深海の世界に衝撃を受けて人生が変わった 〜「The Deep」展のクレア・ヌヴィアン氏インタビュー〜

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「深海の映像を見た時、本当に心臓が止まるかと思いました」

フランス人のクレア・ヌヴィアン(Claire Nouvian)さんは、2001年のあの衝撃の後、深海を広く知ってもらいたいという思いで、さまざま な研究者と協力し、2006年に深海の写真集を出版しました。

クレア・ヌヴィアンインタビュー(提供:ボニー)

クレア・ヌヴィアン(Claire Nouvian)

この成功を元に、深海生物の見本を集め、2007年に深海展示会The Deepをパリで初めて開催しました。

そんな「The Deep展」は2015年6月6日にもシンガポールで開催されます。

深海の神秘を明らかにしたいクレア氏に、その魅力や活動についてお聞きしました。

――― The Deep展は、 深海の生態系に対する認識を高め、深海保護の重要性に焦点を当てるのが狙いということですが、そもそも、何をきっかけに深海に興味を持つようになったのでしょうか? 

2001年にカリフォルニア州のMonterey Bay Aquarium Research Institute(MBARI)で深海の映像を見て衝撃を受けました。
これは、できるだけ多くの人に一刻も早く深海の驚くべき発見 を伝えたいと、早速その世界へ真っ逆さまに飛び込みました。

当時、一般の人は深海生物の驚くべき多様性なんて知らなかったので、テレビのドキュメンタリー映画製作、本の出版、展示会など、いろいろな方法でこの面白いテーマに取り組む事にしました。

2001年から2006年の間はドキュメンタリーと本からスタートし、その後数年かけて建築家、 グラフィックデザイナー、水族館デザイナーなど、さまざまな人と協力して展示会というアイディアが生まれたのです。

MBARIの映像を見た時は、本当に心臓が止まるかと思って……。

その時から、自分の知識と科学的ネットワークはどんどん拡大していき、そのおかげで、今年開催される素晴らしい展示会が可能になりました。

――― どの深海生物に一番関心を持っていますか?

それは難しい質問ですね!
展示会の生物はどれも違うので、まず来場者には標本のそばにあるキャプションや情報を読む事の重要性を強くお伝えしたいです。

あえて、一つ選ぶとしたら、Stylephorus chordates(「ステューレポルス」など)という魚かなあ。

チューブ状の目や大きな甲状腺腫、小さな口、何かペリカンのように見えませんか?
人間がスペゲティを食べるような感じで餌を吸い込むんです!

あまりにも珍しくて伝説だと思っていたので、展示会のためアメリカ人科学者Tamara Frankさんに標本をもらった時、もうめちゃくちゃ嬉しかったです!

他には、gulper eel(Saccopharynx sp.「フウセンウナギ」など)という、あまりにも珍しくて芸術品の様な生物もいます。

標本は生物学者Steven Haddockさんにもらったんです。
あごが非常に大きくて、自分より巨大な餌を飲み込むため胃が拡張するんですよ。

今回展示される標本は捕まえられる直前に大きな餌を飲み込んだため、胃が変形しちゃったんです。
餌の正体を知るためレントゲンを撮りましたが、消化があまりにも進んでいて、はっきりした結果が出てきませんでした。

Echiostoma barbatum(「ムラサキホシエソ」など)も2匹展示されます。

アメリカ人魚類学者Tracey Suttonさんにもらったもので、生物発光器官は全部完璧な状態です。
非常にデリケートな皮膚(皮?)にも傷が一切なくて、こんなに完璧な標本を見たのは初めてです。

深海生物は潜水艇の光から逃げるので、 一度も撮影されたことがないです。
それを考えると、こんなに珍しい生物が展示会の一部になっているのは私にとって非常に感動的です。

もう一つ見逃せないのは、Haplophryne mollis(「ユウレイオニアンコウ」など)。
頭に小さなツノがあり、目の真ん中に大きな点があります。

その他、恐ろしいAnoplogaster cornuta(「オニキンメ」)や大きな口を持つHimantholophus goenlandicus.(「チョウチンアンコウ」)も見てほしい。

チョウチンアンコウは怪物のようで頭から誘引突起がぶら下がっていて、それを動かして餌をおびき寄せます。
釣竿として使っているんですよ!

