レジャーダイビング向けダイブコンピュータのディープストップ機能って、本当に効果があるの?

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皆さん、お久しぶりです。
昨秋より仕事が多忙だったこともあり、なかなか新しい記事を書く事が出来ませんでした。

まだまだ書きたいことはたくさんありますので、今後ともお付き合いくださいね。

今回は減圧症からは少し外れて、ダイブコンピュータに搭載されているディープストップ機能に関するお話を書きます。

その前に復習的にこの記事をお読みください。

ボートダイビング

さて、皆さんがお使いのダイブコンピュータにはディープストップ機能は付いていますか?

TUSAが現在取り扱っている話題のソーラー充電式ダイブコンピュータ、DC-Solarシリーズにはディープストップ機能は付いていません。
しかし、以前はディープストップ機能が付いている製品も扱っていました。(※デフォルトはOFFの任意切り替え式)

これは多様なユーザーニーズに応えるためと、元々の製造元の基本仕様が違ったためですが、DC-Solarシリーズを開発する段階においては、ディープストップ機能は製品仕様からあらかじめ外してありました。正直、効果があるのかどうか、全く検証できていない機能だからです。

ディープストップに関しては肯定派と否定派があって、どちらなのか分らない方が多いのではないかと思います。
正直言って、文献頼りなので、私も実際の効果のほどはよく分りません。

しかし、私の考え方なのですが、「ディープストップは有効か?」と問われたら、あくまでもレジャーダイビングにおいての話ですが、
「どちらかと言えばマイナス方向に働くことの方が多いのでは?」と説明しています。

なぜかというと、理由の一番目としては、そもそも潜水医学を研究されている学者の中には、「ディープストップは効果がない」と述べている方がいることと、効果があるとしている方も「条件がそろえば効果がある」と述べていることが挙げられます。

ディープストップの効果を検証した
さまざまな実験結果から見えてくること

まずは、潜水医学の第一人者である山見信夫先生の論文から以下の抜粋部分をご覧ください。
※いろいろなディープストップ実験結果(他者論文)と山見先生のコメントです。

「ディープストップの効果について水深25m、潜水時間20~25分の潜水において、減圧時に水深15mでディープストップ(1~10分)を行い、続いて水深 6mでシャローストップ(1~10分)を行うと、2分30秒ディープストップをした群が、もっとも気泡発生量が少なく、ディープストップが1分では気泡量が最多となり、短すぎることが示めされた。一方、シャローストップについては10分以上行っても、あまり気泡は減少しないとされている。」

※今村注:シャローストップをする前に2分30秒ディープストップした場合が一番気泡発生が少く、1分のディープストップは一番気泡の発生が多かったという実験結果。その時のシャローストップの時間が知りたいですが、ここからディープストップの効果を出すには時間管理がシビアであることが分ります。

「シャローストップとディープストップのどちらが重要かを検討した研究もある。
最大深度20m、潜水時間40分、総潜水時間47分の潜水において、ディープストップ群では、減圧時に水深10mで3分停止し、シャローストップ群では、水深4mに7分停止して、それぞれを比較してみると、ディープストップ群はシャローストップ群より気泡発生が多くみられ、ディープストップはシャローストップの代用にはならないという結論が得られている。 」

※今村注:段階減圧ではなく、いわば深い水深での安全停止と浅い水深での安全停止の効果を比較したような実験。最大深度20m、潜水時間40分、総潜水時間47分の潜水の場合はディープストップよりシャローストップの方が効果があったとされています。

「一方、ディープストップについて否定的な研究もある。
水深50~60mの潜水後に行った気泡の評価試験では、ディープストップを行っても有意差がなかった。さらに、深度20mに40分潜水した後、毎分10mで浮上したダイバーについて、ディープストップ群では水深10mに4分停止後さらに水深4mに3分停止。
一方、シャローストップ群では水深4mに7分停止することとし、それぞれ運動群と非運動群について潜水後の気泡を検査した研究では、潜水終了後に運動をすると気泡は増加する傾向にあり、運動をするとディープストップ群のほうが、気泡はより多く発生するという結果であった。
よって、水深20mに潜る際のディープストップの有用性については疑問視されている。」

※今村注:上の2つの実験と比較して、より現実的にディープストップの効果を測ったと言える実験。水深50m~60mの大深度潜水後の実験結果では、ディープストップの効果そのものがなかったとされています。また、水深20mに
長く(40分)潜って浮上した後の運動群と非運動群に分けた実験結果では、ディープストップ群の方が気泡の発生がより多かったとされています。

これまでの研究結果を総じていえば、
水深25~30m程度の水深に20~25分程度滞在する潜水であればディープストップは有用であるが、それより深かったり浅かったりするダイビングではそれほど有用ではないといえる。

※今村注:山見先生のまとめの言葉からも分る通り、実験結果からはディープストップが有効となる条件は非常に限定されていると言えます。

以上、出典元:「減圧症にならない潜り方」(第11回潜水医学講座小田原セミナー基調講演論文)

つまり、効果がある場合でもある特定の条件が揃った時だけであり、
その条件を外すと、気泡面でもマイナス方向になる場合があるということです。
これらの条件を見ただけでも、それぞれ異なる潜水プロファイルの一般レジャーダイビングに当てはめる事には疑問を感じます。

