辺野古・大浦湾を潜る。大浦湾の多様な環境とサンゴの白化

米軍の新基地建設が進む辺野古・大浦湾(沖縄県名護市)のレポート第5弾。
生物多様性の宝庫でジュゴンの北限の生息地でもある辺野古・大浦湾は、米軍の新基地建設に向けた埋め立て工事や軟弱地盤の改良工事が進み、環境悪化が懸念されています。今年の沖縄は秋の水温が高く、昨年に引き続き大規模なサンゴ白化現象が確認されました。そんな大浦湾の現状を、ガイドや水中映像撮影などで精力的に活動する長谷川潤さんに取材・レポートしていただきました。

大浦湾の多様な環境の下で生きる生物たち

大浦湾の多様な環境の下で生きる生物たち

はじめに

11月21日から23日の3日間、主にアオサンゴ群集でマーメイドスイムの撮影をするために大浦湾を潜りましたが、スキンダイビングツアーも実施し、ゲストと一緒に数ヶ所のポイントを潜って撮影を行いました。今回はその時に見た大浦湾の現状について報告いたします。

大浦湾マップ

大浦湾マップ 参考:「辺野古・大浦湾 アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由(わけ)」(日本自然保護協会・WWFジャパン・国士舘大学地理学研究室・沖縄リーフチェック研究会・じゅごんの里・ダイビングチームすなっくスナフキン)

上のマップの通り、大浦湾およびその周辺には「サンゴ礁」「海草藻場」「マングローブ・干潟」「深場の泥地」といったさまざまな環境が約10平方キロメートルの狭いエリアに存在し、多様な生物相をはぐくんでいます。そこには実に約5300種もの生物が生息しており、中でもサンゴは約400種が確認されています。
今回潜って撮影したのは、赤い点線で囲んだ3ヶ所。中でも大浦湾の北東側に位置する砂地は、今回初めて潜るポイントでした。
参考:「(PDF)辺野古・大浦湾 アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由(わけ)

チリビシのアオサンゴ群集とハマサンゴの仲間

白化したアオサンゴ群集(撮影;2025年11月22日)

白化したアオサンゴ群集(撮影;2025年11月22日)

11月22日に潜った世界最大級のアオサンゴ群集は、秋以降の高水温が原因と思われる白化現象で、まるで雪山のように見えました。もちろん群集のすべてが白化していたわけではないのですが、昨年の12月に潜った時の白化(参考:2024年12月の大浦湾レポート)と比較しても明らかに白い!

白化したアオサンゴ群集(撮影;2024年12月3日)

白化したアオサンゴ群集(撮影;2024年12月3日)

白化から復活したアオサンゴ群集(撮影:2025年3月5日)

白化から復活したアオサンゴ群集(撮影:2025年3月5日)

一昨年(2024年)は日本全国で夏の早い時期から海水温が高い状態が続き、沖縄のみならず伊豆半島や伊豆諸島でも大規模なサンゴの白化が見られ、白化したサンゴの多くが死滅してしまいました。ですがアオサンゴは他のサンゴに比べて白化への耐性が高い(=白化しにくく、白化しても復活する可能性が高い)ため、昨年の12月に白化していた大浦湾のアオサンゴ群集も今年3月にはほぼ復活していました(参考:2025年3月の大浦湾レポート)。

昨年(2025年)は、本州の海は一昨年ほど水温が上がらず、顕著な白化現象は見られなかったようですが、沖縄では9月くらいから水温が一気に上昇し(台風が来ないことが大きな原因と考えられています)、アオサンゴ群集は10月から白化してしまったそうです。前述の通り、アオサンゴ自体は白化に強いと考えられているので、おそらく死滅することなく復活してくれるのではないかと思います。

※アオサンゴはソフトコーラルの仲間(八方サンゴ亜綱)なのでその他のサンゴ類(造礁サンゴ、六方サンゴ亜綱)とは白化の原因も異なると考えられています(日本自然保護協会 安部真理子氏のSNSより)

アオサンゴ群集の中にあるミドリイシ属のサンゴ(枝サンゴ)も白化(撮影;2025年11月22日)

アオサンゴ群集の中にあるミドリイシ属のサンゴ(枝サンゴ)も白化(撮影;2025年11月22日)

