急浮上ダイバーを追って急浮上したガイドが減圧症に罹患 ~当事者の証言からの考察~
この夏、沖縄の海で、急浮上したゲストA(およそ800本)を追って、急浮上することになってしまったガイドが減圧症になるという事故がありました。
ダイバーたちの減圧症予防になればと、当事者であるAさんとそのバディBさんに証言を寄せていただきました。
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【Aさん】
直接の原因は、BCDにエアが一気に勝手に給気されてしまったためです。
しかしながら、その前から微量がリークしており、都度排気しておりました。
一気に給気され、体を持って行かれることのリスク、危険を想像することが欠如していたと思います。
減圧停止ギリギリのところでの出来事でした。
急浮上の中、勝手に給気される中圧ホースを抜いたところで、ガイドさんが私の身体を押さえ再潜降を試みるもの加速がつき、慌てて過呼吸になったため水面まで上がってしまいました。
ガイドさんのレスキューを受け、船にエグジットし、純酸素を吸うなどの処置をしたためか、減圧症には罹患しませんでしたが、
ガイドさんを傷つけてしまい、自分の未熟さを悔い反省しダイビングをやめようかと悩んでいます。
器材のトラブルが直接の原因ではありますが、私のダイビングに対する考え方が甘く、ガイドさんやバディをはじめ、紹介者の方々にご迷惑をおかけしてしまいした。
遠因として、ダイビング初日(この日は4日目)にフルフットフィンのポケットが割れ以後レンタルのストラップフィンを使っていたことがあります。
流れの中、今までのイメージどおりに身体が進まないことに相当なストレスを感じておりました、
リークしているBCDを中圧ホースを抜かずに使い続け、都度排気すればイイや、と思っていた私の慢心、進まないフィンでもなんとかなるさ、という謙虚のなさがこういう結果になってしまったのです。
このBCDの不良はダイビング前にガイドさんに伝えておりませんでした。
なぜなら、なんとか出来るという根拠の無い自尊心のためです。
幸いにバディの指示に従って身体は今のところ大丈夫です。
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まずは貴重な証言、冷静な分析をありがとうございます。
減圧症といえば、ダイビングプロフィールばかりがクローズアップされますが、器材不良や油断・慢心も減圧症につながるということがよくわかる証言です(本人が罹患したわけではないですが)。
また、ゲストが急浮上した時のガイドの対応についても考えさせられます。
ガイドの管理責任、ダイバーの自己責任が議論される昨今、「追うべきなのかどうか」は皆さんに聞いてみたいテーマです。
さらに、証言の中に、「純酸素を吸うなどの処置」とありますが、沖縄のダイビングボートでは、船上に純酸素がない場合も結構あります。
Aさんはラッキーなことに、バディのBさんが純酸素を携帯していたのです。
減圧症の要因は、生理的な要因も大きいし、ガイドは過去に罹患経験があるそうですから、軽はずみなことは言えませんが、同じようなプロフィールで、同じように急浮上した2人のうち、ガイドだけが減圧症になり、純酸素を吸ったAさんが減圧症にならなかったのは、やはり気になるポイントではあります。
Bさん自身が減圧症体験者ということもあり、ダイビングの際にはほとんど純酸素を携帯しているそうです。
関東在住のBさんは、沖縄の場合、船でタンクごと送っているそうです。
バディであったBさんの証言も聞いてみましょう。
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【Bさん】
今回の事故については、ガイドさんの性(サガ)と言えばさがなのでしょうが、たまたまゲストが2人でガイドさんの目が届いてしまったが故なのかも知れません。
連休中のダイビングで、ガイドさんもゲストも連日反復ダイビングを行い、この日も2ダイブ目のエキジット間際の事故です。
潮の流れがそこそこあり、エキジットのため海底の岩などをつかみながら水深7Mのボート下まで来ました。
私の使っているダイコンは非常に厳しい設定がなされています。
予備のダイコン(IQ850)もUSF(ユーザーセイフティーファクター)を一番厳しいSF2に設定しています。
私のメインのダイコンが減圧停止まで残り3分と表示されたので、ガイドさんとバディーに伝え、ゆっくり水底の突起物をつかみながら深度を上げて行きましたが、メインのダイコンの減圧停止までのカウントダウンが消えたので安心したところ、IQ850が3m3分の減圧停止が出てしまいました。
この時バディーもガイドさんも減圧停止表示は全然出ていませんでした。(全体としてほぼ同じプロファイルです)
そこそこの流れがあったため、何も無いところでの3mでの減圧停止は厳しいと判断し、流れに逆らって水深7mのアンカー下まで移動し6mから加速減圧(純酸素を使用)しながらアンカーロープに掴まりながら減圧停止していました。
バディーは7m付近にガイドさんと一緒にいましたが、浮上の時にBCDにエアーが自動吸気されてしまい流されながら急浮上し、ガイドさんはそれを追いかけて同じく急浮上してしまいました。
エキジット後、船上で、バディーに私が携行していた純酸素(6L残圧90Ber)を吸気するように勧めました。
バディーがある程度吸気した後(残50Ber)、ガイドさんにも吸気するように勧めましたが、友人で念のためにチャンバーに入って誘発されて減圧症になった人がいたとの事で吸気を断ってきました。
ホテルに帰着後、効果が有るのかは定かではありませんが、念のために1.3気圧の酸素カプセルに1時間入ってもらいました。
2.8の高気圧酸素のチャンバーとは比較にはなりませんが、1.3気圧の酸素カプセルでも大気圧中と比べれば肺胞酸素分圧は100㎜Hg→146㎜Hg、血液中の溶解型酸素も1.5倍となるので悪くはならないと思いお勧めしました。
純酸素による加速減圧が功を奏したかは不明ですが、とりあえずバディーは今のところ減圧症の症状は出ていないので一安心です。
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こちらの証言にも参考になるポイントがいくつもあります。
まず、流れもあり、DECOもギリギリで、ダイビングはあまりゆとりのないものだったような印象です。
そんな時に器材トラブルなどが起きると対応もギリギリになってしまうので、やはり、ダイブプロフィールは安全マージンを取って潜ることが大事ということでしょう。
それにしても、Bさんは、過去に減圧症に罹患していることもあり、かなり安全に対する意識が高いことがわかります。
ダイブコンピューターを2台持ち、ユーザーセイフティーファクターに設定する人はかなりの少数派で、個人で酸素を携帯して潜る人はめったにいないでしょう。
ダイビング後すぐに酸素を吸えたことはAさんにとってとても幸運だったといえます。
※「酸素を吸うことが減圧症の誘発になる」、「酸素カプセルが有効か」はいずれ専門家に聞いてみたいと思います。
まだまだ、ダイビングが楽しいシーズンが続きます。
貴重な証言を参考に、安全潜水でいきましょう。