「高所移動が減圧症を引き起こす」は本当か!?

我潜る。故に我あり。

1年生の必修科目「政治学基礎」を担当しているパパもんがこの時期、
採点しなくちゃいけない答案は700枚を超える。
いい答案が出てくれば教えがいを感じて嬉しいけど、悲しいかな現実はそうじゃない。
だから精神衛生上、この時期には気分転換が絶対に必要。
ということで出かけてきました、日本水中科学協会(JAUS)のセミナーに。

■ダイコンを使っているからこそ危険性が増大する状況がある!?
テーマは「ダイブコンピュータの問題点と減圧症の予防法を考察する」と題するもので、
講師はパパもんも今年から使い始めたダイブコンピュータIQ850の開発者であるタバタの今村昭彦さん。

話の大筋はTUSAのサイトにも掲載されている記事がベースだったが、
全体で3時間にもおよぶ熱のこもった充実した内容だった。
ここのところ拝聴する機会の多い今村さんのお話は、
豊富なデータの裏付けがあり、この分野で高名な学者の先生方のお話より説得力がある。

「浮上速度違反と体内への過剰な窒素の溜め込みこそが減圧症をもたらす」という明解な視点のもとで、
ダイコンの普及が減圧症の罹患者数を増加させたというのが今村さんの仮説である。

前者の浮上速度違反に関してはダイコンが管理・警告してくれるのだから、
この仮説は簡単に反駁されてしまいそうなものだが、そうではない。現行のダイコンは
1.無減圧潜水時間を
2.早い組織と遅い組織の区別をせずに表示するし、
3.浅場にくるといきなり無減圧潜水時間「200分」と途轍もなく長い時間を表示する。

その結果、「無減圧潜水時間さえ守れば大丈夫」と危険なまでに体内に窒素を溜め込む
パターンのダイビングをしてしまうというのが今村さんの仮説の骨子だ。
ダイコンを使っているからこそ危険性が増大する状況がある

今村さんのシミュレーションでは水深15〜19mあたりに
箱形のプロフィールで反復潜水を行うのが一番危険で、
これこそ日本人ダイバー特有の潜り方でもある。
日本人にはマクロ好きのカメラ派が多く、また長い休暇もとれないから、
いきおい無制限ダイビングに引かれてしまう。かく言うパパもんも例外とは言いきれない。

今村さんはM値(減圧停止不要限界点)に対して
可能なかぎり十分な安全マージンをとったダイビングをするべきだと結論する。
この結論にはパパもんも全く同感だ。

■理屈が通らない!?疑問だらけの高所移動
ただ、その今村さんの講演で唯一、
パパもんには合点がいかなかったのが「高所移動」をめぐるお話だった。
「高所移動が減圧症を引き起こしている」との主張にいろいろな点でパパもんは以前から疑問を感じている。

浮上速度違反が危険なのは、急激な圧力変化が体内で窒素の気泡を発生・増大させるからだが、
浮上後数時間経った後の、たかだか500m程度の移動に伴う気圧変化に比べれば、
安全停止後の5mからの早すぎる浮上の方がずっと危険なはずである。

1.5気圧から1気圧への圧力差は1気圧から0.67気圧までの圧力差に等しいが、
そのためには3000m以上の山に登る必要があるのだ。
安全停止後の水深5mからの浮上にパパもんは最低でも2分はかけるが、
2〜3分で3000mの山に登るのはそもそも無理な話。

でも高所移動の結果、実際に減圧症で苦しんでいる人がいる。
これをどう考えたらいいのだろうか。次回ではこの話題をとりあげてみたい。
 

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