連日のダイビングで気を付けるべき3つの注意点 ~夫婦そろって罹患した減圧症例(その2)~

ラジャアンパットのピグミーシーホース(撮影:越智隆治)

さて、前回に引き続き、ゴールデンウィーク中に4日間で18本のダイビングをして夫婦揃って減圧症に罹患された方の事例をご紹介します。

■4日間で18本の無減圧潜水を繰り返し、夫婦そろって罹患した減圧症例
https://oceana.ne.jp/medical/57339

その前にご説明しておきたい事があります。

この連載に対しては肯定的なご意見をいただくことが多いですが、中には否定的なご意見をいただく場合もあります。

例えば、私がこのラインを超えると減圧症罹患者の分布が始まると考えている「平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上」のダイビングに対しても、「自分は20年以上ダイビングをしているが、それくらいのダイビングで減圧症になったことはないし、お客さんも一人もなっていない」とお怒り気味のご意見を頂戴することもあります。

おっしゃっている事はその通りで、仮に「平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上」のダイビングを常識的な範囲内でしたとしても、確率的にはほとんどの方が減圧症には罹患しません。

しかし、罹患確率としては確実に上がっていくことは間違いありません。

私は減圧症に罹患する大きな要因として体質や体調が第一にあると思っていますが、一方では減圧症に罹患されたダイバーのダイブプロファイルにはある種の共通傾向があるとも思っています。

以前も書きましたが、富士山登山ではほとんどの人が山頂に何事もなく立てますが、中には7合目あたりから高山病の症状が出てしまう人がいます。

ダイビングもまったく同じで、その7合目にあたるダイビングとはどんなものかを把握しておく必要があると思うのです。

つまり、リスクを常に頭に描きながら潜る姿勢が大切だと強く思います。

それができているダイバーは少なくとも減圧症に罹患する確率は低くなると私は信じています。

この連載記事が、そのちょっとしたお手伝いになればうれしく思います。

3日目、4日目、
ダイビング内容によって大きく変わる体内窒素圧(量)

さて、出だしは前回の重複になりますが、3日目(5/1)のダイビングです。

減圧症罹患ダイバープロフィール(提供:今村昭彦)()

この日は平均水深/潜水時間が12.2m/46分、8.2m/51分、11.6m/55分、13.7m/36分、13.4m/40分の5本のダイビングをされています。

■3日目・ダイビング開始前の体内窒素圧
減圧症罹患ダイバープロフィール5月2日スタート時点(提供:今村昭彦)

ダイビング開始前の体内窒素圧は上の通りで、2日目の5本の反復ダイビングによる残留窒素圧(量)への影響が大きく出ています。

着目すべきは一番右の最も窒素の吸排出が遅いハーフタイム480分のコンパートメントで、M値に対して22%もあります。

前日のダイビング終了時に60%であった体内窒素圧(量)が、22%までしか下がっていないのです。

つまり、右から4つまでのコンパートメントは0からのスタートではなく、3日目のダイビングによって、さらに体内窒素が加算されることになるのです。

そして、これは3日目の潜水終了時点の体内窒素圧です。

■3日目・トータル13本目終了後の体内窒素圧
減圧症罹患ダイバープロフィール3日目No.13終了時(提供:今村昭彦)

前回の2日目の潜水終了時点の体内窒素圧と比較していただくと分りますが、窒素の吸排出の遅いコンパートメントは、ほとんど同じような体内窒素圧です。
(※窒素の吸排出の速いコンパートメントは直前のダイビングで決まります。)

■2日目・トータル8本目終了後の体内窒素圧
5月2日終了時点.png

2日目全体の平均水深が14.4mで平均潜水時間が43分、3日目全体の平均水深が11.8mで平均潜水時間が45.6分と、平均潜水時間はほぼ同じで平均水深がかなり下がったために、遅いコンパートメントへの窒素の上積みがありませんでした。

そして、最終日の4日目、この日は平均水深/潜水時間が14.6m/50分、14m/46分、12.8m/52分、16.7m/34分、14.9m/37分の5本のダイビングをされています。

潜水開始前の体内窒素圧は3日目とほとんど同じでしたが、4日目全体の平均水深は14.1mで平均潜水時間が44分と、2日目とほぼ同じくらいの内容だったために、遅いコンパートメントへの上積みがさらに起こりました。

■4日目・トータル18本目終了後の体内窒素圧
4日目No.18終了時

上の図の4日目(トータル18本目)終了時点の体内窒素量を見ると、ハーフタイム480分のコンパートメントには64%の窒素が残った状態です。

このようにある一定量を超えてしまうような過剰なダイビングを毎日続けると、窒素の吸排出の遅い組織に多くの窒素が溜まった状態になることをぜひ頭の中に入れていただきたいと思います。

ダイビング内容によっては、
飛行機搭乗時点でも体内窒素圧が……

この方が何時間後に飛行機に乗られたのかというデータはいただいていませんが、12時間後と、18時間後の体内窒素圧(量)の状態を見てみましょう。

■潜水終了12時間後
減圧症罹患ダイバープロフィール12時間後(提供:今村昭彦)

ご覧のように、最も窒素の吸排出が遅いハーフタイム480分のコンパートメントには22%の窒素が残った状態です。

そして、一般的に飛行機搭乗が可能とされている18時間後の状況はこちら。

■潜水終了18時間後
減圧症罹患ダイバープロフィール18時間後(提供:今村昭彦)

最も窒素の吸排出が遅いハーフタイム480分のコンパートメントには13%の窒素が残った状態です。
ご夫妻そろって罹患されたことから、飛行機搭乗が引き金となった可能性も大いにあります。

以上のようなことから、連日の複数ダイビングを行う際には、以下のような3つの注意が必要です。

1.平均水深×潜水時間のバランスを考えたダイビングを1日3~4本にとどめる。

2.回数が多い反復潜水を連日行う場合は、3日潜ったら1日はオフか軽いダイビングにして、窒素の吸排出の遅いコンパートメントの窒素を出来るだけ抜く。

3.飛行機搭乗前日にはダイビングをしない。

といった注意が必要だと私は考えます。

TUSAのダイブコンピュータであれば、一日毎のダイビング終了時点の体内窒素排出時間が、長くても24時間を超えないようにするということが大切です。
※他社のダイブコンピュータでは24時間以上表示されないものがあります。

さて、今回は過剰な反復ダイビングを行って夫婦揃って罹患された方の事例を取り上げました。
次回は水面休息時間が減圧症罹患に大きく関わったのではないかと推測している事例を上げます。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト
「減圧症の予防法を知ろう」

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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