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『世界で一番美しい ペンギン図鑑』出版記念、水口博也さんインタビュー【前編:南極とペンギンのこと】閲覧無制限

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おしらせ
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『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

オーシャナ初登場
写真家・水口博也さん

世界中の動物や自然を取材・撮影してきた水口博也さん。

とりわけクジラ・イルカの生態写真は世界的にも高く評価されています。
そのフィールドは海だけに留まらず、南極・北極から熱帯雨林まで広範囲に展開。
2018年6月には、誠文堂新光社より「世界で一番美しい ペンギン図鑑」を発行されました。

その著者である水口博也さんにペンギンや南極、そして、自然写真のことまで、幅広くお話を聞きました。

前編は、20年におよび取材されてきた、“南極とペンギン”のお話です。

極地の環境のひとつとして
ペンギンを記録していく

山本

2005年に発行された『風の国・ペンギンの島』が、水口さんにとって初めてのペンギン本でしたよね?
ペンギン自体は、いつから撮影されているんでしょうか。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

『風の国・ペンギンの島』

水口

いちばん最初に撮ったのは、30年くらい前になりますね。南米のバルデス半島にセミクジラを撮りに行ったついでに、マゼランペンギンを撮りました。
本格的に撮り始めたのは、約20年前ですね。南極へは、それからほぼ毎年行っています。並行してフォークランド諸島やサウスジョージア島へも行っているので、南極・亜南極へは40回くらいは行っているでしょう。

 

山本

きっかけはありましたか?

 

水口

地球の環境の変化は、極地から起こっていきます。極地は、環境問題におけるキーと言えるでしょう。
そして、南極でメインの動物はペンギンです。そのため、“極地の環境のひとつとしてのペンギン”をちゃんと見たいと思いました。

 

山本

水口さんのペンギンの写真は、よくありがちな「かわいい」とか「きれい」という印象ではなく、どちらかというとハードな印象がありますが、どういったまなざしでシャッターを切られているのでしょうか。

 

水口

記録しよう、という意識ですかね。
写真は、その場で見たものを留めておくことの連続の成果でしかありません。もう一方で注意しなくてはならないのは、僕が見ているのは、ほんの一局面だということ。隣の島では違うことが起こっているかもしれないですから。

 

気温の上昇と下降、雨量の増加と減少などの環境の変化は、直線的ではなく、必ずゆらぎがあります。ゆらぎがありながら、徐々に上がっていくんです。
ちょっとずつ上がったり下がったりしながら、20年分を総合して見てみると、やっぱり上がってるんですね。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

水口

逆にいうと、一年一年の結果は、かなり極端なものを見ていると覚悟したほうがよいでしょう。平均的なものを見られることはかなり少ない。今年寒くても、来年暑いかも分からない。

 

今まで刊行されてきた、南極の出版物には、2タイプありました。
ひとつは、越冬隊などに入った学者の方がきっちり書いたもの。しっかり研究が語られますが、なかなか一般化しづらいですね。

 

もうひとつは、記者がその年に取材費を得て書く(テレビ放映の場合もあり)ものです。
この場合、一回の取材は長期に及ぶかもしれませんが、1年きりの単発のことが多いです。初めての南極取材に、より思いも強くなるでしょう。そのため、センセーショナルな扱いをしがちです。その年のその場所、その時点では正しいんだけど、それは南極全部の話ではないでしょうね。

 

前述の通り、環境はゆらぎながら変化していきます。
だから、一年の結果でとやかく言わない姿勢が大切です。

 

僕がよく言うのは、「敏感であれ、しかし冷静であれ」ということ。敏感に感じ取るのはいいんだけれど、もっと冷静に長い目でみないと、本当の変化をつかむことはできません。

 

それが、長く通うことの最大の理由であり、価値ですね。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

アデリーペンギンが
南極半島で減っている

山本

20年通われてきた中で、どんな変化を感じていらっしゃいますか?

