作品ができるまでの軌跡に迫る 第2回日本水中フォトコンテスト準グランプリ・齋藤利奈さん×ダイビングショップSB・射手園芽さん

第3回を迎え、今年も作品募集が始まった「日本水中フォトコンテスト」。応募を検討している方や、今から作品を撮ろうとしている方、応募作品を選んでいる方、さまざまな方がいらっしゃることだろう。今回は、第2回でグランプリなしという結果のなか、準グランプリを受賞した、齋藤利奈さん(以下、利奈さん)と、撮影地の鹿児島の海を案内していたダイビングショップSB(以下、SB)のガイド・射手園(いてぞの)(めい)さん(以下、芽さん)へインタビュー。撮影までの道のりや作品への想い、これからフォトコンテストへチャレンジする方へのメッセージなどを伺った。

準グランプリ受賞作品:「トタン屋根に暮らす 〜海藻の森が育む命〜」

準グランプリ受賞作品:「トタン屋根に暮らす 〜海藻の森が育む命〜」

薄暗い「長水路」で
撮影時のエピソード

オーシャナ編集部(以下、ーー)第2回日本水中フォトコンテストでは準グランプリを見事受賞されましたが、どんなお気持ちでしたか?

利奈さん

受賞して作品が公開されたことで、私が感動した景色を多くの人と共有できたことが、とても嬉しかったです。海藻の森と人工物の共存に「考えさせられた」と言ってくださる方もいて、私の写真が海や環境について考えるきっかけとなったことは、感慨深いものがありました。

また、SBさんがこのポイントに潜れるように鹿児島県と交渉を重ね、許可を得てきたというお話も聞いていたので、その場所で撮影できたことにも感謝しています。

芽さん

普段ご案内している鹿児島の海が日本水中フォトコンテストと言う素晴らしい場で見て頂けたこと、そしてSBで撮影して頂いたりなさんの写真が評価され多くの方に見て頂けたことがとても嬉しいです。

オンラインにてお二人からお話を伺った。左上:利奈さん、右上:オーシャナ編集部・スイカ、下:芽さん)

オンラインにてお二人からお話を伺った。左上:利奈さん、右上:オーシャナ編集部・スイカ、下:芽さん)

ーー長水路でさまざまな写真を撮られていると思うのですが、この作品を選んだのはなぜですか?

利奈さん

この光景がとても印象深かったんです。上も下も海藻だらけの自然豊かな場所で、海洋ごみを利用して生きるゴンズイや、イソギンチャクといった生き物たちの力強さ、自然の持つ生命力に心が動かされました。一方で、人工物が海の中にあることには複雑な思いを抱きました。

また、多くの方に作品を見てもらえる機会なので、海藻の森の美しい景観と、そこで起こっていることの両方を伝えられる作品を届けたいという気持ちで選びました。

ーー撮影時に印象的だったことはありますか?

芽さん

普段、長水路では、光のシャワー(太陽光)が海藻の隙間から差し込む爽やかなシーンを狙って潜ったり撮影をしたりすることが多いんです。でも、この日は透明度もあまり良くなく、曇っていたので薄暗くていつもと違った雰囲気が印象的でした。

利奈さん

この日は曇りで、太陽光がうっすらと入るか入らないかという環境。まるで絵本に出てくる魔女が住む森のようでしたね。もちろん光が差すシーンも見させてもらっているんですが、そうでない今回のような海でも、生き物たちは生きているんだなと、楽しませていただいてました。

ーー撮影時にはどんなことを意識されていましたか?

利奈さん

生き物へのアプローチにすごく気を使いました。ゴンズイは近づくとすぐに逃げてしまうので、できるだけそっと近づいています。海底には火山灰が堆積していますし、イソギンチャクや他の生き物もいるので、水深3mしかない中で、いかに環境を壊さず撮影するかに心を砕きました。

初のドライスーツに大苦戦
海藻の森を見るために

ーー長水路は高いダイビングスキルを求められるポイントのようですが、実際のところどうでしたか?

芽さん

おっしゃるように、スキルがないと撮影が難しいポイントです。生き物や環境に負荷をかけないよう、巻き上げないフィンキックや中性浮力を絶対条件として、ご案内しています。

――利奈さんも初めはやはり苦労されましたか?

利奈さん

実は、SBさんに通い始めた頃は、ドライスーツを持っていなかったんです。でも、どうしても「海藻の森」を見たくて、冬が来る前に購入しました。初めは沈むことすらままならず、写真を撮るなんてもってのほか。それどころではありませんでした(笑)。

ーーそうだったんですね。それでも通って、2回目の冬にはこういった写真を撮ることができたと。

芽さん

いろんなポイントや撮影に挑戦されてたから、すぐに着こなして、こういうすごい写真も撮影できたのではないかと、一緒に潜っていて思います。

利奈さん

芽さんや他のスタッフの皆さんから、写真に限らず泳ぎ方や、環境、生き物への配慮など、たくさん丁寧に教えていただいたからです。生き物を見て、楽しみながらスキルを身につけることができました。

毎シーズン夢中になる
鹿児島の海との出会い

ーー数々のフォトコンテストで入賞されている利奈さんですが、この作品を撮られるまでの経緯を伺っていきたいと思います。まず、SBさんではいつ頃から潜られているんでしょうか?

