神秘の病” 減圧症
昨晩はJAUS(日本水中科学協会)のマンスリーセミナーに参加。
テーマは「ミステリア・マラディ(神秘的な病) vs. 減圧ストラテジー」。
講師はPADIコースディレクターで「DIR-TECH Divers’Institute」代表の久保彰良氏。
内容は、減圧症の歴史からテクニカルダイビングの世界など多岐に渡り、
経験豊富で意識の高いダイバーが十分に満足できる内容であるだけでなく、
個人的に久保さんのセミナーが最も素晴らしいと思うのが、
ビギナーでもわかるような「減圧症の捉え方」を教えてくれること。
実はここが一番大事なことであるにもかかわらず、上手に教えるのが難しい部分だと思う。
安全意識の高いダイバーほど、理論にツッコミ過ぎて、数字や手順を追ってしまいがち。
これがビギナーに、難しそう、怖そう、面倒くさそうといった負のイメージを与えてしまったり、
「数字や決まりさえ守ればいい」という風潮にもつながる要因にもなっている。
そこで僕などは、理論にのみ走るダイバーを”安全原理主義者”とか”安全バカ”と呼んで揶揄したり、
あえて”減圧症は運”と言ってみたりして、先達から叱られ……。
その点、職業柄ついキャッチーで意地悪な物言いをしてしまう僕に比べ、
理路整然とした久保さんにいわせれば、
「減圧症の理論はすべて仮説です。理論のみで議論すると仮説vs仮説になってしまい、
収拾つかなくなりますからね(笑)」と実にスマート。
減圧症は、経験則と理論の両輪
久保さんは、減圧症を”ミステリア・マラディ(神秘的な病)”とし(素晴らしいセンス!)、
“経験則の重要性”の部分を理路整然かつ具体的データで語れる稀有な存在。
例え話も実にわかりやすい。
「『髪が濡れたまま外に出たら風邪ひくんじゃない?』という良識を働かせることが大事」
つまり、髪が濡れたまま外に出たら、風邪をひくかもしれないし、ひかないかもしれない。
体調によっても髪の長さによっても外の寒さによっても違うし、
「自分は大丈夫!」と気にせず外に出ても風邪をひかない人もいれば、
しっかり乾かしても夜風に負けて風邪をひいてしまう人もいる。
乾かし方だって、タオルで髪を拭くだけか、ドライヤーをかけるか人それぞれ。
しかし、まず大事なことは「髪が濡れたまま外に出たら風邪ひくんじゃない?」という良識。
減圧症予防には良識を働かせることが大事。まさに至言。
そんなにお酒飲んだら減圧症になるよ?
その潜り方だったらそりゃ減圧症になるよ。
それくらいなら大丈夫でしょ。
“そんな””その””それくらい”。それを決めるのはダイバー自身。
経験則のみで判断すれば、下手すりゃ楽な方に流れてむしろリスクは高まるかもしれない。
そうならないためのストッパーが経験則と対をなす理論。
良識とは、やはり経験則と理論の両輪なのである。
減圧症の捉え方を改めて頭の中でクリアにでき、
久保さんのインストラクションに感服しきりな2時間。あっという間の2時間でした。
最後に、久保さんの印象に残ったひと言。
「リスクに対して、前払いするか後払いするか。
後払いにしてツケを払わされるより、前払いの方がいいと思いますよ」
※JAUSマンスリーセミナー。ご興味のある方はこちらまで。
http://seminar.jaus.jp/