水深120mで生きた化石・シーラカンスを撮影 ~海洋生物学者ローラン・バレスタ氏インタビュー~
6500万年前に絶滅したと考えられていたシーラカンスを水深120mで撮影した海洋生物学者で水中写真家のローラン・バレスタ(Laurent Ballest)さん。
南フランスモンペリエ出身の彼は、東京のマリンダイビングフェアに続いてシンガポールADEX(アジアダイブエキスポ)で写真を展示し、撮影プロジェクトを紹介しました。
そんなローラン氏と一対一でお話しさせていただきました。
生きた化石「シーラカンス」は、1938年、南アフリカで発見され、 学会と世界は騒然となりました。
その後、これまでにアフリカ(南アフリカ、コモロ諸島、タンザニア)とインドネシアで見つかっています。
地元の人々が「ゴンベッサ」と呼ぶこの巨大魚の発見は20世紀の最も重要な大発見のひとつとされています。
ローラン氏ときちんとお話しするのはもちろん初めてで、彼は限られた時間の中、忙しかったので少し慌ただしかったのですが、面白い話をいろいろしてくれました。
―― なぜ海洋学やダイビングに興味を持つようになったのでしょうか?
「映画やジャック・クストーのドキュメンタリーを見て、 ダイビングに興味を持つようになった。ダイバーはまるでヒーローのよう、海中生物や自然よりも大事な存在で、俺もそのようになりたかった。」
―― フランスのダイビングポイントについて教えてください。
「フランスのいろいろなポイントで潜ったけど、俺の場所は南フランスだ。海洋生物に興味があれば、世界中に良いダイビングスポットはいっぱいある。シンガポールだって海に囲まれているからきっと良いダイビングスポットはある。モンペリエの南はダイビングポイントとして人気ではないけど、いろんな発見があるよ。俺にとってはダイビング初体験の海で、そこで初めて潜って、ダイビングってこういうものだと初印象を受けた。モンペリエの海は俺にとって特別出し、面白い生物もいるよ。」
―― Andromeda Oceanologyという会社を設立されたのですが、今の仕事について少し教えてくれますか?
「どうして会社を設立したかというと、大学の研究者や科学者で、忙しくてどこにも行けない事を避けたかった。それから旅人やジャーナリストだけになって研究する機会がない事も避けたかった。
研究者、科学者、ジャーナリスト、すべてをやりたかった。全部組み合わせて一つの職業を作りたかった。だから会社を設立した。会社には研究、科学、探検、撮影、すべてがある。でも 現在そういう会社は必要だと思う。
今は様々なプロジェクトに関わっている。汚染の調査等のつまらないものとか探検とかいろいろあるけど、何をしても、必ず最も綺麗な写真、映像、いわゆる「イメージ」を作成するよう心がけている。」
―― 仕事の面で水中写真はどれくらい重要ですか?
「すごく重要だ。写真を撮っているからこそ仕事を続けたいという強い気持ちはある。写真のおかげでさまざまな扉も開くようになって、シーラカンスのプロジェクトのスポンサーも得ることができた。シーラカンスの写真を持って帰ってきたおかげでさまざまな事が起きたし、 写真はとても大事だ」
―― 水中写真を撮るにあたってのアドバイスはありますか?
「写真家が撮る写真は写真家からではない、写真家が作成したものではない。写真は被写体から来る、被写体が作成するんだ。多くのダイバーは水中写真を撮って、『これは僕が撮ったものだ、僕の写真だ』と言う傾向があるが、水中写真で最も重要なのはダイバーじゃなくて被写体。だから、『この写真は僕の作品だ』と言うよりも、まずは、被写体を尊敬して、被写体のおかげで良い写真が撮れたという事をダイバーには理解して欲しい。そして、次に、『いい被写体を見つけた。じゃ僕はこれからこのカメラや被写体、光等を使ってどうやっていい写真が撮れるのだろうか』と考えるんだ。とにかく、まず重要なのは良い被写体を見つけること。」
――どうして深くまで潜るんですか?
「海は深いところで、ダイビングは深くまで潜るのが狙いではなく、長い間潜るのが狙いだ。長い時間潜っているといろいろな情報を持って帰ることができるから。
今日のダイビング業界ですごく問題なのはディープダイビングや危険な海況に挑戦する機会がない事。ダイビング業界は安全上の規制があるから危険性を宣伝したくないと思う。40m以上まで潜ると死んでしまうというショップもいるけど、40m以上まで潜れるよ!ダイビング業界は浅いポイントでのダイビングにばかり集中している。それは非常に大きな問題だ。
深海、流れが強いポイント、少し危険な海況でいっぱい潜るとより良いダイバーになれる。今の若いダイバーにチャレンジをもっと与えないとダイビングはそのうちつぶれると思う。」
―― シーラカンスと深海の世界について教えてくれますか?
「シーラカンスは前世紀の最も大きな発見だ。とてもユニークだ。6500万年前に絶滅したと思われていたからまさか見つかるとは誰も思っていなかった。古生物学者にシーラカンスの写真を見せたらものすごい反応を受けた。深海は太陽の光がわずかしか届かないところで、厳しい環境だ。そしてシーラカンスは必ず現れるわけではない。長い間出てこなかったり、出てきてもすぐに消えたり、そんな状況だったから少しでも撮影ができて光栄だ。
人混みの中で大好きな俳優が現れるのを待って、現れたら人と押し合いながらスマホで必死に写真を撮る。とにかく写真を撮らないとだめだ!シーラカンスを撮影していた時はそんな気持ちだった」
―― どこで潜るのが好きですか?
「一番好きじゃないところは人が多すぎるポイント。水が濁っていて、底が土だらけで、あまり生物がいない、ちょっとつまらないポイントが好きだ。まるで探検している気持ちになれるから。そういう気持ちになれるポイントが好きだ」
―― マリンダイビングフェアのトークはいかがでしたか?
「日本人はシーラカンスにはまっていて、シーラカンスの大ファンだとすぐに気づいた。日本のシーラカンスミュージアムの事も聞いている。マリンダイビングフェアにはたくさんの人が来て、その多くはシーラカンスの事を既に知っていたから来てくれた。それはとてもよかった。嬉しかったよ。」
―― 日本の海についてどういう印象がありますか?
「最近日本で潜ったけど、川にオオサンショウウオを見に行った。オオサンショウウオって、なんとなく生きているポケモンみたいだと思った!
日本の海で潜らなかったから、日本で潜ったとは言えないな〜。日本にいた時はダイビングよりも、山、ハイキング、アルコールばかりだったよ!(笑)でも地元の人にはすごく歓迎されて、それは本当にとても嬉しかった。」
インタービューを終えて
ローラン氏の映像や写真はわくわくするようなものばかりでした。
ダイバーとして目立つためには、単に写真を撮るだけでなく、何かの目標、夢やアイディアを持ち、最後まで一生懸命働いてそれを達成する事がすごく大事だとわかり、ローラン氏のスキル、やる気と情熱にとても感動しました。
ローラン氏がどれだけシーラカンスと深海を愛しているのかがADEX(アジアダイブエキスポ)でとても伝わってきました。
海の調査、保護や撮影に関わるためには、まず海を愛さなければいけません。そして、愛するためにはまず知らなければいけません。
だからローラン氏は深いところで長い間潜っています。
彼と話してそう実感しました。