、思考力低下が多く見られ、長引いた症状では、筋力低下と息苦しさが重症度に関連すること、倦怠感、嗅覚、味覚障害は重症度には関連していないことなどが報告されています(日本呼吸器学会)。
新型コロナウイルス感染症とダイビングとの関連性についての報告はごくわずかですが、潜水関連の医学会が示す指針と主要な研究結果に基づき、注意事項をまとめておきたいと思います。

▶新型コロナウイルス感染症にかかったあとのダイビング復帰について

日本高気圧環境・潜水医学会は、PCR検査が陽性であったが症状は見られなかった感染者は、少なくとも1ヶ月はダイビングを控え、再開前に診察を受けて、医師の判断を仰ぐこと。症状が見られた感染者は、少なくとも3ヶ月間ダイビングを控え、やはり医師に再開してもよいか、判断を仰ぐことを推奨しています。
ベルギー潜水・高気圧医学会は、症状が軽度で、1週間以内に完全に回復するのであれば、心臓や肺に永続的な障害が生じるリスクは非常に低いとしたうえで、ダイビングを控える期間については、本国の学会と同程度の指針を示しています。

▶こんな後遺症がある場合は、ダイビングは控えたほうがいい?

ダイビングに影響する主な後遺症には、肺、心臓、筋肉、神経、精神の障害があります。後遺症があった方のダイビング復帰にあたっては、十分運動能力(体力)が回復したか、気圧変化に対応できる体に回復したか、減圧障害にかかりやすい障害が残っていないかについて、専門的な知識がある医師にチェックしてもらう必要があります。

まず、肺に障害が見られた方は、肺気圧外傷(いわゆる肺破裂)のリスクが増加する可能性が指摘されています。そのため、呼吸機能検査とCT検査を受けることが推奨されます。
動脈ガス塞栓などの減圧障害については、肺のフィルター機能の低下によりリスクが上がる可能性があります。一般のレジャーダイバーでも、少々深く長く潜るとエキジット後、血液中(全身から心臓に戻って来る血管内)に気泡が発生します。通常、この場合の気泡は肺の毛細血管に捕えられ、呼気として排出されるので症状は現れません。しかし、新型コロナウイルス感染症にかかると、その排出能力が低下するかもしれないとの指摘があります。

次に、心臓に障害が見られた方は、ダイビング中に突然死や心不全が起こることも。心臓の後遺症については、心臓の筋肉がダメージを受けること(心筋障害)、心臓を包む膜が炎症を起こすこと(心膜炎)の報告があります。そのため、超音波検査や運動負荷試験を受けることが推奨されており、重度であった方は、心不全が回復しているかを調べる血液検査も必要です。

筋力低下や筋肉自体の障害については、重症例において、筋肉の萎縮、筋肉量の低下が、急速に進行すると報告されています。そのため、ダイビング再開にあたっては、運動能力が十分に回復しているかを医師に判断してもらいましょう。

神経障害については、わが国ではあまり注目されてはいないようですが、海外では、脳や脊髄に様々な障害が見られることが報告されています。脳や脊髄の神経障害は、ダイビングをするうえで、重大なリスクファクターです。

精神症状については、気分障害、記憶障害、認知障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ症状、不眠症などが報告されています。ダイビング再開については、症状が安定してからにしましょう。

ダイビング中の酸素中毒については、脳に対する影響を考慮し、特にテクニカルダイビングをする方は、慎重でなければいけないとされています。
以上のような後遺症が見られない場合でも、長期間、倦怠感が続く方は多数いるので、体のだるさや意欲低下によるパフォーマンス低下にも留意が必要です。

ワクチン接種前後のダイビングも注意が必要

現時点で新型コロナウイルスワクチン接種前後のダイビングについて、相互作用の研究報告はありませんが、ワクチンの副反応を考慮して、DAN Europeが見解を示しています。
DAN Europeが示したワクチン接種後のガイドラインの概要は、ワクチン接種後に、圧縮ガスを使用した潜水および息こらえ潜水を実施する場合は、最低7日間待機する。健康上、リスクがあるダイバー(肥満、慢性代謝性疾患(糖尿病など)、喫煙、血栓症、発症リスクを高める可能性のある薬剤の使用(経口避妊薬など))、および特殊なダイビング(テクニカルダイビング、ディープダイビング、減圧ダイビング)をする場合は、14日間待機するという内容です。

ダイビング後のワクチン接種については、現時点、特に指針はありませんが、減圧症発症までの潜伏時間(ダイビングから発症までの時間)を考慮して、潜水後、最低3日、可能であれば7日間待機してから接種することが望ましいと考えられます。

Profile
山見信夫先生
医療法人信愛会山見医院
院長・医学博士山見信夫

杏林大学医学部卒。宮崎医科大学医学部附属病院、東京医科歯科大学医学部准教授、同大学院准教授等を経て現職。DAN Japan緊急ホットラインドクター、警視庁水難救助隊講師、海上保安大学校研修科潜水技術課程講師、日本高気圧環境・潜水医学会理事・専門医認定委員・広報委員長などを歴任。現在も海上保安庁の潜水医学アドバイザー、NHK潜水撮影研修講師、DAN Japan運営委員等を務める。日本高気圧環境・潜水医学会専門医・評議員、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会産業医・認定健康スポーツ医、DAN Japan DDNetドクター・インストラクター、CMASマスターインストラクター・コースディレクター

ダイバー必読!体のトラブル対処法がわかる
『ドクター山見のダイビング医学』

ここまで、山見先生に新型コロナウイルスからの復帰後、ワクチン接種前後のダイビングの注意点をうかがってみた。ぜひ参考にしていただきたい。

そして最後に紹介したいのが、山見信夫先生の新刊『ドクター山見のダイビング医学』。
山見先生が長年にわたり研究・診療を続けてきた減圧症をはじめ、ダイバーに多く見られる耳や鼻のトラブル、めまいや船酔い、窒素酔い、酸素中毒、シニアダイバーの注意点など、内容は多岐にわたる。

「ダイビング医学の全容は、青字で書いたところを読んでいただくとご理解いただけるのではと思いますので、これまでダイビング医学に触れたことがない方は、まずはさらっと青文字を読んでいただけたらと。もし興味が沸いて、もっと深く知ろうと思われた方は、黒字も読んでいただければと思います」と山見先生。

文中には図表がたくさん使われていて、難しい理論もわかりやすく説明されている。

文中には図表がたくさん使われていて、難しい理論もわかりやすく説明されている。

「個人の体質によって、減圧症にかかりやすい方や、耳ぬきができにくい方などがいらっしゃいます。そのような方は、それぞれの項目をじっくり読んでいただければ、基本的な予防法がわかるのではないかと思います。

潜水障害についての予防法は、外来を受診いただいたときに、20~30分程度お話ししても、十分な理解にはつながりません。体の構造や、どうしてトラブルが起こるのかなど、基本的なことをわかっておいていただかないと、また同じようなトラブルを起こしてしまいます。図も多めに掲載しましたので、潜水障害を起こしやすい方は、該当する箇所について、図を見ながら読んでいただくと、予防について応用が利くのではないかと思っています」。

減圧症を筆頭に、それ以外の潜水障害も含めて、症例と原因、予防法を網羅した本書は、安全にダイビングを楽しむために、ぜひおすすめの一冊だ。

ドクター山見のダイビング医学

ドクター山見のダイビング医学
山見信夫 著
発行年月日:2021/7/28
サイズ・ページ数:B5判 288ページ
価格:4,400円(税込)
発行:成山堂書店

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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