アオサンゴ群集の中にはミドリイシ属など他の種類のサンゴも多く見られます。この群集は、かつてはアオサンゴのみで形成されていたそうですが、「弱ってきたところにさまざまなサンゴ類やスナギンチャクなどが入り込んでいる」(日本自然保護協会 安部真理子氏のSNSより)とのこと。しかし浅いエリアでは、それらのサンゴもほぼすべて白化していたように見えました。これらのサンゴはアオサンゴほど白化への耐性がないと考えられているため、復活は難しそうです。でも前述の安部氏のコメントの通り、これらはアオサンゴが弱ったところに入り込んだサンゴなので、アオサンゴ群集が元通りになるためには、むしろ良いことだと言えるのかもしれません。

フカアナハマザンゴ①(撮影:2025年11月23日)

フカアナハマザンゴ①(撮影:2025年11月23日)

フカアナハマザンゴ②(撮影:2025年11月23日)

フカアナハマザンゴ②(撮影:2025年11月23日)

「チリビシ」のアオサンゴ群集の隣には、「傘」がいくつも折り重なったような不思議な形の「フカアナハマサンゴ」が砂地の海底に鎮座しています。近くにあるアオサンゴ群集やミドリイシ群集がかなり白くなっているのに対し、フカアナハマサンゴは一部が白化しているのみでした。

「サグラダ・ファミリア」の愛称を持つハマサンゴの仲間(撮影:2025年11月23日)

「サグラダ・ファミリア」の愛称を持つハマサンゴの仲間(撮影:2025年11月23日)

フカアナハマサンゴのすぐ近くには、「サグラダ・ファミリア」の愛称を持つ不思議な形をしたサンゴが。このサンゴはハマサンゴの仲間ということは分かっていますが、詳しい種類は遺伝子を調べないと分からないのだそうです。ちなみに大浦湾のアオサンゴ群集も昔からその存在自体は知られていたそうですが、遺伝子を調べてみるまで群体が同一の遺伝子型を持っているということはわかりませんでした。大浦湾に生息する400種類ものサンゴの中には、アオサンゴ級の貴重な種が隠れているのかもしれない!と考えるとロマンを感じます。

ちなみにハマサンゴの仲間も白化への耐性が高いと言われていて、この2つの巨大で個性的なサンゴは、2年続いた水温上昇をものともせず、その威容を保持していました。

チリビシのミドリイシ群集

「チリビシ」浅瀬のリーフエッジ(撮影:2025年11月23日)

「チリビシ」浅瀬のリーフエッジ(撮影:2025年11月23日)

アオサンゴ群集があるエリア一帯は「チリビシ」と呼ばれていて、かつては美しいサンゴ礁が広がる大浦湾随一の人気ダイビングポイントだったそうです。が、今回スキンダイビングで潜った場所(アオサンゴ群集の北西にある浅瀬)のサンゴは、ほぼ壊滅状態に見えました。燦々と降り注ぐ陽光に照らし出された茶褐色のリーフエッジ。目を背けたくなる光景です…。

死滅したサンゴの上で群れ泳ぐアマミスズメダイ(撮影:2025年11月23日)

死滅したサンゴの上で群れ泳ぐアマミスズメダイ(撮影:2025年11月23日)

白化を通り越してほとんどが死滅してしまったミドリイシ群集の上では、アマミスズメダイが群れ泳いでいました。

白化を経て死滅してゆくサンゴ①(撮影:2025年11月23日)

白化を経て死滅してゆくサンゴ①(撮影:2025年11月23日)

白化を経て死滅してゆくサンゴ②(撮影:2025年11月23日)

白化を経て死滅してゆくサンゴ②(撮影:2025年11月23日)

多くのサンゴが死滅してしまったエリアにも、まだ生きている石膏細工のような白化サンゴが散見されます。このエリアでは、昨年の大規模白化で、多くのサンゴが死滅しました(参考:2024年12月の大浦湾レポート)。これに追い打ちをかけるような今年9月以降の高水温で、昨年生き残ったサンゴも、そのほとんどが白化してしまったようです。

美しいサンゴに彩られたかつてのチリビシで潜ってみたい!と切に願えど…ぼくが生きている間に、そんな日は果たして来るのでしょうか?