いくつかの文献を読んだ結果、マイクロバブルの生成&消滅について理論的にある(であろう)ことは述べられているものがありますが、明確な計算式として示されているものはないと私は認識しています。つまり、ダイブコンピュータのディープストップの計算式は各製造元(世界で数社)によって異なるのです。よって、当然ディープストップの指示が出されるタイミングや停止水深、停止時間が異なります。

また、忘れてはいけない事として、水深が深い所である程度の時間留まるということは、体内窒素を吸収する方向(溶解論)で考えれば、当然危険な方向に向かいます。

そのリスクを冒してまで、レジャーダイビングでディープストップが必要かどうかは、非常に疑問があります。

溶解論からみるディープストップのマイナス面

溶解論での危険性ですが、言葉だけでは分かりづらいので、TUSAダイブコンピュータのアルゴリズムに基づくシミュレーションデータでご説明します。

レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能

上の潜水軌跡図は水深30mで減圧潜水に切り替わり、15mで2分のディープストップをして、安全停止後浮上をしたシミュレーションです。(※ストップ水深、時間はメーカーや機種によってまちまちです。)

レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能 レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能

そして、上のグラフがディープストップ開始時のコンパートメントごとの体内窒素量で、下のグラフはディープストップ2分終了後の体内窒素量です。

ハーフタイム5分、10分組織以外は体内窒素量が増えていることがわかります。

レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能

また、上の潜水軌跡図は水深40mで減圧潜水に切り替わり、20mで2分のディープストップをして、安全停止後浮上をしたシミュレーションです。(※ストップ水深、時間はメーカーや機種によってまちまちです。)

レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能 レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能

そして、上のグラフがディープストップ開始時のコンパートメントごとの体内窒素量で、下のグラフはディープストップ2分終了後の体内窒素量です。

最大水深30m同様、ハーフタイム5分、10分組織以外は体内窒素量が増えていることがわかります。※10分組織は同じ値ですが、計算上では微量ながら増えています。

レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ機能

一覧表にしてみました。
黄色い部分は、体内窒素量がディープストップ前よりディープストップ後の方が多いコンパートメントです。

ハーフタイム5分、10分コンパートメントはM値が高い(限界水深が深い)ので、ディープストップ中でも(この停止水深では)体内窒素量がある程度減りますが、その他のコンパートメントは当然増えます。

水深20m地点であれば、たとえ2分であっても、殆どのコンパートメントで体内窒素量は増えてしまうのです。これが溶解面では危険だとする理由です。

製造元によって異なり、意外と単純な
レジャー向けダイブコンピュータのディープストップ計算式  (小見出し)

理由の二番目としては、
大体、気泡の発生には個人差もありますし、それぞれが気泡の発生具合をドップラー検査機でも付けて確認しながらであれば別ですが、レジャー用ダイブコンピュータのアバウトなディープストップ計算では、とても効果があるとは思えないことです。

前述のように、窒素の吸収(溶解)の意味でも危険ですが、「深い所で何故止まるの?」
とユーザーの知識の混乱を招くのもマイナスです。

色々な実験結果を見ると、ダイブコンピュータが表示するディープストップの有効性はレジャーダイビングに置いては、浮上速度違反を抑えるという意味合い以上のものはないと思います。

それであれば、ダイビングの最初に深い所に行き、後はゆっくりと速度違反に気をつけながら浮上してくるという模範(フォワード)潜水パターンを実践することが大切です。そもそもレジャーダイビングにおいては必要以上の減圧潜水を行わないことが重要です。

以前扱っていたTUSAのダイブコンピュータのディープストップ機能は、水深21m以上の深さで減圧潜水になった時に、その水深の半分くらいの所で1分間の停止をするというような計算式のものでした。※水深と減圧停止時間によって段階ストップの回数が増える。

私の想像ですが、他のメーカーの製品もカタログにはすごい事が書いてあっても、
似たり寄ったりで、そんなに複雑な計算はしていないはずです。

それが証拠に、市場にはユーザーが停止時間を選ぶという機種まであります。

「ユーザーが停止時間を選ぶ!?」

「一体、どういう根拠で??」

停止時間にシビアな実験結果を考えてみれば、非常にいい加減な話ですよね。

テクニカルダイビングとは全く異なるレジャーダイビング。
研究結果や仕組みを知った上で、ディープストップの利用を!

ある説明によれば、「ディープストップを行うことにより、浮上に伴い血液中に発生したマイクロバブルの核を毛細血管中にとどめることなく、より太い血管に戻すことにより、毛細血管内でのマイクロバブルの生成を防止する」とあります。

また、別の説明では、「最大水深・繰り返しダイブ回数及び水温等条件をパラメーターとしてアルゴリズムに与えることにより、マイクロバブルを加味し演算している」とあります。

しかし、ユーザーに停止時間を選ばせる機種もあることから分る通り、ダイブコンピュータのディープストップ機能はそんなにすごい計算を行っているわけではありません。

テクニカルダイビングの世界で慎重にディープストップを使って段階減圧していく話と、レジャーダイビングの世界でディープストップ機能を使う話を同次元で考えては少し危険だと思います。

より安全なダイビングのためにも、少なくともユーザーはそういった研究結果やディープストップの仕組みをよく知っておくべきだと思います。

それを知った上で、効果があるか否かをユーザー自身が判断するという姿勢が必要です。

そうしないとディープストップという考え方は全く生きないはずです。

今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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