【ダイビング×SDGs】BSAC JAPAN:ダイビング事故ゼロ、海ゴミゼロを目指して〜指導団体が考える持続可能なダイビング産業〜
BSACは、1953年に「The British Sub Aqua Club」の略称で設立されたダイビングの教育機関です。
イギリス・ロンドンで産声をあげた“世界最古”の歴史を持つダイビング指導団体は、未来に向かってどんなアクションを行っているのでしょうか。
BSAC JAPAN ナショナルインストラクターの七尾慶一さんに、SDGsを視点に持続可能なダイビングを目指して取り組んでいる内容やその思いを聞きました。
2015年の国連サミットで採択された、2030年までに達成すべき世界的な開発目標のこと。
17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されている。
BSACが掲げる
大きな2つの目標
まず最初に、2030年にどういった目標を達成したいか七尾さんに問うと明確な2つの回答が返ってきました。
1、ダイビングにおける事故ゼロ
「Safety First」をスローガンに、事故に遭わないダイバーを育成できるインストラクターを育てること。
2、海の環境におけるゴミゼロ
海の魅力を伝える“我々”の力で、ゴミをなくしていくことこそが、自然環境保護につながってくると考える。
「難しい目標ではあるが、ゼロを掲げて行く。ダイビングを持続的に楽しんでいくためには、高い目標をもったうえで継続をして行きたいと思っています」とBSACの七尾さん。
さらに、「BSACのメンバーと協力しながら、全てのダイバーに周知と協力を賜ることで、目標を達成したい」と続けます。
その達成を目指し、BSACが特に取り組んでいるのが、SDGsの【目標4:質の高い教育をみんなに】と【目標12:つくる責任つかう責任】。
今回は、2つの目標について、具体的な取り組みを聞きました。
目標4:質の高い教育をみんなに
前述の「ダイビングにおける事故ゼロ」を目指していく上で、SDGsの「目標4:質の高い教育をみんなに」は欠かせません。
BSACは、基本理念でもある「Safety First」、つまり、“安全が全てに渡って優先される”をスローガンに、事故に遭わないダイバーを育成できるインストラクターを育てることに注力されています。
事故は、未然に防ぐことが重要です。
それを伝えるには、インストラクションの中でより実践的な解説をしていくことが重要となります。
そのため、特にITC(インストラクタートレーニングコース)のリーダーシップトレーニングの上級コースでは、この“未然に防ぐ”という項目をとにかく強く謳っているそうです。
具体的には、どういった施策を行っているか、順に見ていきましょう。
安全講習会
BSACは、各地域ごとに安全研修会を開いています。
ITCの中の“未然に防ぐ”という部分の打ち出し方のほか、安全に関する知識・技術をアップデートする機会を作っていくことを目的としています。
「ITCのカリキュラムも随時ブラッシュアップしています。最近で言うと、レスキューの手順において“とにかく早く岸にあげる”という指針を出しました。水面引き上げ後、3分以内であれば、陸上に引き上げCPRを実施することを優先させました」(七尾さん)
安全研修会では、こういった改定に関する最新情報も説明されます。
「この安全講習会は、各地域のインストラクターが集まることにも意味があると思うんですね。参加するインストラクター同士が顔見知りになることで、万が一、何かが起こった場合に手助けしやすい関係性が築きやすいですから」(七尾さん)
知っているお店ということだけで、いざという時に助け合いやすい環境を作り出す。
こういった機会づくりは、一見地味なように見えますが、現場目線の本質的な取り組みと言えます。
万が一でなくても、挨拶を交わしたり、お互いを手伝ったりしながら、日頃からコミュニケーションをとっていくことが、安全のベースアップにつながっていくのでしょう。
上級コースの学科講習会
上級コースで提供する難解な講習内容は、興味を持ってもらうように話すのは、難しいテクニックと言えます。
BSACでは、それを現場のインストラクターたちが、分かりやすくゲストに伝えることこそが一番大切と考えているそうです。
今年度からは、各店に訪問し、いかに知識の向上とダイビングをつなげて説明するかという部分をインストラクターに提供しています。
知識と技術の向上
七尾さんは、BSACメンバーの知識と技術の向上のため、インストラクターとして知っておかなければならない知識に加え、知っている気になっている知識の「なぜ」を深める解説していくと言います。
例えば、下記のような内容です。
●台風の定義とは?
●アルミシリンダーとスチールシリンダーでウエイトが変わる理由は?