安部の海草藻場とコブハマサンゴ

日が前後しますが、初日の11月21日は、大浦湾の隣の安部海岸で潜りました。7月にも訪れたこの海岸の浅場には海草藻場が広がっていて、かつてはジュゴンの採餌場だったそうです(参考:2025年7月のレポート)。今回も水深2mほどの遠浅な海底で、ボウバアマモやウミヒルモ(ジュゴンの大好物!)などの「草原」を見ることができました。

海草藻場のイボハタゴイソギンチャクとクマノミ(撮影:2025年11月21日)

海草藻場のイボハタゴイソギンチャクとクマノミ(撮影:2025年11月21日)

イボハタゴイソギンチャクの一軒家に住まうクマノミを発見!
海草藻場は小さな生き物たちの「ゆりかご」的な存在でもあります。海底には一見何もいないように見えても、丁寧に探してみると様々な生き物に出会うことができます。

雄大な大浦湾のサンゴ礁はもちろん素敵ですが、安部の海での「宝探し」的なスキンダイビングも、とっても魅力的なのです。

コブハマサンゴの周囲に群れるトゲチョウチョウウオの群れ(撮影:2025年11月21日)

コブハマサンゴの周囲に群れるトゲチョウチョウウオの群れ(撮影:2025年11月21日)

沖に向かうと海草の密度は減り、白い砂地の中に大きな丸いコブハマサンゴが見られるようになります。サンゴの周囲には、各種のチョウチョウウオやスズメダイの仲間が群れています。あまり群れを作る印象がないトゲチョウチョウウオがたくさん群れている場所もあり、コブハマサンゴは「砂漠の中のオアシス」のような感じになっていました。

コブハマサンゴ(撮影:2025年11月21日)

コブハマサンゴ(撮影:2025年11月21日)

ほぼ球形の大きくて立派なコブハマサンゴを発見!しかしこのコブハマサンゴ、遠浅で水温が上がりやすい安部海岸(7月に潜った時は30℃を超えていました)に生息しているにも関わらず、どの群体もまったく白化していません。コブハマサンゴの白化耐性が高い理由については、以下のように考えられています。

●共生藻(褐虫藻)のタイプが強い
高温耐性の高い褐虫藻を共生させていることが多い。このため水温が上昇しても褐虫藻との共生関係が壊れにくく、白化しにくい。

●組織が厚い
厚い組織が、熱ストレスや強い光、一時的な環境変化に対する緩衝材のような役割を果たしている。

●代謝が安定している
エネルギー消費が比較的低く、白化してエネルギー供給が断たれても長期間耐えることができる。

海草がまばらに生えた砂地に静かに鎮座するこの丸い物体からは、したたかで力強い生命力のオーラを感じました。

砂地

砂紋が美しい砂地(撮影:2025年11月23日)

砂紋が美しい砂地(撮影:2025年11月23日)

11月22日の午後、グラスボートで汀間漁港からチリビシへ向かう途中に見つけた、砂紋が美しい真っ白な砂地の海。ゲストの皆さんと「明日はここで潜ってみたいよね!」と盛り上がり、23日の午前、チリビシでの撮影が終わった後に、この砂地で潜らせてもらいました。

30m以上はあろうかという透視度の中、真っ白な砂地がどこまでも広がっている光景は、大好きなバハマの海を彷彿させます。魚や生き物を見かけることはあまりなく、白くて顔が丸い小さな魚が、砂地に掘られた巣穴の上でホバリングしているのをたまに見かけるくらいでした。(カメラのレンズが超ワイドのため、この魚は撮れませんでした…。)

砂地のウミヘビ(撮影:2025年11月23日)

砂地のウミヘビ(撮影:2025年11月23日)

そんなひたすら明るくて広々とした海で開放感を楽しんでいると…海底を這うようにウネウネと動き回る細長い生き物が視界に入ってきました。ウミヘビです。真っ白な砂地を背景に、白と黒の規則正しい縞模様が美しく映えます。自然が作り出したアートにしばし見とれるひと時。

息を吸うために水面に向かって浮上するウミヘビ(撮影:2025年11月23日)

ウミヘビはしばらく砂地で餌探しをした後、水面に向かって浮上して行き、ポコッと顔を出して「息継ぎ」をしました。浮上した海面からは、対岸の新基地建設現場が見えます(写真左)。ウミヘビは、少しの間水面を泳いだ後、ふたたび海底に向かってゆっくり泳いで行きました。