 

水口

まずは、位置関係を把握しましょう。
大きく南極大陸があって、この突き出ているのが、南極半島です。

Antarctica on globe

水口

多くの観光船が行くのは南極半島です。
この南極半島が、地球上で最も温暖化が進んでいるところ。50年で平均気温が2.5度ぐらい上がっています。

 

一方、南極大陸は、巨大な氷のかたまりですから、実は、温度があんまり上がっていないんです。
温暖化が起こっているという人は、南極半島のことをいい、起っていないという人は、南極大陸のことを言っている(苦笑)。

 

山本

そこにズレがあるんですね。

 

水口

温暖化を語るときは、しっかり“南極半島”って書かないと間違いになる。
南極大陸は大きな氷の塊だからまだ顕在化していませんが、もし南極全体に変化が目に見えるかたちで起こりはじめたら、そこからは急激な変化が・・・・。

 

山本

それくらいのレベルの話なんですね。

 

水口

温暖化っていうと、観光客は、かつてより氷とか雪とかが少ない状況を思い描きながら来るんですが、実は、雪、氷は増えています。

 

何故かというと、温度が上がっているといっても、マイナス10度だったところが、マイナス5度になっても、氷点下である限りは水は凍るし、雨じゃなくて雪が降ります。
しかも海水温が上がっていると、蒸発量が増える。よりたくさんの降水量になるんですね。そして、その降水量は、氷点下である限り雪という形をとるので、ドカ雪なんです。

 

もう少し事態が進んで、雪や氷がなくなりはじめたら、ことは一挙に進むでしょう。いまは、その入り口あたりにいる感じ。

 

そのために被害を受けている動物がいます。それがアデリーペンギンです。南極を象徴するペンギンですね。
20年前は、南極半島の西岸にごっそりいました。ところが、今は奥の方にはいますが、普通に観光船が行くところでは、ほとんど見られなくなってしまいました。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』

水口

アデリーペンギンは、春に海の上の生活から、繁殖地に戻ってきて、営巣を始めます。雪の上では営巣ができないので、雪が溶けて地面が出ているところに小石を集めて営巣するんです。
でも、ドカ雪なもので、なかなか雪が溶けなくなっている。そのため、営巣をはじめる時期がどんどん遅くなってしまう。

 

ところが、1ヶ月後には、ジェンツーペンギンが帰ってくる。ジェンツーペンギンも同様に雪と氷がないところ選ばないとダメ。
アデリーペンギンの方が営巣を始める時期が早いので、先に営巣地が占有できて、そのあとジェンツーペンギンが来た。でも今はもう、アデリーペンギンが営巣をスタートできないうちにジェンツーペンギンが帰ってくるんですね。
加えて、ジェンツーペンギンの方が、場所に対するフレキシビリティが高いんです。さらに、体も一回り大きい。

 

温暖化を背景に、南極半島西岸のアデリーペンギンの繁殖成功率がどんどん悪くなっています。今はもう、極端に減っている。

 

山本

それは、どれくらいから顕著に影響が出始めたんですか?

 

水口

研究者のレポートだと数十年前から起こりはじめています。

 

いまでは南極半島西岸でアデリーペンギンを見るのが珍しいくらいになってしまった。一方で、ジェンツーペンギンがどんどん増え、今ではいたるところでジェンツーペンギンが見られます。

 

温暖化と言われながら、雪や氷はあんまり減っていないよね、と思いつつ、一方で、アデリーペンギンは数を減らしていますね、っていうのが、一番大きな変化です。

 

山本

やはり、影響って生物にでてくるんですね。

 

水口

そうですね。
それと、人間って、自然の中で何が起こるかっていうことを予想しきれないんですね。まだ僕らは、そこまで賢くない。
さまざまな公害をとってもそうですが、いいかげんに「これは大丈夫だ」と開発したり、人間が自然に手をくわえたりすると、“えらいこと”が起こることがたびたびあります。本当に優れた研究者は予想していたかもしれませんが、一般には人間はそれが予想できるほど賢くない。

 

自然のからくりって、あまりに複雑です。ちょっとした変化、それは人間が起こす変化かもわからないし、自然で起こっている変化かもわからないけど、「風が吹けば桶屋がもうかる」的な複雑な変化があり、思いもよらぬことが起こるものだっていうことを、再認識しないとダメだと思います。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

水口

地球が温暖化しているのは事実でしょう。
ただし、その原因が100%人間が作り出している温室効果ガスにあるかどうかは、まだクエスチョン。たぶん僕は、そうじゃないだろうと思っています。もっと長い時間のスパンで起こる、地球の大きなリズムで起こっているのではないかと。

 

しかし、ならば今まで通り、温室効果ガスを排出していいかというのは、別問題です。
ちょっとでも絡むのなら、より出さない方に努力する方が理想的ですからね。

南極行くなら年末年始
意外と快適なクルーズ旅行

山本

死ぬまでには極地へ行ってみたい、と思っているんですが(笑)、南極へ行くのは大変じゃないですか?

