クラゲはあらゆる生物にとって「母」なんです 〜ときめくクラゲ図鑑出版記念、水中写真家・峯水亮さんインタビュー〜
2018年8月25日(土)に写真家・峯水亮さんの書籍『ときめくクラゲ図鑑』が山と溪谷社より発売されました。
今までたくさんのプランクトンを撮り続けている峯水さん。
同じプランクトンの仲間である謎多き生物「クラゲ」にスポットが当てられた作品です。
本をパッと見、「ん? 図鑑?」と思う人もいるかもしれません。
なんだって、こんなに可愛らしい表紙なんだから〜。
同じく峯水さんが著者で2015年に出版された「日本クラゲ大図鑑」に比べたら、なんだか柔らかい雰囲気の図鑑ですよね。
しかも「ときめく」って……。
「ときめく」ってどういう感情だったのか忘れてしまったけど、クラゲが教えてくれるかもしれない!
そんな雑念を織り交ぜながら、峯水さんにインタビューしてみました!
クラゲに“ときめく”ための図鑑
たくさんの人にクラゲを知ってほしい
ーー
2015年に「日本クラゲ大図鑑」、そして今年「ときめくクラゲ図鑑」で、クラゲの本としては2作目になりますが、この「ときめくクラゲ図鑑」を出すに至った経緯を教えてください。
峯水
山と渓谷社に「ときめく図鑑」シリーズというものがありまして、これはいわゆる普通の図鑑というよりも、作者の思い入れのあるものを「図鑑」という形にしている本なのです。
今回、その担当の方からお話をいただきまして、クラゲをテーマに。
いわゆる普通の図鑑とは違って、「ちっちゃい」とか「ぽってり」「ひらひら」というようなクラゲの雰囲気をテーマにクラゲを紹介するという図鑑です。
ーー
図鑑の種類分けといえば「〜科」「〜種」などが多いと思いますが、雰囲気で種類分けされているのって珍しいですよね。
このテーマは、すべて峯水さんが決められたのですか?
峯水
テーマのキーワードは相談しながら決めましたが、クラゲは全部自分で選びました。どういうクラゲがこのテーマに合うかな?とか考えながら。
だからもう僕の独断と偏見ですね(笑)。
なので、分類上はかなり偏っているし、おっしゃる通り、いわゆる系統順とかそういうのではないです。
ーー
この種類分け、なんだか可愛いですよね。
私的に、ミズクラゲは「ぽってり」に入るかと思っていたのですが、「ゆらゆら」なんですね〜。
その違いが面白いですね。決まったものがなく、たくさんのプランクトンを見てこられた“峯水さん目線”というところがまた面白い。
そういう感覚のゆらぎみたいなものも“浮遊生物”を連想させます。
峯水
そうですね。形でいえば「ぽってり」なのですが、動き方がなんだか「ゆらゆら」して可愛いなと。感覚優先で分類しています。
ーー
「図鑑」と聞くと、その分野に興味がある人が見るイメージがありますが、今回の図鑑はどちらかというと、“クラゲ初心者”向けという印象です。
「クラゲのことを知らない人に知ってもらう」という気持ちが伝わってきます。
峯水
そうですね、クラゲ入門編というイメージで思っていただければ。
この本をキッカケにたくさんの方が、クラゲに興味を持ってくれるといいな、と。
ーー
なるほど。実際私も、もう惹きこまれそうです(笑)。
まさに、クラゲに“ときめく”ための図鑑ですね。では、この説明文などの内容も峯水さんが考えられたのですか?
峯水
はい。クラゲって、それぞれすごく特徴的なので、文章では分かりづらいものとかはイラストを入れるなど工夫しています。このイラストがまた可愛いですよね。
そして、いろんなところに挿絵も入れています。描いてくれた作家さんがセンスよくて、結構この挿絵、好きなんです。
峯水
あとは、「日本クラゲ大図鑑」なんかは黒バックの写真が多かったんですけど、今回は本の雰囲気に合わせて、青バックにしたり、全部ではないですけど「こういう写真の方がときめくかな?」と思って撮り直したりして。新しく撮ったものもたくさん入っています。
もちろん元々持っている写真もあるんですが、テーマに合わせて撮り下ろししました。
プランクトンの存在に気にも留めなかった
ダイビングガイド時代
ーー
ちなみに峯水さん、昔、大瀬崎でダイビングガイドのお仕事をしていたとお聞きしたのですが、その頃からすでにクラゲに興味を持たれていたのですか?
