世界で唯一!オーストラリアのシャチ研究家が語る生態の真実③

これまで二回にわたって西オーストラリア唯一のシャチ研究家ジョンさんに、シャチとザトウクジラの子育て、生活模様、家族構成、食べ物など様々なテーマでお話を伺ってきました。

世界で唯一!オーストラリアのシャチ研究家が語る生態の真実①
世界で唯一!オーストラリアのシャチ研究家が語る生態の真実②

第3回目となる今日は気になるシャチとザトウクジラの切ない関係性、そしてジョンさんが関わっている「ザトウクジラ・センチネル・プロジェクト」のお話を伺っていきます。

John Totterdell Interview

-ワンシーズンの研究の流れとは?

研究のシーズン中は毎日海に出ます。
クジラや大型動物を見つけ、追跡する専用のヘリコプター(スポッタープレイン)や他の研究仲間の助けを借りながらシャチやクジラの近くへ行き、写真や生体検査のサンプルを取ります。

シャチ研究で大切なことは「どれだけ多くの時間を彼らの隣で過ごせるか」です。

今のところ100時間に及ぶ時間をシャチと一緒に過ごしてきました。
このまま過ごす時間が増えて行くと、より正確に狩の頻度と狩の成功率を割り出すことができます。

ニンガルーリーフでは、シャチがどのくらいの確率でザトウクジラの赤ちゃんの狩に成功しているかを主に研究しています。
私たちの予想では、1シーズンごとに1,600~2,000頭ほど生まれるザトウクジラの赤ちゃんのうち、400頭がシャチに捕食されていると考えています。
ということは、毎年20~25%のザトウクジラの赤ちゃんをシャチが食べていることになります。

これは母親や子にとってはたまったものじゃありませんが、ザトウクジラ全体でみると良いことと言えます。
ザトウクジラの人口は今や捕鯨以前よりが増えていると言われています。
そして、その人口が安定するために大きな役割を担っているのがシャチです。
シャチが捕食をすることによって、ザトウクジラが餌不足で困ったり、子供を育てる海域が混みすぎたりしないように自然と調整しているのです。

シャチの狩の成功率は60%ほど。
ザトウクジラの親子は多くの場合、エスコートと呼ばれる成人のオスに守られているため、シャチが子供を捕食するのは一苦労なのです。

ニンガルリーフに約4万頭ほど生息すると言われているザトウクジラ。
それに比べてシャチはたったの26頭。

シャチがザトウクジラの赤ちゃんを捕食するシーンは初めて目撃すると残酷に見えますが、シャチだって生死がかかっています。
思うように狩がいかないことが続くと、飢えて死んでしまうシャチの子供だっているんです。
だから今は、シャチの狩に遭遇すると「がんばれ!」って思わず彼らを応援してしまいます。

-ザトウクジラ・センチネル・プロジェクトとは?

シャチの研究は数年で終わるものではありません。
世界中どこを例に取っても、何十年にもわたる研究を続け、データを増やし、シャチの健康状態や人口を割り出しています。

しかし、世界には水質汚染や餌の減少、騒音によりシャチの人口が減っている地域もあります。
例えば、カナダのブリティッシュ・コロンビアではサダンレジデント(南部の定住型)と呼ばれるシャチが、餌のサーモンが枯渇したことにより数が減っています。
また、アメリカのワシントン州でもシャチの数は減少しています。

私の研究のメインはシャチですが、ザトウクジラが彼らの餌であることから、ザトウクジラの研究も活発に行なっています。

今、関わっているプロジェクトの一つに「ザトウクジラ・センチネル・プロジェクト」があります。

これは南半球に生息するザトウクジラが食べる餌を頼りに、南極の氷と周辺の生物の状態を研究しようという5年がかりのプロジェクトです。

前述したように、ニンガルリーフに訪れるザトウクジラは南極でオキアミを食しています。
なので、南半球にまたがる全ての海域(南アメリカ・アフリカ・オーストリア)でザトウクジラの脂肪の一部を採取し、生体検査を行っています。

生体検査のやり方としては、ザトウクジラが北上して、子供を育てる海域に入ったときに脂肪の一部を採取するんです。
というのも、哺乳類であれば何かを食したとき、食物に含まれているタンパク質は脂肪の中に留まります。
これは人間も同じです。
その脂肪酸タンパク質が実際に脂肪の中で確認されるようになるのには数ヶ月かかります。

ということは、例えばオーストリアで採取した脂肪を分析すれば、ザトウクジラが数ヶ月前に何を食べていたのかを知ることができるのです。

月日とともにザトウクジラの餌に変化があることがわかれば、南極の氷の生態系の健康状態を知ることができます。

小さくてエビのような甲殻類であるオキアミは、地球の海洋生態系のエンジンを動かす燃料ともいうべき重要な役割を担っています。
魚や鳥からクジラまで、文字通り何百もの動物の餌の役割を果たしているオキアミですが、最近の研究では南極のオキアミの固体数が1970年代から80%も減少していることが分かっています。

出典:National Geographic

原因の1つは、地球温暖化。
海水の温度が上昇することによって南極の氷が溶け、オキアミの主食である海氷藻類が消失することによってオキアミの個体数が減っています。

ザトウクジラの生体検査を行ったときにオキアミの割合が少なく、他の魚類の割合が高くなっていれば、オキアミの数が減っている証拠になります。
ザトウクジラの食生活を知ることで、南極の氷の健康状態を解き明かすことができるのです。
今はまだプロジェクトが始まって3年目なので、また2年後に研究結果を話しますね!

ー ジョンさん、3回にわたるインタビュー、ありがとうございました!

今回ジョンさんにはシャチやザトウクジラのさまざなお話を聞かせてもらいましたが、いかがだったでしょうか。

日本では北海道や沖縄などの一部の地域を除けば、あまりなじみのない大物海洋生物たち。
彼らの研究を通して、海の生き物の神秘だけでなく、地球温暖化や水質汚染、娯楽線船などによる騒音がいかに海の生態系に影響を与えているかも知ることができます。

しかし、ジョンさんのシャチの話はこれで終わりではありません!
次回は世界で初!シャチがシロナガスクジラを捕食した瞬間をとらえた歴史的な日についてお話を伺います。
こちらもぜひお楽しみに。

Text:Kanae Hasegawa

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