4日間で18本の無減圧潜水を繰り返し、夫婦そろって罹患した減圧症例

グレートバリアリーフのサンゴ(撮影:越智隆治)

さて、今回も減圧症に罹患したダイバーのダイブプロファイルの中から、興味深い事例をご紹介します。

今回は連日の複数ダイビングによる過剰な窒素蓄積によって発症したと考えられえるケースです。

このケースは5年ほど前に減圧症罹患者同士の情報交換サイトを運営されていた方から、まとめて依頼された25人くらいの罹患者のデータの中にあったものです。

ご夫婦揃って罹患されていることから、体質や体調といった要因がかなり外れて、ある意味「こういうダイビングは危険」という指標になると言えるかもしれません。

1本、1本はそれ程問題ないダイビング、
しかし、蓄積された体内窒素圧(量)は…

この例では、ゴールデンウィーク中に海外リゾートで、4日間18本のダイビングをご夫婦でされて、二人揃って減圧症に罹患されてしまいました。

お二人のダイブログデータは以下の通りです。

減圧症罹患者ご主人ログ(提供:今村昭彦) 減圧症罹患者奥様(提供:今村昭彦)

1日目は3本で、残りの3日間を5本ずつ潜られています。
いわゆる無制限ダイビングという潜り方です。

実はこのケースですが、お二人とも1本、1本を見ると、すべてダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間を守っています。

私が減圧症発症の危険なラインの入口だと考える「平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上」という、ダイビングに該当するものが1~2本ありますが、大きく超えた例はありませんでした。

また、浮上速度違反もされていないということですし、M値に対してもダイビング中は体内窒素圧が、最高でハーフタイム45分コンパートメントの90%程度に留まっていました。

最大窒素圧(提供:今村昭彦)
4日目・トータル16本目の潜水軌跡と潜水中最大体内窒素圧

4日目・トータル16本目の潜水軌跡と潜水中最大体内窒素圧

上のグラフは18本のダイビング中、最も体内窒素圧が高くなった4日目、トータルの潜水本数で16本目の潜水軌跡と、潜水中の最大体内窒素圧です。

18本すべてのダイビングで、ダイブコンピュータが示す無減圧潜水時間に対してはある程度の余裕を持ってダイビングをされていたと言えます。

過剰な反復潜水によって翌日に持ち越される、
無視できない残留窒素圧(量)

では、なぜお二人とも罹患されてしまったのでしょうか?

それは、連日の複数ダイビングによって、吸排出の遅い組織に窒素が蓄積し過ぎて許容性がなくなった事や、飛行機搭乗時に残留窒素が多くあった事が原因ではないかと私は推定しています。

もちろん、「平均水深15m以上かつ潜水時間45分以上」相当のダイビングを2本程されているので、体質や体調によってはそれだけでも発症される可能性がありますが、M値(減圧潜水ライン)に対しては割と余裕があることと、お二人とも罹患していることから、やはり、特定の1本が原因というよりは、複合的な原因ではないかと思います。

体内窒素圧を検証するために、4日間のそれぞれ最後のダイビング終了時点の体内窒素圧(量)を、いつものようにシミュレーターを使って分析しました。
※今回はご主人様のプロファイルで解説します。

■まずは1日目。

この日は平均水深/潜水時間が14.3m/37分、9.4m/45分、13.1m/32分の
3本のダイビングをされています。

初日・トータル3本目の潜水終了後体内窒素圧

初日・トータル3本目の潜水終了後体内窒素圧

上のグラフは初日の3本目終了時点の体内窒素圧(量)状態ですが、それ程長いダイビングではないですし、トータル3本ということで全体に低く、まったく問題はありません。

■次は2日目。

この日は平均水深/潜水時間が15.8m/46分、12.2m/45分、12.8m/32分、9.4m/45分、12.8m/32分の5本のダイビングをされています。

2日目・ダイビング開始前の体内窒素圧

2日目・ダイビング開始前の体内窒素圧


2日目のダイビング開始前の体内窒素圧は上の通りで、1日目のダイビングによる残留窒素圧(量)はまったく問題ありません。

2日目・トータル8本目の潜水終了後体内窒素圧

2日目・トータル8本目の潜水終了後体内窒素圧

しかし、2日目最後のダイビング、トータル8本目の終了時点の体内窒素圧(量)は上のグラフの通りとなりました。

着目していただきたいのは、一番右の窒素の吸排出が最も遅いハーフタイム480分のコンパートメントが60%になっていることです。

これが何を意味しているかと言うと、体内窒素排出時間がTUSAのダイブコンピュータの計算では24時間以上かかるということです。

さすがに、少し長めのダイビングが5本続いたことが大きな要因です。

■そして、次は3日目。

この日は平均水深/潜水時間が12.2m/46分、8.2m/51分、12.8m/32分、9.4m/45分、12.8m/32分の5本のダイビングをされています。

3日目・ダイビング開始前の体内窒素圧

3日目・ダイビング開始前の体内窒素圧

ダイビング開始前の体内窒素圧は上の通りで、2日目の5本の反復ダイビングによる残留窒素圧(量)への影響が大きく出ています。
※2日目のスタート時と3日目のスタート時のグラフをぜひ見比べてください。

着目すべきは一番右の最も窒素の吸排出が遅いハーフタイム480分のコンパートメントで、M値に対して22%もあります。

前日のダイビング終了時に60%であった体内窒素圧(量)が、22%までしか下がっていないのです。

つまり、右から4つまでのコンパートメントは0からのスタートではなく、3日目のダイビングによって更に体内窒素が加算されることになるのです。

こういった事は一般レジャーダイバーの方はなかなか認識していない事実だと思いますが、過剰な本数のダイビングをすると、翌日に持ち越す体内窒素圧(量)が無視できないレベルであることをぜひ頭に入れていただきたいと思います。

さて、今回はここまで。

次回は3日目、4日目のダイビングプロファイル分析と、無制限ダイビング時の注意点を書きます。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト
「減圧症の予防法を知ろう」

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
  • facebook
FOLLOW