大浦湾においては、多様な環境が豊かな生物相を育んでいることは知識としては知っていましたが、サンゴや海草藻場の印象が強く、こんな美しい砂地が存在していることは、正直なところ意外でした。
大浦湾の魅力の多彩さ・奥深さを再認識したワンダイブでした。

まとめ:大浦湾のサンゴ被度低下、そして強まる「想い」

チリビシのリーフエッジで潜るスキンダイビングツアーのゲスト(撮影:2025年11月23日)

チリビシのリーフエッジで潜るスキンダイビングツアーのゲスト(撮影:2025年11月23日)

この記事を書き始めた1月中旬、とても気になるニュースが飛び込んできました。
名護市大浦湾のサンゴ被度低下 4つの地点で過去最低値 普天間基地の辺野古移設工事海域近く(RBC琉球放送)

日本自然保護協会を中心としたチームによる「リーフチェック」(サンゴの健康状態の調査)によって、今回調査した4ヶ所すべての地点でサンゴ被度が低下した、との結果が報告されたのです。

※サンゴが着生可能な海底面(砂地や泥地を除く)のうち、生きたサンゴがどれくらいの割合(被覆率)で覆っているかを示す指標で、サンゴ礁の健康状態や豊かさを測るために使われる。

中でも、以下の一文は僕の心を激しく揺さぶりました。

「調査した4か所のうち『沖の瀬アオサンゴ群集』というポイントでは、サンゴの被度が去年より11.2ポイント減少し38.8%となっていたほか、水質の悪化に伴って増加するシアノバクテリアが大量に確認されたということです。」

RBC琉球放送 記事より

「沖の瀬」は、大浦湾の中でも基地建設現場に近く、建設工事による環境の変化を受ける可能性が高いと考えられている場所。長年大浦湾でリーフチェックを行っている日本自然保護協会の安部真理子氏は、記事の中で「サンゴの被度が減少している要因として気候変動の影響が考えられる一方で、移設工事が影響を及ぼしている可能性もある」と指摘。基地建設工事による自然環境の悪化がいよいよ現実味を帯びてきたな、と実感させられる記事でした。

写真① チリビシのアオサンゴ群集(撮影:2024年12月3日)

写真① チリビシのアオサンゴ群集(撮影:2024年12月3日)

写真② 死滅したチリビシのミドリイシ群集の中で生きる白化したイソギンチャクとクマノミ(撮影:2024年12月3日)

写真② 死滅したチリビシのミドリイシ群集の中で生きる白化したイソギンチャクとクマノミ(撮影:2024年12月3日)

2024年12月にはじめて辺野古・大浦湾を潜ってから約1年。アオサンゴの大群集を目にした時の感動、そして白化現象によって壊滅状態となったミドリイシ群集を見た時の悲しさを、今も昨日のことのように覚えています。そして今回の取材では大浦湾の新たな魅力を発見しつつも、1月にサンゴ被度低下のニュース…前向きな気持ちと切羽詰まった気持ちの両方から、この稀有な自然を守るための一助となりたい、という想いを強くしました。

※チリビシは基地建設工事の現場から比較的離れた場所に位置しているため、工事よる環境への影響は、今のところは小さいと考えられています。

地球温暖化による水温上昇と、基地建設による環境変化(水質汚染や潮流の変化などが想定されています)という2つの脅威に晒されている大浦湾の自然。どちらの脅威も、僕ら人間が作り出したものです。実はチリビシのアオサンゴ群集を見ていると、「そんな脅威なんてものともせずに、この後何千年も生き抜いていくのではないか」と感じることがあります。でも、生き物が本来持っているそんな力を信じつつも、やっぱり「人間が作り出した脅威は、自分たち人間が落とし前をつけなきゃ!」と思うのです。

これからも大浦湾に通い続け、この稀有な自然の魅力と「現状」について発信し続けていきたいと思います。

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PROFILE

海の美しさ・楽しさ、そして環境問題を映像や写真で発信することがライフワーク。
1992年に小笠原でスキューバダイビングとスキンダイビングを初体験して以来、海の魅力にどっぷりはまる。1997年からは御蔵島のドルフィンスイムに通い始め、イルカの魅力に取り憑かれる。2022年末に長年勤めていた科学館を退職し、ダイビングガイドの道に入る。
また2016年に、ドルフィンスイムガイドの草地ゆきと共に「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」を立ち上げ、鳥を捕食する御蔵島の野生化ネコを捕獲・譲渡する活動を行っている。

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