タツノオトシゴのハートマークを狙え! inブルーライン田後(第2回)

最終日のミラクル! タツノオトシゴのハートマークが目の前に! 激写ドキュメント

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 山崎さんが撮影したタツノオトシゴのハートマークの貴重な写真

山崎さんが撮影したタツノオトシゴのハートマークの貴重な写真

最終日のワンチャンスにかける男たち
さて、結果やいかに……

ここからは臨場感を味わっていただくため、当日の2人の会話と心の声をもとにドラマ仕立てでお届けします。

8:00 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

※編注:某海外ドラマの効果音を頭の中で再生してお楽しみください↓

山崎

卓哉さん、いよいよ今日です。
海の中でじっくり待つのは大丈夫ですか?

中村

過去に逆立ち状態で40分動かずに撮影していたことがあります。
待つのは全然苦じゃありません。

8:15 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

山崎

軽トラの荷台に積んだ12リットルのナイトロックス7本の写真撮っておきますか?(笑)

中村

午前中だけなのに2人でこの本数ですか?

山崎

1本はレギュを付けて予備として持っていきますので、その時は置いてあるものから吸って下さい。
いざという時に自分のエアが無いと予備タンクを引きずりながら撮る羽目になるので。

中村

なるほど、了解!

軽トラの荷台に積まれた12Lタンク7本

軽トラの荷台に積まれた12Lタンク7本

8:30 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

山崎

はやる気持ちを抑え、カメラの準備など、慌てると失敗するところはじっくり時間をかけます。

中村

カメラの設定は昨日のうちに決めて動かしていません。
撮影イメージはバッチリです。

8:40 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

山崎

(コーヒーを淹れようとするもやめる)
出発しますか!

中村

行きましょう!

8:47 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

いざ、出航!
tatu_012

8:50 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

「ゴイシワラ」に到着。

べた凪のゴイシワラ。これは期待ができる。

べた凪のゴイシワラ。これは期待ができる。

山崎

この予備のタンクの本数が少なくなっていくたびにハートマークの撮れる確率が上がるんです。
そう思えば引き際など考えてはもったないと思いますよね。

中村

そうですね! まずは肩慣らしに最初の1本行きましょう!

8:57 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

山崎

撮影のイメージはできてますか? 自分もカメラで卓哉さんの撮影シーンを撮ってもいい?

中村

ハートマークはフィッシュアイでぐっと寄って、太陽バックにシルエットで撮りたいというイメージはあります。
だからその時、ザキさんは写り込まないよう、自分の後ろ側に回り込んでもらえますか。

山崎

了解! ちなみにストロボ発光したら卓哉さんのストロボもスレーブで発光してしまいますか?

中村

ザキさんのストロボには同調しないので、後ろからならバシバシ撮っていただいて大丈夫です。

9:05 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

山崎

さあ行きますか! アンカーを確認する前に根に直行し、まずはタツノオトシゴの様子を見ます。

中村

ちょっと待って下さい。
どれだけ粘るかわからないので最後にもう一度小便を搾り出して来ます。

9:09 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

機は熟した。
いよいよ「ゴイシワラ」にエントリー。

潜降後、一直線にタツノオトシゴのペアのもとへ向かう。

中村

あれ? タツがいないぞ。
昨日の夜、たしかペアがいた場所はこの青いカイメンの横だったよな……まさかもう終わったのか?
いやいやそんなわけない。
いや、もしそうだったとしたら……ここへきてダンゴウオに気持ちを切り替えられるか?

山崎

どこだ? ここか? あれ? お、いたいた!
卓哉さんより先に見つけてなんとか面目は保ったぞ。
ほれタツノオトシゴはここだよ。

9:24 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

寄り添うタツノオトシゴのペア無事発見。

中村

おおおお! いたいた! よかったーまだ交尾は終わってなさそうだ。
しかし、この位置だと背景にこんもりした根のシルエットが写り込んで抜けが悪いなあ。
しかもフィッシュアイで寄った時に岩の出っ張りにポートが当たりそうだ。

山崎

(水中ノートに中村への指示を書く)
*すみません。内容はトップシークレットのためモザイクを入れさせていただきます。

中村

(横目でタツの動きを見ながら記録のため、その水中ノートを撮影)

tatu_014

9:25 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

タツの動きがあきらかに変化。

中村

ちょっとちょっと、これ立ち位置悪いよなあ、太陽の位置はザキさんの後方じゃないか。
逆側に回り込む時間はあるのか? ザキさんに伝えねば!

奥のこんもりとした岩山が背景に被り、さらに手前の海藻や岩の凹凸が邪魔

奥のこんもりとした岩山が背景に被り、さらに手前の海藻や岩の凹凸が邪魔

山崎

(また中村へ水中ノートを見せる)
最終段階です〜。

tatu_016

中村

え? まじ!? でも待つのは大丈夫かと言っていたよな。
ここからが長いんだなきっと。
でも今動くのは得策じゃない、イメージは違うがこの位置で待つしかないか。

9:26:10 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

タツのメスがオスを誘う行動に!

中村

え??? 何今の?? これ? もしや、もう交尾するの?

(ザキさん、なにやら書きかけるも、突如水中ノートをその場に投げ捨てる)

中村

ザキさーん! その水中ノート、画角に入る!!!

9:26:42 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

そして、ついにオスメスほぼ同時に海藻から飛び立つ。

中村

ええええ! もうきたのか!? あれ? タツの飛び立つ高度が予想より低い。
しかもメスの尾ひれが海藻から離れていないし、ザキさんこれもう寄っていいよね?