利奈さん

今年で3年目くらいでしょうか。コロナ禍のオンラインイベントなどでSBさんの写真を見たりお話を聞いたりして、鹿児島の海に興味を持ったのがきっかけです。

ーーどのくらいの頻度で行かれているんですか?

利奈さん

鹿児島の海は四季折々の変化が楽しめるので、季節ごとに通っています。最初は、桜島の麓にある錦江湾の、緑色の海にピンク色のアカオビハナダイが映える光景がとても独特で、それを撮影しに行きました。ですが、生き物豊かな夏場の南薩摩の海や、今回撮影した長水路の海藻の森など、どこに連れて行っていただいても、すごく楽しい素敵な海なので、気がついたら毎シーズン通って、その時に「旬」のものを見せていただくようになりました。

芽さん

私たちは大きく分けて、鹿児島県西岸の南薩摩と、桜島の麓にある錦江湾の2か所をご案内しています。撮影いただいたポイントは、旧鹿児島空港の防波堤の先に設けられた『与次郎ヶ浜長水路』という水路で、その閉鎖的な環境から、独特の生態系が見られる場所です。

桜島を望む『与次郎ヶ浜長水路』には毎年2月ごろになると海藻が発生し、海中にはさまざまな生き物が息づく(写真提供/ダイビングショップSB)

桜島を望む『与次郎ヶ浜長水路』には毎年2月ごろになると海藻が発生し、海中にはさまざまな生き物が息づく(写真提供/ダイビングショップSB)

芽さん

撮影時の2月は、海藻が繁茂し、水面まで覆い尽くされていますが、8月末〜10月中旬くらいにタコクラゲ、その後はサカサクラゲが大量発生するなど季節によって見られる光景がまったく異なるのが特徴です。

利奈さん

実は、今回の受賞作と第1回のフォトコンテストで準グランプリだった高谷さんの作品と、入選をいただいた私の作品も同じ場所で撮影しているんです。

第1回日本水中フォトコンテスト準グランプリ「タコクラゲの楽園~陸と海~」 撮影/高谷英雄 <a href="https://oceana.ne.jp/people/interview/140214" title="準グランプリ 高谷英雄氏「海の感動を、作品を通して人に伝えたい」">準グランプリ 高谷英雄氏「海の感動を、作品を通して人に伝えたい」</a>より

第1回日本水中フォトコンテスト準グランプリ「タコクラゲの楽園~陸と海~」 撮影/高谷英雄 準グランプリ 高谷英雄氏「海の感動を、作品を通して人に伝えたい」より

第1回日本水中フォトコンテスト入選「夜宴」齋藤利奈

第1回日本水中フォトコンテスト入選「夜宴」齋藤利奈

生き物と環境への思い
SBに通ったからこそ切り取れたシーン

ーーこれだけ通われているとなると、応募した他の作品も鹿児島で撮られたものが多かったですか?

利奈さん

5点まで応募ができたんですけど、ほとんどが鹿児島で撮影したものでした。SBさんの長年の観察とデータの積み重ねと、丁寧なガイドがあるからこそ、たくさんの素晴らしいシーンを見せてもらうことができましたし、自然と「この作品を出したいな」と感じるものが多くなるのかもしれません。

芽さん

SBとしてはお客様にきちんと生き物の理解を深めていただいた上で、観察して、撮影を楽しんでもらいたいと思っています。なので、オーナーの松田のブリーフィングが45分にも及ぶこともあるのですが、海では会話ができないので、この時間を大事にしています。

ーー芽さんがガイドをするときに、特に大切にされていることはありますか?

芽さん

環境や生物への配慮も忘れずに、自然のままの姿をお客様に案内することを心がけています。綺麗、可愛いというだけでなく、「その子が今どうしてそこにいるのか」、「どんな思いで生きているのか」ということも考えていただきたいんです。そのあとは、お客様がどういう風な角度でどこを切り取るのかなというのを楽しみながらご案内させていただいています。
それでも、初めて来られる方にはどの生き物のどんなシーンを案内しているのか伝わりづらいことも多いのですが、利奈さんは、何度も通っていただいているので、生き物の行動や重要なシーンをすぐに理解し、気付いていただいています。

利奈さん

私も、最初は「これだよ」と言われても、どう見ればいいのかわからないこともありました。私自身は海や写真の勉強をしたわけではないので、潜るたびにメイちゃんや松田さんの行動や姿勢からも学ぶことが多く、「海との向き合い方や生きものとの接し方を教えてもらっている」と思っています。

ーー今回の作品は、そういった積み重ねがあって撮れた1枚ってことなんですね。

利奈さん

はい。何年か前の私だったら、「美しい森」と「人工物に棲むゴンズイ」を対比させ、1枚の写真にしようとは思わなかったと思います。写真を始めたころは、綺麗な海を撮りたいと思っていましたが、都市に近い海で潜るうちに、人工物が海にある現実も目にするようになって。そんな中で、SBさんで海や生き物について教えていただいているからこそ、心に刺さったのではないかなと思います。

ーー利奈さんが撮影する時に大切にされていることなどはありますか?

