「水を飲めば減圧症にならない」のウソ・ホント

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ダイビング歴45年・やどかり仙人のアップアップ相談室

妙に寒い5月が過ぎると、もう入梅の噂。
海の中は、雨は降らないものとは言うものの、水面近くに戻ってきて、
水面の雨の波紋を見ると、いけねー、濡れちまうなんて思うのが不思議。
そんな中で、体の中の水分のお話。今回のご質問は、

Q.
水分の摂りかたが少ないと、減圧症になりやすいと聞きます。
暑いリゾートなどで、一日中ダイビングをするようなときには、
どのように水分補給をしたらよいのでしょうか?

水分が不足することを、脱水症状といいますが、
減圧症の引き金の1つに脱水症状が広く信じられています。
ただ脱水症状といっても、ダイバーがダイビングをする体調ですから、
感染性の下痢などによる、病気による脱水症状は考えなくてもよさそうですね。
これはダイビングの問題というよりも、病気の話ですから。

まず、減圧症と脱水症状のおさらいです。

体の余分な窒素の排出―オフガシングなんていいますが―は、
血液によって行われますが、
人間の体重の約70%は水分で占められ、血液はほとんどが水分です。

何かの理由で水分不足が起きれば、当然、スムーズに窒素が排出できずに、
減圧症にかかりやすくなるという理屈であります。
そこで、常にたっぷりと体に水分をためておけというのが、
ダイバーの心得として、ダイビングマニュアルにも書かれてかれているのは、
みなさんご存知ですな。

水分不足が減圧症にかかりやすくする原因であることは、
誰もが認めているのですが、
ではどれだけ水分が足りないと減圧症になるのかという、
臨床的な証拠はほとんどないようです。
証拠がないだけに、余計面倒だとも言えるわけですな。
ダイビングの直前に、「スポーツドリンクを500cc飲めば十分です」
なんてガイドラインがあれば、こりゃ分かりやすいのですがね。

実際には、何十時間も前から、しっかりと水分をとっておく必要があって、
直前にガバガバと飲んでも、素通りしちまうということらしいのです。

ちょうど昨年の今頃、とても減圧症になるような、ハードなダイブプランでないのに、
かなり重症の減圧症にかかった女性ダイバーのご相談を受けました。
ご本人も医療関係で働いている人で、
脱水症状が原因の1つだったかと、考えておられたようです。

そこで、ダイビングで脱水を起させるような状況を考えてみることにしましょうか?

■脱水を起す原因はさまざま
水分といっても、お茶、コーヒー、などは利尿作用があるので、
飲みすぎれば、かえって脱水をまねくことになります。
アルコールも脱水の原因となります。

また、食べすぎ飲みすぎでお腹を壊せば脱水症状を起します。
これはふだんの生活でよくあることです。

長い飛行機の旅。乾燥した機内、やっとたどり着いたトロピカルリゾート、
開放された気分で深夜までのパーティー。
初日のダイビング前に、すでに体は水分不足になっているかもしれません。

とまーここまでは、体調管理の世界ですな。

しかし、困ったことにダイビングそのものが
脱水を起させるファクターがそろっております。

まずは、タンクの空気は徹底した乾燥空気であります。
通常の呼吸の2倍以上も、体から水分を奪うといわれております。
反復ダイビングをすればさらに水分不足になるわけですな。

暑い日にウエットスーツなどを着ていれば、当然発汗して体温を下げようとしますし、
水中での運動が激しければ汗をかくし、呼吸量も増え呼吸から水分が奪われます。

また、エントリーしたとたんにオシッコがしたくなるというのは、
どなたにもある経験ですな。
これは地上で立つ生活をしている私たちの体は、
普段はどうしても足の方に水分が多く分布しており、
重力から開放され、水平姿勢になる水中では、水分が再分配されて、
それまで水分があまり補給されないところに水分が届くので、
びっくりした体が今度は排出しようとする。
これが水中ではオシッコがしたくなるという理屈だそうな。

また寒い日、あるいは冷たい水中では、
手足に送られる血液が体の深奥部に送り返され、深奥部の血圧が上がるので、
これまた血圧を下げるためにオシッコがしたくなるという、これまた理屈。
水中への適応作用ということですな。

水中でお漏らしをしたくないとばかりに、ダイビング前の水分摂取を我慢されているお方、
特に女性も多いように聞きますが、出て行くものはしかたない。
水中への適応作用ということです。
水分不足になる条件は多いのに、はなから水分控えめでは、
体にもよくないわけであります。

ここまでで言いたいことは、つまり、水分が失われる原因は多く、
さらにいろいろな条件でその程度も違ってくるということです。
ではどれだけの水分を摂ればよいのかとなると、答えは難しいのです。

常識的には1日コップ10杯、2リットルぐらいは水を飲めというようですが、
これとてもいろいろな条件の重なるダイビングでは積極的に飲んだほうがよいということでしょう。
ダイバーの必携品はペットボトルといえるかもしれませんな。

ある先生は、オシッコの色がふだんより濃くなったら、
水分補給をしたほうがよいといわれております。
個人差もあるでしょうから一概にはいえませんが、
一応の目安になるかもしれません。

さらに、水分を正しく蓄積するにはかなりの時間がかかるので、
理想的には24時間以前から、十分に水分補給をしておけということであります。
前の晩に飲みすぎの二日酔いで、ダイビング前にがぶがぶ飲んでも、
水分不足を急にはカバーできないってことですな。
アルコール飲むより水を飲めであります。

脱水状態が減圧症にかかりやすくするのは、まさにダイバーの常識なのですが、
そのメカニズムは単に血液が減るとガスの排出が悪くなるだけではなくて、
もう少し複雑でははないかといわれております。
しかしながら、水分不足と減圧症の関係は細かいことはわかっていないようです。
私たちダイバーにできることは、ダイビングのはるか前から、
十分に水分を摂っておくことと、そしてダイビングの合間にも、
細かく水分補給をするのがよいということ
になりますな。

ダイビング後は体は確実に水分不足になっているわけですし、
しかもガスをたっぷり溜め込んだ状態ですから、
まずは水分補給は、ダイバーの心得といってもよかろうと思うのであります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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