「“なぜ”を理解しなければ、本質をついた理解とは言えないでしょう。自身の考える能力を高めることを意識しながら知識と技術を向上させるには、“なぜ”の理解が重要になります」(七尾さん)
項目として「こうしましょう」と指示するだけでなく、「なぜこうしたらいいのか」背景間で伝えることで、現場に応じた判断ができるようになってきます。
さらに、技術については、「どうしても浮上してしまうゲストがいた場合、どういう形で浮上すれば良いか」など、ケースに応じた細かいテクニックを伝えているそうです。
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ここまで、インストラクター視点での事故を“未然に防ぐ”ための施策を見てきましたが、一方で、事故はインストラクターが防ぐための心がけをしていれば良いものではありません。
そのため、BSACでは、ダイバー全体への安全啓蒙にも力を入れています。
目標12:つくる責任つかう責任
2つ目の目標「海の環境におけるゴミゼロ」を考える時に関係してくるのが、「目標12:つくる責任つかう責任」です。
「ささいなことかもしれませんが、クリアファイルを紙製のファイルに変更しました。また、ノベルティとして、オリジナルストローを制作しています。資源ごみとして再利用できたり、リユースできたりする物を使うよう意識して行きたいですね」(七尾さん)
海洋ゴミの関しては、今やダイビング業界内でも、多様な動きがあります。
そういった取り組みにも柔軟に協力しつつ、今後はイベント等を通して、さらなる活動促進に力を入れていくそうです。
少し「目標12:つくる責任つかう責任」とはずれますが、各ダイビングショップがビーチクリーンを行う際、事前登録さえすれば、ビーチクリーンのエクスペリエンスカードを無料で発行するという取り組みも行っています。
この点からも、包括的に「海の環境におけるゴミゼロ」に関して取り組む姿が見て取れます。
BSACが見据える未来
今回、SDGsを視点にBSACの七尾さんに話を聞いて、高い目標を掲げながらも本質と向き合いながら実直に歩みを進める姿に驚かされました。
そこには、海を提供する側としての矜持が見て取れます。
最後に七尾さんは、「環境が様々に変わりゆく中でも、ダイバーの“海に厳しくあれ”という部分をつないでいって、1人でも多くのダイバーを誕生させることを続けていきたい」と言いました。
SDGsでキーになるのは、“人”。
人と向き合いながら、高みを目指していくことが、ダイビング業界全体の持続可能性にも繋がって行くのでしょう。
BSACのSDGs活動一覧
最後に、BSACが取組んでいるSDGs活動についてご紹介して結びとします。
【目標3:すべての人に健康と福祉を】
様々な年齢の全ての人に健康的に楽しんでいただけるスポーツとしてのダイビングを普及する。
・ダイビングを行っている年齢層は、下は10歳から上は88歳と幅広い。誰でもできるということを認知拡大させるため、SNSに楽しんでいる画像を掲載していく。
・ダイビング実施前に準備運動を実施して、動ける体づくりを推進する。
【目標4:質の高い教育をみんなに】
BSACのスローガンでもある『Safety First』を全てのダイバーが念頭に置き、事故に遭わないダイバーを育成できるインストラクターを育てていく。
・各地域ごとのインストラクターを集めて、安全の為に海での研修会を実施していく。(今年で5年目となる)
・本年度より、各店に訪問し、上級コースの学科講習会をインストラクター向けに実施。
・知識の向上と技術の向上を図る。
【目標5:ジェンダー平等を実現しよう】
女性がリーダーシップを取ってダイビング活動が出来る様に、女性の上級インストラクターを育成していく。
・英国でも進められている、キャンペーンに足並みを合わせ、SNSで#This Girl Can Diveのハッシュタグを用い、女性が楽しんでいる環境を露出する。
・インストラクター講習会でも女性の発言の場を広げ、活動の幅を広げる手助けを行う。
【目標8:働きがいも経済成長も】
継続してもらえるようなコースの開発と促進を行い、ダイバーの満足度を上げる。
・今までの当たり前を崩し、運動の機会が少なくなった現代に合わせた考え方を周知させる。限られた期間で終わらせる事を念頭に置かず、『できる様になること』を大前提として、目標も細かく区切る事で、達成感と満足度の向上に努める。
【目標10:人や国の不平等をなくそう】
外国客に対し、言葉の分かる書式類の開発を行う。
・英文.中文(簡体字/繁体字)の書式を用意し、メンバーが誰でも引き出せる状態にしている。
・業界内で協力し、インバウンド受け入れのガイドライン作成の協力を実施する。
【目標12:つくる責任つかう責任】
プラスチック製品の減少化とデジタル化の推進を図る。
・資料を入れるBSACのクリアファイルを紙に変更。
・オリジナルストローを作成し、プラスチックの削減に努める。
【目標14:海の豊かさを守ろう】
現在も実施している活動の認知度の拡大と環境保全に対する強い指導の実施。
・サンゴの海を後世に残していく(リーフチェック)
・海洋ゴミを減らす(ビーチクリーン)
・ビーチクリーン以外に、『目に見えたゴミは持って帰る』を全てのダイバーの基本となる様に、BSACインストラクターに考え方の普及に努める。
【目標17:パートナーシップで目標を達成しよう】
メンバーとの協力の下、全てのダイバーに周知と協力を賜り、目標を達成する。
・特に海洋ゴミの部分に関しては、業界内でも各自で動きがある。バラバラにならないよう、BSAC以外の指導団体や、ダイビングショップにも協力を依頼する。
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1953年に英国ロンドンで設立され、今では世界中に支部を持つダイビング指導団体。2014年には英国王室ウィリアム王子が総裁に就任。
「SAFETY FIRST(安全はすべてにわたって優先する)」を基本理念に、各プログラムの開発等も行っている。