――― やはり、ひとつだけ挙げていただくのは難しいようですね(笑) 深海の住む生物への愛情をたっぷり感じましたが、深海はクレアさんにとってどういう意味を持つのですか。

深海を破壊から救うのは私の使命だと思っています。

ただ、本を出版した時に気づいたのが、深海にどんな生物が生存するのかをはっきりせずに、人々に海洋保護に関心を持ってもらうのは非常に難しいということ。

多くの人々は深海には何もないと考えていて、1977年に発見されて科学革命を起こした熱水噴出孔の事さえも知りません。

サンゴ礁が2000メートル以上でも生存できることを知らない人は、底引き網漁とかそういった課題に関心なんて持ちませんよね。
一般市民の教育を優先しなければいけないと思っています。

そういう意味でも、 この展示会は深海環境の豊かさと脆弱性の情報を、イメージや標本等ではっきり明かします。

壊れやすい深海環境の保護に対する私たちの義務や責任 を具体化し、特に将来の意思決定者である若い方をターゲットし、深海が直面する問題と保護の必要性を理解させるよう努力しています。

――― その他、どのようなプロジェクトに関わっていますか。

欧州委員会 は2012年に、深海漁業を持続的に管理する法的措置を出しました。
北東大西洋の深海保護を確保するためです。

具体的には、底引き網や刺し網など、海に対して、最も破壊的な漁具を徐々に廃止する事を提案したのです。

私は何年もこの法的措置に関わっているので、それを通して圧力団体などがどのように政治家と協力しているのかなど、いろいろ学ぶことができました。

――― BLOOM Associationについて教えてください。どういう活動をしていますか。

2005年にBLOOMを設立しました。
BLOOMは海を保護し、魚種資源に頼っている漁師たちの将来を保証するNPOです。

また、世界的食品安全や経済収支 などを確保する活動などいろいろあり、魚の乱獲を促進する補助金も存在するので、それにどう直面するか、どう戦うかなど話し合っています。

BLOOMは低い予算で活動しているのにも関わらず、効率が良いですよ!

――― 深海の世界に衝撃を受けて以来、精力的な活動を続けていますが、深海の研究や本の出版によって人生は変わりましたか。

がらりと変わりました!

自然や環境がどれだけ脅かされているのかすごく認識するようになって、やっぱり人間はどこかで行き詰まったと思います。

私たちの地球での役割を根本的に変えて、 次世代に関して責任をとらないと、転換点を見逃してしまいます。

ある意味ではもう見逃していると思うので、壁にぶつかるのではなく、人間の素晴らしい知恵や知能をうまく利用し、新しい社会的経済的モデルを建てることができたらと思います。

――― 将来のプロジェクトや予定、アイディアについて教えてください。

世界を変えたいです!

でも人間はそんな事、一人で出来ないですよね。
だから私たちの役割は BLOOMの活動のようにシステムを変えるような有意義な行動から始まると私は考えています。

――― ありがとうございました。同じ海を愛する日本のダイバーの皆さんも、ぜひ深海や海洋保護に興味を持ってくださいね。

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PROFILE
イギリス生まれ、8歳から13歳まで日本で育ったイギリス人と日本人のハーフ。

2006年に再度来日し、ナレーター、翻訳者、ライターとしてNHKテレビ、ラジオ、日本駐在外国人向けのウェブサイトなどで活躍。
2010年ニューカレドニアで体験ダイビングをしたのを機にライセンスを取り、2011年以降定期的に日本で潜っている。

日本の海の魅力、多様な生物や地形等に感動し、海外であまり知られていない日本のダイビングを紹介する目的で、2011年にブログ(Rising Bubbles)を立ち上げた。

外国人向けのサイトや海外のダイビングサイトで日本のダイビングスポットを定期的に紹介しており、スコットランドのセントアンドリューズ大学で水産養殖も勉強中。

「ダイビングをきっかけに、日本の海がどれだけ魅力的なのかをすごく実感しました。この連載では、たくさんの情報を届けていきながら、海外からのトピックを取り上げ、日本と海外の違いや海外の視点等をシェアするのを楽しみにしております」
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