ゼロからわかる潜水医学Q&A(第2回)

「減圧症って何?かからないためには?」ゼロからわかる潜水医学Q&A

セブ島のハナダイとソフトコーラル(撮影:越智隆治)

Q.潜水病? 減圧症? 潜水障害???

まず、潜水が原因で起こる障害を総じて潜水障害(diving injury)といい、減圧症もそのうちのひとつです。

減圧症は、ダイビングの後、身体内に気泡を生じた障害ですが、動脈ガス塞栓(arterial gas embolism)と鑑別困難なケースも多いため、いずれかはっきりしないときには減圧障害(decompression illness)と診断されます。

潜水病という言葉は、潜水障害、減圧障害または減圧症の代用語とされていますが、いずれの病態を指しているか明確でないので医学的には用いられません。

Q.どうして減圧症になってしまうの?

スクーバダイビングでは、通常、空気の入ったタンクを使用して潜ります。
空気の約79%は窒素ですが、この窒素が潜水中に身体に溶け込みます。

窒素は、潜水深度が深ければ深いほど溶け込みやすく、潜水時間が長ければ長いほど多く溶け込む傾向があります。
ダイビングの終盤に海面近くに浮上して、水圧がかからなくなると、それまで溶けていた窒素が身体内で気泡化します。
そして、この気泡化または気泡自体が身体に影響する事象を減圧症と呼ぶのです。

Q.減圧症にかからないためにはどうしたらいいの?

気泡を作らないためには、減圧速度(浮上速度)が非常に重要であり、多量の窒素が溶解していても、適切な浮上速度を守れば窒素の気泡化は起こらず、減圧症は発症しにくくなります。

減圧時に気泡化した窒素が、たとえ微量であっても身体内のどこかに留まってしまうと減圧症が発症してしまいます。

レジャ-程度の潜水(潜水深度が20m程度、1回の潜水時間が30~40分、1日1~2ダイブ)であっても、気泡(マイクロバブル)が出現することは珍しくなく、その気泡は、静脈系に集まり、心臓を通過して肺まで運ばれ、肺の毛細血管にトラップ(フィルター機能によって捕捉される)されます。

肺の毛細血管にトラップされる気泡の量が少なければ、肺塞栓の症状は出現せず、呼気として排泄されますので、減圧症にはなりません。

以上が、まずはおさえておきたい、減圧症の基本中の基本です。

次回は、もう少し詳しく減圧症のメカニズムをご紹介したいと思います。

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PROFILE
宮崎県日南市生まれ。
幼少より海で遊びことが好きで、高校時代に沖縄に釣りに行き、潜水をする漁師と出会ったのがスクーバダイビングを始めたきっかけ。

以後、大学は医学部に進学するも、休みの日には当時西荻窪にあったダイビングショップを手伝い、伊豆などでガイドをし、22歳でインストラクター資格を取得。

 大学卒業後、研修医時代にマスターインストラクターになり、現在も、昼は診療、夜は研究・実験の毎日で休みがほとんどない中、時間があれば海に行って、ダイビングや魚釣りをしている。
 
学生時代よりダイビングのルールの多くが医学に基づいたものであることに関心があり、主な専門医を取得した後28歳で上京。

 東京医科歯科大学等で研究に携わり、39歳で同大学院准教授、現在は故郷の宮崎に戻リ、医療法人「信愛会山見医院」で副院長となる。
 
■月刊マリンダイビング(減圧症何でも相談室)、月刊ダイバー(ドクター山見のダイバーズクリニック)で連載中。
 
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杏林大学医学部卒業
宮崎医科大学附属病院小児科、
宮崎県立宮崎病院小児科、
関東病院内科、
埼玉回生病院内科、
東京医科歯科大学大学院健康教育学分野准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)
等を経て現職
 
資格
●医学関係
 日本小児科学会専門医
 日本臨床内科医会臨床内科専門医
 日本高気圧環境・潜水医学会専門医
 日本プライマリ・ケア学会研修指導医
 日本プライマリ・ケア学会認定医
 日本体育協会公認スポーツドクター
 日本医師会認定健康スポーツ医
 
●海関係
 ・ダイビング関係
   CMAS TSSコースディレクター
   CMAS UHAコースディレクター
   NDAコースディレクター
   CMAS ADSマスターインストラクター
   CMAS JCSマスターインストラクター
  潜水士免許(国家資格)
 ・船舶
   一級小型船舶操縦免許
  第一級海上特殊無線技士免許
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