利奈さん

私が心を動かされたものを撮ることを大事にしています。芽ちゃんや松田さんは、私がどんなテーマを持って写真を撮っているのかを知ってくれてはいるのですが、それだけではなく新しい視点を与えてくれるようなご紹介もあります(笑)。「どうぞ」と見せてもらうだけではなく、自分が感動し、誰かに見せたいと思ったりした時にシャッターを押すようにしています。
そして、SBさんが大切にされているように、海や生き物のことを理解し、大事にしながら撮影するようになりました。たとえば、生き物を触ったり、動かしたり、嫌がっているのに強い光を当てたりはしないことを心がけています。生き物たちのできるだけ自然な姿を写真に残したい、と思っています。教えてもらったからこそ、自分もその姿勢で向き合うようになりました。

一期一会を楽しみ、振り返る機会に
フォトコンにチャレンジする方へメッセージ

ーー最後に、これからフォトコンにチャレンジしようと思っている方へのメッセージを、いただけますか?

芽さん

大変恐縮なんですが、海を案内している立場として、本音を言うと、フォトコンに出すためだけに撮影することには少し違和感があります。フォトコンも素晴らしいですし、いい写真を撮るという気持ちは大事ですが、海の中では、その瞬間、その一瞬を大切にしてほしいと考えております。
また、生き物や海の環境があってこそだと思うので、生き物が嫌がっていないかな、とかそういう配慮や心を持って撮影に臨むことが、素晴らしい写真に繋がると思います。そういう中で、鹿児島の海にもし興味あれば来ていただけたら嬉しく思います。

利奈さん

海に関することは芽さんが話してくれたので、私は写真そのものについてお話しします。フォトコンに出す際に、撮ったときの気持ちを思い出したり、その時のダイビングを振り返ったりすることが、私にとってはとても大切なことです。結果につながればもちろん嬉しいですが、選ばれなかったとしても、その写真と向き合う時間が無駄になることはありません。

フォトコンに応募することで、気づきや学び、成長があると思います。振り返ることで、自分がどんな気持ちでその写真を撮ったのか、なぜその瞬間に心惹かれたのかを再確認できるんです。なので、応募を通じて成長できる機会として楽しんでいただきたいと思います。

――ありがとうございました。

第3回日本水中フォトコンテスト 応募作品募集中!

日本を代表する水中写真のコンテスト「日本水中フォトコンテスト」の第3回目が開催決定。現在、作品応募受付中! 日本を代表する写真家6名が審査委員を務めるこのフォトコンで、あなたも自身の作品を腕試ししてみてはいかがだろうか?

【概要】
●応募期間:2024年11月1日(金)~2025年1月14日(火)23:59
●発表:2025年4月(マリンダイビングフェア2025にて)
●応募費用:1点につき1,000円(税込)
●主催:日本水中フォトコンテスト実行委員会
応募・詳細は公式サイトから
▶︎日本水中フォトコンテスト公式HP
JUPC公式Facebook
JUPC公式X
JUPC公式Instagram

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齋藤利奈 Rina Saito
水中写真歴は約5年半。イルカが好きで海に興味を持つ。最初はログ付けのためにコンデジで写真を撮っていたが、プロの水中写真に感動したことがきっかけで、勉強するように。最近は、撮影用のアイテムを自作することにハマっている。コロナ禍をきっかけに、日本の海の魅力を知り、潜る本数が増えたそうだ。大阪府在住。

ダイビングショップSB
ダイビングショップSB
鹿児島市内に位置するダイビングショップで、桜島の麓、錦江湾と外洋で透明度の高い南薩摩をメインに松田康司さん、環さん夫婦とスタッフガイドの射手園芽さん、近藤日香里
さんの4名が案内してくれる。オーナーの松田康司さんは、ガイド会にも所属し、2024年10月には鹿児島の海の写真集『薩摩海記』を出版している。
〒891-0144 鹿児島市下福元町7641
TEL/FAX:099-262-5838
営業時間:10:00~19:00
店休日:不定休

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PROFILE
IT企業でSaaS営業、導入コンサル、マーケティングのキャリアを積む。その一方、趣味だったダイビングの楽しみ方を広げる仕組みが作れないかと、オーシャナに自己PR文を送り付けたところ、現社長と当時の編集長からお声がけいただき、2018年に異業種から華麗に転職。
営業として全国を飛び回り、現在は自身で執筆も行う。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。環境に優しいダイビングの国際基準「Green Fins」の導入推進を担当している。休みの日もスキューバダイビングやスキンダイビングに時間を費やす海狂い。
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