ダイバーもライフジャケットを着ることになるの? ~”すべての乗船者へ着用義務化”を考える~
2017年4月30日にアップされた、DAN JAPAN発刊の会報誌「Alert Diver Monthly」4月号において、「ライフジャケット着用義務範囲拡大」という、気になるニュースが取り上げられています。
ダイバーへの影響は無いのでしょうか?
ダイビングポイントまでの船上、
ダイバーもライフジャケットを着るの?
平成29年2月1日、国土交通省により、「船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則の一部を改正する省令」が公布され、ライフジャケット(救命胴衣)の着用義務の範囲が拡大。
さらに、平成30年2月1日からは、原則として「船室外のすべての乗船者」にライフジャケットを着用させることが義務化されます。
やや乱暴にまとめると、海への転落時、ライフジャケットの有用性は明らかであるにもかかわらず(着用すると生存率は2倍以上)、なかなか普及しないので義務化する、というのが公の事情でしょう(詳しくは、ぜひ「Alert Diver Monthly」)。
■国土交通省 「ライフジャケットの義務拡大」
「すべての乗船者へライフジャケットの着用義務化」となると、我々ダイバーは、ダイビングポイントまでの船上でもライフジャケットを着る必要があるのでしょうか?
注目したいのは、「適用除外の対象となる場合」。
その中で、「水上スキーその他の船外における行為を行うための装備を着用していることにより船外への転落に備える必要な措置を講ずることが当該装備の機能保持上適当でない者」とあること。
もうひとつ、「船外への転落に備えた措置」に関する取扱い通達が出され、この中でダイビングについて言及されています。
この2点の解釈を考察してみます。
ダイビングの装備を
着用していればOK
まず、「水上スキーその他の船外における行為を行うための装備を着用していることにより船外への転落に備える必要な措置を講ずることが当該装備の機能保持上適当でない者」の「船外における行為」にはダイビングが含まれています。
この点については、ダイビングができる装備をした状態で乗船している場合、ライフジャケットを着用したら、その機能を損ねてしまうことは明らかなので、着用の適用除外となるでしょう。
近場のダイビングポイントに器材を背負って移動する場合などがイメージしやすいですね。
たしかに、装備の上からライフジャケットを着るのは現実的ではなさそうです。
しかし、逆にいえば、それ以外は着用義務があるということでしょうか。
船上でウエットスーツで過ごすダイバーも少なくありません。
ウエットスーツを着用していればOK!?
でも、“着用”が問題
ポイントとなりそうなのが、「適切な命綱又は安全ベルトを装着させることその他第二項に規定する措置に相当すると国土交通大臣が認める措置が講じられている者」の「国土交通大臣が認める措置」。
実は、これも「潜水を目的とする者が、ダイビングスーツを着用する措置」と明記されています。
しかし、ダイバーの船上での光景を思い出してみましょう。
ポイントまでの移動中、ウエットスーツやドライスーツを腰までおろしているのは日常的で、甲板で日焼けを楽しむという光景もそう珍しくありません。
DAN JAPANの問い合わせに対する国土交通省の回答によれば、これらのケースは着用とは認められそうにありません。
(引用)
「潜水を目的とする者が、ダイビングスーツを着用している状態であれば、『船外への転落に備えた措置』が講じられていると認めます。言い換えると、ダイビングスーツそのものが、ライフジャケットとすべてにおいて同等の性能(浮力、強度、反射材、笛……など)を有しているから適用除外にしているのではなく、『潜水を目的としている』ことによって『船外への転落に備える』という要素の一部分を満たし、さらに、『ダイビングスーツを着用している』ことによって外形的にも『船外への転落に備える』という要素を満たしていることから、この両者を併せて満たした状態を『船外への転落に備えた措置』が講じられていると認めています。ダイビングスーツが浮くから単に適用除外としているのではありません。
ただ、社会通念上ダイビングスーツといえないものをダイビングスーツといって着用しても適用除外とは認められません。また、ほとんどダイビングスーツを脱いだ状態であれば、ダイビングスーツを『着用』しているとは認められません」(国土交通省)
ウエットスーツやドライスーツを腰までおろしていたり、ファスナーを開けたままだったり、浮力のないウエットスーツなどは、着用とは認められないでしょう。
もちろん、甲板で日焼けを楽しむなんてことは……。
着用義務を違反した場合、
行政処分を受けるのは船長
ということで、「船上では海中転落にしっかり備えましょう」というのがパブリックに言える結論ですが、ちょっと踏み込んで、私見を交えて、現実的な問題点を考えます。
まず、率直な感想ですが、例えるなら、今回の改正、マグロを獲ろうと投げた網にイサキもかかっちゃったというイメージ……汗。
そもそもライフジャケットの着用について、着用率が低く、上がらないのは漁船。
漁船35%に対して、プレジャーボートは75%(しかも着用率は上昇)。
割と、漁船とかモーターボートとかジェットとか、そっち方面への施策な気がするわけで、だからこそ、わざわざ適用除外にダイビングも入れてくれていたと思うわけで……。
ライフジャケットの普及をさせようと真剣にがんばってきた方々の活動(http://www.wearit.jp/tasuki.html)などを見ると、そういう流れでもよいとは思うのですが、ダイビングボートでの転落死亡事故など、ほとんど聞いたことないですしね……。
個人的には、ダイビングポイントまでの甲板でライジャケを着るのは抵抗があるし、だからといって、ウエットスーツをがっつり着ると熱中症のリスクもあるし、きついし……。
言わずもがななことが決まってしまったなというのが率直な気持ちですが、これはいつも甲板で日焼けを楽しんでいた自分のエゴでもあるし、仕方ないかなとも思います……。
ごにょごにょ言ったものの、その是非はすでに終わっているので、現実的には、ダイバーへ認知、普及するまでのタイムラグが問題となるでしょう。
ほかのマリンレジャーと比べて、実は、ダイバーにとってライフジャケットはあまりなじみがないような気がします。
「ライフジャケットを着るか、ウエットスーツをしっかり着てください」「え? そんなこと言われたことない!」といった、認識のズレによるハレーションが起きるかもしれません。
ここでダイバーに知っておいていただきたいのは、ライフジャケットを着用させない(代わる措置をしない)場合、船長が行政処分を受けるという点です。
こうしたハレーションを考慮して、しばらく、船長も、あまり強く言わないかもしれません。
この時、私のようにごにょごにょ言いたい人もいるでしょうが、それで着用を拒否した場合、割りを食うのは船長です。
逆に、私のようにごにょごにょ言わない真っ当な方にとっては、強く言わない船長が何してんだって話にもなり得ます。
さらに、設備によって「着用義務」でなく「着用努力」になる場合などもありますので、ダイビング事業者は、今回の改正について、詳細をチェックしておくことをオススメします。
※「船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則第134条から第138条「小型船舶操縦者の遵守事項」の規定に係る取扱いの改正について(平成20年2月14日付国海安第140号・国海資第204号)