海の中には葉っぱや枯れ葉、千切れた海藻などがよく漂っています。パッと見はゴミのようですが、もしかすると実はソレ、魚なのかもしれませんよ。
今回は、そんな「擬態」を得意とする様々な海の生き物たちを紹介します。
擬態とは?
海の生き物が使う
生存テクニックを解説
擬態の種類。
海の生き物が選ぶサバイバル術
「生き物が、体の色や模様、姿や動きなどを他の生物や周囲の環境などに似せること」を擬態といいます。地球上で最も繁栄していると言われる昆虫の世界では、実に多様な擬態ワールドが展開されていることが一般にも広く知られています。
カマキリ(上左)とコノハチョウ(下右)では擬態する目的が異なる。カマキリは主に「自分が食う」ための攻撃擬態で、コノハチョウは「自分が食われない」ための隠蔽的擬態
また、ひとくちに擬態といっても手法や目的は様々です。魚類研究者・瀬能 宏先生は、著書『幼魚ガイドブック』で海水魚でよく見られる擬態を次の3タイプに分けて紹介しています。
①食うために似る
獲物をおびき寄せるため、あるいは獲物に気づかれずに近づくため、獲物にとって無害の生物に似ることを「攻撃擬態」といいます。
たとえば、全身丸ごとカイメンに擬態するカエルアンコウの仲間がそうですね。イロカエルアンコウやオオモンカエルアンコウなどはカイメンそっくりなうえ、微動だにしないものだから、ガイドさんに教えてもらわないとなかなか気づけません。さらに体の一部(エスカ)を小エビやゴカイに似せ、これを揺り動かすことで獲物をおびき寄せています。
②食えない「生物」に似る
フグやウミウシを好んで捕食する海洋生物はあまりいません。というのも、多くのフグは体内に毒を蓄積していますし、ウミウシも食感が悪いことなどが原因で好まれないようです。
そうした「食えない」「まずい」生き物に擬態することを「ベーツ型擬態」といい、有名なものに有毒のシマキンチャクフグをモデルとするノコギリハギがいます。
シマキンチャクフグ(上左)とノコギリハギ(下右)。それぞれフグ科とカワハギ科という別のグループに分類されるが、まさに瓜二つ。識別ポイントは背ビレと尻ビレの基底の長さ
③食えない「静物」に似る
海底の石や岩に“化ける”オニダルマオコゼといった例もありますが、魚類でよく見られるのは、海に流されてきた葉っぱや枯れ葉、千切れた海藻に擬態するタイプ。そうしたゴミのようなものを捕食する生き物は少ないし、何よりありふれた「静物」です。擬態のモデルとするにはちょうどよいのでしょう。
外敵の目を欺くために、石に擬態するオニダルマオコゼ
枯れ葉のように海底を漂うオビテンスモドキの幼魚
ダイバーが出会える擬態生物リスト!
日本近海の枯れ葉風生物15選!
葉っぱや枯れ葉、海藻の破片のフリをする海洋生物の中には、捕食者から狙われやすい幼魚のときだけ擬態し、成長すると見た目がすっかり変わることもあります。似ていない親子、という点でも興味深いですね。
「枯れ葉」擬態で代表的な魚
① ナンヨウツバメウオ(幼魚)
茶褐色の体に長く伸びた背ビレや尻ビレ、胸ビレをもち(尾ビレだけは透明)、そのままユラユラと海中を漂う姿はまさに枯れ葉そのもの。死滅回遊魚(季節来遊魚)として伊豆半島など南日本でも見られます。狙い目は港や内湾のゴミが吹きだまったようなところ。幼魚の大きさ2~15cm
上左は少し成長したナンヨウツバメウオの若魚。下右は成魚で、インド-太平洋のサンゴ礁域に生息。しばしば大きな群れを作ります。
ナンヨウツバメウオの幼魚①
ナンヨウツバメウオの幼魚②
表層や水面直下を探せ!
② ウミガメの仲間(幼体)
まだ小さな子ガメは潜水が不得意で、日中は基本的に海面に浮かんでいるそうです。そのときの姿勢がこの画像。前脚を甲の上に乗せ、ピタリと静止。大型の魚類や海鳥といった捕食者の目を欺くため、枯れ葉や木片のフリをしているようです
③ ハナオコゼ
一生を流れ藻(ホンダワラ類などの海藻が千切れ、海面を漂っているもの)に付いて暮らす、風変わりなカエルアンコウの仲間。画像は南伊豆で撮影された個体で、流れ藻からはぐれてしまったのか、ボンテンに寄り添っています。大きさ5~10cm
海底や低層付近を探せ!