山崎

(ごそごそとハウジングを構える姿が横目で見える)

9:26:47 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

ついに! 念願のハートマークに!

中村

よし! GOだ! あーーー! やっぱり手前の岩にポート当たるし! これ以上寄れない。
しかもハートに抜くにはもう少しレンズを右に振りたいが…
あー! ザキさーん…(笑)

tatu_019

その頃、ザキさんは……

山崎

あれ? カメラのISO、昨日のナイトダイビングの設定から変えてねー!
しかもストロボの電源もオンになってないし…。
(真っ白に飛んだ中村の撮影している姿が液晶に浮かび上がる。ファインダーをのぞき込みながらでも白とびしているのがわかり、あわてて絞りをくるくると回すも、時すでに遅し)

ザキさん撮影の中村カメラマン。白飛び……いや、ハイキーで素敵な写真ってことでひとつ

ザキさん撮影の中村カメラマン。白飛び……いや、ハイキーで素敵な写真ってことでひとつ

9:26:52 ピ・ピ・ピ・ピ・・・

メスからオスへ卵の受け渡し完了。
それを見届けた人間のオス2人、玉砕……

中村

凄い! ホント感動! しかしこんなに早いのか。
ハートになったのは数秒じゃないか? あー素直に喜べない。
ごめんなさいザキさん。やっぱり逆側に回り込むべきだったなあ……
くやしいなあ!!

山崎

撮影中の卓哉さんのフィッシュアイのレンズ面が見えた。
ということは俺のストロボ見切れてるんじゃないか?
電源入っていないストロボを広げてしまった(笑)すまん、卓哉さん!

安全停止中、ザキさんは私にストロボが見切れていたか聞いてきた。
だが、私はそんなことより自分の立ち位置の悪さ、攻めすぎたレンズの選択を悔やんでいた。

しかし、こんなにあっけなく終わるとは。
あまりの予想外の展開にあきらかに動揺している2人だった。

その後、水面から顔を出す時の2人の第一声はこうだ。

山崎

いやあ…

中村

あー…

喜んでいいのか悔やんでいいのか、お互い微妙なテンションのまま無言で様子見が続く。
2人の心境を表すかのように突然ザーザー降りの雨が空から落ちてきた。

折りたたみチェアを出してもらうも、なぜか2人とも座らずその場に立ち尽くし見つめ合う。
長期戦を覚悟して、朝、コンビニで買ったおやつのマシュマロを私は一気喰いし、ザキさんはカロリーメイト2箱をなぜか続けて一気に頬張る。

ラストダイブ

感動と後悔で抜け殻のようになった2人は気持ちを切り替えて1時間後同じポイントで別のペアを探すことにした。
そしてだいぶ離れた根から、なんと行方不明になっていた紅白のメスの個体が見つかった。

tatu_020

私は親指と小指を交互に差し出した後、最後に親指を立てオスはいないか? と合図を送る。
ザキさんも必死に探してくれるも近くにはおらず。
しかし最後の最後で行方不明だったメスに出会うなんて、なんとも意味深な幕引きであった。
船に上がると私もザキさんも考えていることは同じだった。

山崎

今回のペアの出産と2サイクル目のハートマーク撮りに来ますか?

中村

このままでは引き下がれない、ぜひよろしくお願いします。

いろいろとあり、正直今回はタツの写真はお蔵入りしようか悩んだ。

しかし自然相手ではこんなやり取りは日常茶飯事であり、そんな舞台裏のハプニングを伝えることで少しでもその場の臨場感を味わって欲しいと思いたった。

こんなプレッシャーを毎年何度も繰り返してきているのだから、ザキさんはやっぱりすごい!
今更のフォローですが(笑)。

この先もまだ続きもあるということで、自分への戒めとして証拠写真程度に収めたタツノオトシゴのハートマークの写真を載せることにする。

tatu_021

 

最後の打ち上げにて

中村

船に積んだタンクの本数が減ってきたらハートマークに出会う確率が上がるんですよね(笑)

山崎

いやあ、予想外。
エントリーして15分以内に終わっちゃいましたね。

次回はそんな粘りの末にハートマークを激写してみたい。
いや、必ず激写するので見届けてほしい!

山崎

出発前、コーヒーを淹れていたら、そもそもハートマークに間に合わなかったよなあ。

中村

たしかに、アンカーの確認を後回しにしてタツノオトシゴへ直行したり、さすがザキさん!

このコーヒーとアンカーのくだりを何度も語るザキさんのドヤ顔が忘れられない。

こうして男たちの夜はふけていったのであった。

枝豆をタツのハートマークに見立てて撮影を振り返る中村

枝豆をタツのハートマークに見立てて撮影を振り返る中村

To be continued…

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writer
PROFILE
1975年東京都生まれ。

10才の時に沖縄のケラマ諸島でダイビングと出会い海中世界の虜となる。

師匠は父親である水中写真家の中村征夫。
活動の場を広げるため2001年に沖縄に移住。その頃から辺野古の海に通いながら撮影を始める(現在は拠点を東京に置く)。

一般誌を中心に連載の執筆やカメラメーカーのアドバイザーなどの活動もおこなう。
最近ではテレビやラジオ、イベントへの出演を通じて、沖縄の海をはじめとする環境問題について言及する機会も多い。

2014年10月にパプアニューギニア・ダイビングアンバサダーに就任。

■著書:『わすれたくない海のこと 辺野古・大浦湾の山 川 海』(偕成社)、『海の辞典』(雷鳥社)など。
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