峯水
そうです。海に潜っていると、クラゲとかプランクトンとか、悪く言っちゃうとちょっと地味な生物に注目することって難しいんですよね。
特に、ガイドしているときなんか。どうしても、スズメダイなどパッと見でキレイな外観をしている生物に注目してしまいます。まして、クラゲをゲストに紹介するってあまりしないですよね。
たとえば、赤くて大きめの目立つ外観をしているアカクラゲがいたら「あれアカクラゲですよ」と紹介することもありますが、ヒドロクラゲ類みたいな小さいクラゲたちって、まず見ないし紹介しない、気にも留めないじゃないですか。
でも、よくよく見てみると、いろいろな形があって色もあって、「すごい!宝石みたいで可愛い!」となってきて……。でも、これって意外と知られていないんじゃないかなと。
ーー
そこでプランクトン、クラゲに興味を持ち始めたというわけですね。
ちなみに……ちょっと気になっちゃったのですが、峯水さんは大瀬崎のガイド時代はクラゲやプランクトンをゲストに紹介していたのですか?
峯水
さすがにゲストには紹介していないですけど、自分の撮影ではプランクトンもよく撮っていました。
クラゲもずっと撮ってましたね〜。
おそらく、周りからしたら「何を撮っているんだろう〜?」と思っていたかもしれないけど(笑)。
ーー
たしかに(笑)でも、普段潜っていてクラゲってなかなか気に留めないですが、よく考えたら一番身近なプランクトンですよね。
そして、この本を見ていて思ったのですが、確かにすごくきれい。
クラゲって癒されますよね。
峯水
そうなのです。
海に海水浴で行くと、刺されたりして「クラゲって嫌だな」って思う人もいるけど、水族館に行くとみんな見惚れてずーっとその場で見てしまうぐらい癒される存在なのです。
クラゲは、やっぱり他の生物みたいに、注目されるような存在ではないので、実際に出会って観察して写真撮って、「この生物って、実は宝石のようにきれいな生物なんだ」と。
そういうところに魅力を感じて、こんな小さくて美しい生物の存在を、いろんな人に知ってもらいたいと思い至り、真剣に撮影を始めました。
いろんな生物に“利用される”クラゲ
クラゲから学ぶ「命の大切さ」とは
ーー
峯水さんをそこまで突き動かすクラゲって、どのような存在でしょうか?
峯水
クラゲは自分にとってというか生物にとって「なくてはならない存在」なんです。
いろいろな生物がクラゲと関わっていて、たとえば、アジの子どもが夜寝るときにタコクラゲを利用することがあるんですよ。
ほかにも、防御?のつもりなのか、クラゲをかぶっていたり……。
峯水
観察していると、そういう海の中での「クラゲの存在理由」を感じるので、クラゲってすごいなと。
クラゲってどっちかっていうと大量発生すると駆除されたり、人間の勝手な価値観で「悪者」と捉えがちですが、実際、このアジのようにクラゲを必要としている海の中の生物はたくさんいるんです。
クラゲって漢字で書くと「海月」と書くのですが、実は「水母」とも書きます。
いわゆる、水の母っていう意味は、僕が思うにはいろいろな生物たちにとって「母」なる存在、つまり必要とされる存在なんです。
生物たちに自分の体を与え、身を守る為や餌として利用されており、海の中になくてはならない存在なのだと見ていて思います。
この本を通じて、いろんな人にこういうクラゲの生態についてもっと知ってもらい、「命の大切さ」を感じてほしいなと思っています。
ーー
なんだか切なくなりますね……。
すごいですね、クラゲって。クラゲにすごく興味が湧きました。
なんだか、“ときめく”の意味がわかった気がします。
「これからもずっとプランクトンの世界を撮り続けます」
水中写真家として伝えたいこと
ーー
では最後に……峯水さんがこれから撮ってみたい新しいものってありますか?
峯水
いや、ずっとプランクトンの世界を撮ろうと思います。
やり続けると思います。
一生かかっても終わらないことだと。
プランクトンの中には、クラゲみたいによく観察すると実は素敵な生物がもっとたくさんいると思うので、僕の作品を通じてたくさんの人に知ってもらえたら幸せですね。
ただ、こういう小さな生物を知ることによって、クジラみたいな大きい生物と向き合ったときに、また違う意味で得るものがあるんじゃないかなと思っています。
ーー
命は連鎖していますものね。ありがとうございました。
Profile
峯水 亮(みねみず・りょう)
1970年大阪府生まれ。西伊豆大瀬崎でダイビングガイド・インストラクター経験後、フリーランスフォトグラファーへ。
自然と向き合い、海の世界とそこに宿る命の尊さとたくましさを人々に伝えるために、ときには、夜の海にライトを設置し、そこに訪れる浮遊生物を観察するダイビングブラックウォーターダイブ®によって出会った生物たちの姿を写し続けている。
著書に「世界で一番美しいイカとタコの図鑑」(エクスナレッジ)、「日本クラゲ大図鑑」(平凡社)などの他多数。2016年には、第5回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。
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