 

水口

ぜんぜん、大変じゃないです。世界中から、年間4万人もの人々が観光しにやってきます。
南米の先端からドレーク海峡を越えて、南極半島へクルーズで行くのが一般的ですね。昔に比べ、航空券が半額近く下がっているので、金額的なハードルも低くなってきました。

 

クルーズの日程は、10泊11日くらいはとったほうがいいでしょう。短いもので9泊10日くらい。

 

山本

ペンギンを見るのにオススメの時期はありますか?

 

水口

年末年始にひっかけるのが、オススメです。南極の夏ですね。

 

アデリーペンギンにしても、ジェンツーペンギンにしても、ヒゲペンギンにしても、年末年始から1月中旬くらいまでが、営巣を見るのにとてもいい時期です。小さいヒナがエサをもらっているところを見ることができます。
それより早いと営巣ははじまっていても、ヒナがいないかもしれない。逆に遅いと、ヒナが成長した姿になっていますね。

 

一応、2月末ぐらいまでは営巣は見られますが、盛夏に向かい気温が高くなるにつれ、足元が泥でびちゃびちゃになります。当然、ペンギンの周りも泥まみれに・・・。
きれいな雪の中で、ペンギンを見るという、皆さんが思い描く風景から離れていってしまいます。

 

山本

どれくらいの寒さですか?

 

水口

冬に東京で1日過ごせる服があれば大丈夫。0度の中で過ごせる服ですね。

 

南極大陸はデカイです。南極半島で上陸する場所あたりは、南緯63〜64度くらいなんですね。北極のスピッツベルゲン島なんかは、北緯80度あるわけで。

 

山本

どんな過ごし方をするのでしょうか。

 

水口

だいたい午前と午後、それぞれ2〜3時間上陸して、船に戻ってきます。船は、ホテルのように快適です。取材する立場の人間からいうと、ものすごく楽。移動や食事の手配などに煩わされることなく、撮影に集中できます。フラストレーションが本当にない。

 

ちなみに、船を選ぶときは100人乗りの船がおすすめです。
南極って、一度に上陸できるのは、一箇所に100人までなんです。でも、大きな船は、200人とか300人、ときに400人つんでいることもあります。
つまり、班に分けられるんですね。そして、上陸できる時間も限られたものになります。

 

ちなみに、北極だとホッキョクグマがいるので、個人行動できないんです。銃を持ったガイドがついてきて、ちょっとでも離れると怒られたりする。しかし、南極は、その心配がありません。説明役でガイドや研究者が監視を含めて動いていますが、いろいろ質問しながら一緒に歩いていきます。すごく楽しいですよ。
もちろん、保護のために立ち入らないでくださいという場所はありますけどね。

 

船からはゾディアックで渡ります。この時間までには、浜に帰ってきてください、と言われるんですね。だいたい僕らはギリギリで、一番最後に帰ってきます。

 

山本

これからも南極取材は続けられますか?

 

水口

はい、極地は見ていかないとダメだよな、と。
極地以外にも、地球の変化が出やすい、熱帯雨林や砂漠にも注視していきたいと思っています。

※後編へ続きます

書籍紹介
『世界で一番美しい ペンギン図鑑』

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

いま、世の中にあるペンギン本の中では、写真の質、量ともに“一番揃っていると言っても過言ではない”ペンギン図鑑。水口さんの他、共著の長野敦さん、そして、世界中の写真家による、優れたペンギンの写真が200点以上掲載されています。
ペンギンの生態のみならず、ペンギンを取り巻く地球環境にまで言及。専門家からの寄稿もあり、ペンギンの生態についてより深く理解することができます。

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』 (誠文堂新光社、2018年6月発行)

水口博也
プロフィール

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

水口博也さん
写真家。科学ジャーナリスト。1953年大阪生まれ。京都大学理学部動物学科卒業後、出版社にて自然科学系の書籍の編集に従事。1984年フリーランスとして独立。以来、世界中の海をフィールドに、動物や自然を取材して数々の写真集を発表。1991年「オルカ アゲイン」で講談社出版文化賞写真賞受賞。

新刊紹介
〜今年発行された2冊〜

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

『世界の海へ、シャチを追え!』(岩波書店、2018年5月)

『世界で一番美しい クジラ&イルカ図鑑』(誠文堂新光社、2018年3月)

関連書籍
〜ペンギンと南極の本たち〜

『世界で一番美しい ペンギン図鑑』水口博也さん

『ペンギンの楽園』(山と渓谷社、2016年8月発行)

「南極の生きものたち (月刊たくさんのふしぎ2015年12月号)」(福音館書店、2015年11月発行)

『ペンギンびより』 (Sphere Books、2009年1月発行)

『風の国・ペンギンの島』(アップフロントブックス、2005年8月発行)

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