④ オビテンスモドキ(幼魚)
(上左)ベラの仲間には幼魚のとき枯れ葉のふりをする種類が多く、本種はその中でも最も擬態上手と評判。ヒレを全開し、海底近くをフラフラと泳ぐ様は、流れに翻弄される海藻の切れっ端にしか見えません。茶や緑などカラーバリエーションあり。幼魚の大きさ2~6cm
(下右)成魚は20~30cmほどになり、インド-太平洋のサンゴ礁に生息
珍魚オビテンスモドキ幼魚
⑤ホシテンス(幼魚)
(上左)幼魚は海底スレスレのところをフラフラと泳ぎます。このとき背ビレ前部の長い棘を前方に突き出しており、波に揺られる植物片の擬態と言われています。危険を察知すると一瞬にして砂中に潜り込むので、ウオッチング時には注意。黒や茶など色彩変異あり。大きさ2~5cm
(下右)成魚は20~30cm。インド-太平洋に広く分布していますが、ダイビングで会う機会はあまりありません(写真/堀口和重)
ホシテンス(幼魚)
⑥カミソリウオの仲間
世界に6種ほどいるカミソリウオ科の仲間は、頭を斜め下に向けた姿勢がデフォルト。まるで千切れた海藻のように波間を漂い、しばしば生きた海藻・海草の近くに寄り添うこともあります。ただし、派手な模様のニシキフウライウオは例外で、イソバナ類やウミシダなどに擬態しています。
ちぎれた海藻に擬態 カミソリウオ
⑦ヘコアユ(幼魚)
(上左)幼魚は全身が濃い褐色で、植物の切れ端そっくり。頭を下に向けた逆立ち姿勢で、小さな群れをつくって海底付近を浮遊するところは成魚と同じ。大きさ1~2cm
(下右)すっかり模様が変わった成魚。大きさは8~12cmほど。インド-太平洋の暖海に生息
ヘコアユ幼魚♡可愛すぎ♪
海藻や海草の中を探せ!
⑧ ホホベニモウミウシ
ウミウシの仲間にも擬態名人が多い。画像はオオアリモウミウシという嚢舌(のうぜつ)類の仲間で、緑藻の上や周辺で暮らします。周囲の環境に見事に溶け込んでいるうえ、1cm前後と小さいため見つけづらいです
⑨ タツノオトシゴの仲間
見事な擬態で海草の林の中に隠れているタツノオトシゴの仲間。この個体は東部大西洋や地中海、黒海などに分布する英名ショートスナウティッド・シーホース(学名Hippocampus hippocampus)
瞬間変身の達人!リアルタイムで姿を変える生き物
⑩ハナイカの仲間
イカの仲間は全般に擬態の名手。しかも、瞬時にして色や模様、体表の質感などを変えることができます。ホンダワラ林の中で海藻のふりをするコウイカなどの擬態は見事。ここでは東南アジアで見られるミナミハナイカを紹介します。
(上左)海底で海藻に化けているところ。高く突き上げた第1腕がなければ、とてもイカとは思えません。
(下右)これが通常の姿(といってもコロコロ色変わりする)
発見はレア!! 見つけたらラッキーな擬態生物
⑪ マツダイ(幼魚)
海面を漂う葉っぱや枯れ葉、流れ藻、流木などの近くで見られます。横になったり逆立ち姿勢をとったりしながら漂う姿は、枯れ葉にも樹皮にも見えます。海中で人の目に触れるのは幼魚ばかりで、成魚の画像や映像はほとんどありません。世界中の温帯~熱帯海域に分布。幼魚は5~10cm、成魚は80cmに達するそうです(写真/堀口和重)
⑫ソウシハギ(幼魚)
(上左)幼魚は流れ藻や千切れて漂っているアマモ類などの周辺にいることが多い。内湾のブイやロープに付いていることも。大きさ5~15cm
(下右)成長すると40~60cmほどになる。毒々しい体色から予想されるとおり、パリトキシンという猛毒を内臓に蓄積するため食用厳禁。世界中の熱帯域に分布
オーストラリアで会いましょう
⑬ リーフィーシードラゴン
オーストラリア南部の冷たい海藻の森で暮らし、大きさ20~40cmにもなる大型種。タツノオトシゴのように見えますが、近縁のヨウジウオの仲間で、尾部でものにつかまることはできません
⑭ ウィーディーシードラゴン
オーストラリア南部やタスマニア島に生息するヨウジウオの仲間で、海藻の周辺をゆっくりと泳ぎます。大きさ20~45cm。2015年にルビーシードラゴンという新種が報告されました
南オーストラリアでリーフィーシードラゴン
ウィーディーシードラゴンをスキューバダイビングで見る
⑮ ゴールデンウィードフィッシュ
オーストラリア南部からニュージーランドにかけて生息するアサヒギンポ科の仲間。藻場やケルプ(コンブの仲間)のが繁茂する岩場などに生息。姿はもちろんのこと、独特の動きも葉っぱの切れっ端への見事な擬態となっています。イエロークレステッドウィードフィッシュとも呼ばれます。大きさ5~15cm
海藻や葉っぱに化ける海の生き物、そのほんの一部を紹介しました。日本の藻場やカジメ林には、他にもスイやニジギンポなど隠れん坊上手がいます。次回のダイビングで、ぜひ探してみてください。